52,Q出発ですか?Aはい。ガルダに帰還します。
リーンさんと別れて、市場で買い物を済ませてから来た場所は、昨日の貸船屋さんだった。
ここでボートを返却して、今度は馬を借りるらしい。
借りた馬はどうするんだろうか。
まさか返しに来るなんて事はないだろうが……どうすんだろう?
「主、行くぞ。」
「はーい……ねえ、コガネ君」
「なんだ?」
「馬って、借りた後どうするの?」
「ガルダの店に渡しに行く」
「……どゆこと?」
「大体の馬貸しは、大陸内の全ての国に店舗があるんだ。だから、馬を借りる時にどこの国まで行くのかを伝えると、その国の店舗に連絡が回って、ちゃんと馬が返ってきたかが確認出来る。
今回俺たちはケートスからガルダまで行くのに馬を借りるから、ガルダの店舗には馬が増えることになるが、ガルダは人の出入りが多いから、馬はすぐに別の誰かに借りられてまた別の国に行く。そうして巡っていくと、必要なところに必要数の馬がいる状態になるんだ」
コガネ君が、全ての疑問に先回りして答えてくれた。
つまり、大丈夫!ってことだな。うん。
深く考えるのはやめよう。
なんか頭パンクしそうだから。
「ところでさ」
「なんだ?」
「馬、2人乗ってガルダまで全力疾走とか出来るの?大丈夫なの?」
「2人くらいなら平気だ。あと、全力疾走はしない」
「そうなんだ」
よく分からんが、この世界の馬は丈夫らしい。
いや、向こうの世界の馬も丈夫なのかもしれないが、馬と関わる生活してなかったからな……
むしろしてる人の方が少ないだろうしな。
今の日本じゃ。
「さて。行くぞ」
「はーい」
歩き始めたコガネ君の後ろについていく。
サクラとモエギは肩に止まっている。
まあ、つまりいつもの光景だ。
……サクラとモエギがお供に加わってから全然時間経ってないんだけどね。
「主、あれだ」
「あれが……馬貸し?」
「そうだ」
「へぇー……賑わってるね……」
「まあ、需要はあるからな」
「確かに、需要はあるだろうね……」
世の中は需要と供給の関係で出来ているのである。
中学校の社会がまるでできなかったクセに、その授業だけは楽しんだ私はドヤ顔で呟いた。心の中で。
「馬の種類とかで金額変わる?」
「ああ。今回はそこそこのスピードとそこそこのパワーがあるヤツを借りていこう」
「コガネ君、その台詞なんか馬に失礼じゃない?」
「そうか?」
「うーん……断言は出来ないが……」
「……主が嫌なら、今度から気をつける」
ごめんね〜と言いながら考えるのは、
コガネは私に従順過ぎやしないか?
という事だ。
なんというか、私がやれと言ったらなんでもやっちゃう気がする。
しかもなんの躊躇いもなく。
……なんか怖くなってきたな……今度から言動に気を付けよう。
「主、どんな馬がいいとかあるか?」
「いや全く。まずもって馬選んだ事とかないし」
「そうか。じゃあ勝手に選ぶぞ」
「うん。お願いします」
……考えてみたら、馬に乗るの初めてなんだけど。
今回の旅で初めて馬車に乗った人間だよ?
馬とか乗れる気がしない。
……コガネいるし、どうにかなるか?
「らっしゃい!」
「上の下、その栗毛を」
「はいよ!どこまでだい?」
「ガルダだ」
「観光かい?」
「いや、帰るんだ」
「そうかいそうかい、気ぃ付けてな!」
「ああ」
短い会話の後、コガネ君が代金を払い、店の人が馬具にメモのようなものを括りつけてからコガネ君に馬の手網を渡した。
コガネ君は手網を引いて馬をこちらに連れてくる。
「重いかもしれないけどお願いします」
馬に軽く頭を下げると、馬が「気にすんな」と言ってくれた。
正確には言ってないが。
私が動物と会話出来るだけだが。
「主、荷物を渡してくれ」
コガネ君に言われ、荷物を手渡すと、コガネ君はそれを馬に付けられた荷物入れに収めていく。
全ての荷物をしまい終わると、コガネ君はヒラリと馬に乗った。
……カッコイイ……ヒラリだよ、ヒラリ。
どこの王子だよ。もしくは騎士だよ。
「主、引っ張り上げるから手を貸してくれ」
「はーい」
くだらない思考を頭の隅に追いやり、伸ばされたコガネの手を掴む。
コガネが私の手を強く握ったと感じた瞬間には、体が浮き上がっていた。
そしてジタバタする暇もなく、鞍に横座りになっていた。
なんという早業。
「行くぞ。主、捕まってろ」
「りょ、了解」
コガネ君にしがみつくと、馬がすぐに走り出した。
なんか怖い。めっちゃ怖い。
コガネ君にしがみついて体勢を安定させてから思ったのだが、サクラとモエギはどこだろう?私の肩にはいないのだが。
疑問には思ったが、まだ周りを見渡す余裕はない。
なので、魔力契約の利点を活かすことにした。
少し集中して自分の魔力に意識を向ける。
体の中心に小さな光の粒があるイメージだ。
この粒を体の外に少しづつ、薄く伸ばしていく。
一番最初に感じたのは、隣にいるコガネの魔力。
なんとなく感じ慣れている魔力なので、とても落ち着く。
それから少しだけ間を置いて、二つの小さな魔力を感じ取った。
サクラとモエギだ。
どうやら後橋の少し後ろ、馬の尻尾の付け根の少し前にいて、揺れる尻尾を眺めて楽しんでいるようだ。
良かった。ちゃんといた。
ちなみに、今やったこれが魔力波と言われるものらしい。
私の魔力波の届く範囲はかなり狭いので、2羽が40センチくらい上を飛んでいたらもう感知出来ない。
横には広げられるようになってきているのだが、どうしても上には広げられない。
なんでだろうな〜
「主、上手くなったな」
「ふえ?」
「魔力波。今使ってただろ?」
「あ、そっか、分かるのか」
「ああ。最初は半径45センチくらいしか飛ばせなかったのにずいぶん上達が早いな」
「ほんと!?」
「ああ」
やった。コガネ君に褒められた。
なんだろう、この、先生に褒められた感は。
すごく嬉しい。コガネ先生に褒められたぜイエーイ!
「主、はしゃぐのはいいが落ちるなよ」
「はーい」
……危なかった。
ガッツポーズしそうになった。
そんな事をすれば落ちる。普通に落ちる。
気を付けよう。
「で、主。門についたから、門番に顔を見せて」
「あ、うん」
背中をポンッと叩かれて声をかけられる。
素直に従い、少しだけコガネ君から頭を離す。
門番さんに通行許可を貰い、馬が門をくぐり抜けたところで再びコガネ君にぴったりとくっつく。
こうしていないと落ちそうで不安なのだ。
「主、少しスピードを出すからちゃんと捕まってろ。あと、なにかあったらすぐに言ってくれ」
「はーい」
「ピピッ」「チュン」
「うん、お願い」
私たちは魔物が来ないか上から見てるね、という2羽の申し出を有り難く受け入れる。
2羽が交代しながら監視するらしく、先にサクラが飛び立った。
少しだけ顔を動かして空を見上げると、サクラは既に見えなくなっていた。
元が小さいからね、すぐに見えなくなっちゃうね……
……それにしても風が強いな。
向かい風とかじゃないと思うのだが、馬が相当のスピードを出しているのか、かなり強い風が少しだけ動かした顔に当たる。……ちょっと痛い。
そんなこんなで走り続けること、多分15分くらい。
私はだいぶ馬に慣れて、周りの風景を見渡せるくらいには進化していた。
ちなみに横座りから、普通に跨る状態になっている。
コガネ君も、流石にもう大丈夫だと思ったのか少しくらいなら体を前のめりにしても怒らなくなった。
段差とかがある時は馬が教えてくれるので、そんな時だけコガネ君にしがみつけばいいのだ。
私のオリジナルスキル、超便利。
「コガネ君!あれなに!?」
「あれはレッドバードだ」
「赤い鳥?」
「ああ。中級種の魔物だ」
「……私、狙われない?」
「基本的に魚を食べる魔物だから大丈夫だと思うぞ」
「そうなのか……」
遥か上空を飛ぶ、くすんだ赤色の巨大鳥は海の方へ飛んでいった。
「あの鳥の羽は魔道具の上質な素材になるんだ」
「魔道具……なんの?」
「大体は火魔法の攻撃型だな」
「火なんだ」
「むしろ氷とかだったら驚きだろ?」
「それもそうだね」
めっちゃ赤いのに氷とか、なんか裏切られた感が凄いもんな。
良かった。炎で。
「ピッピピィ」
「あ、サクラお疲れ〜」
「ピィ!」
「チュン」
「うん、お願い」
くだらない事を考えているとサクラが私の頭に着地してモエギが飛び立った。
サクラはそのまま頭の上で上から海が見えたとはしゃいでいる。
うんうん、そうかそうか。
そりゃ、まだ見えるだろうね、海。
だがまあ、言わないでおこう。はしゃいでるサクラが可愛いので。
「サクラ、とりあえず主の頭から降りようか」
「ピッ……ピィ……」
コガネ君がものすごくいい笑顔で言ったら、サクラが怯えたような声を出した。
コガネ君はなんでお怒りなのだろうか?
というかこれ、怒ってるのか?
私、コガネ君怒らせたことないから分からんぞ?
考えている間にサクラは私の頭から馬の尻尾の付け根に移動していた。
……うーん……怒ってるか否かは今は置いとこう。
「コガネ君、あの穴はなんだい?」
「あれは落とし穴だな」
「……めっちゃ堂々と穴なんだけど……」
「もう使われた後なんだろう。魔物討伐のために掘られた穴を埋めなかったんだろうな」
「危なくない?」
「あれに落ちる方がバカだろ」
「確かに……」
私、落ちそう。
近づいてみたら穴の枠が崩れて落ちそう。
あれ、どのくらいの大きさだったのかな?
もう過ぎ去ってしまったので確認は出来ないが、結構大きな穴だった気がする。
相当気合い入れて掘ったんだろうな。
それとも魔法かな?
「チュン!」
「お?モエギどうした?」
「チュッチュン!チュン!」
「主、捕まってろ」
「分かりました」
モエギが急降下してきたと思ったら、中級種の魔物が私を狙っていると言い出した。
私には何も見えないのだが、コガネ君はなにかに気付いたようで、スピードを上げた。
「コガネ君、何も見えないのですが?」
「魔法を使う奴だ。姿は見えないが、いる」
「マジか。分からねぇ……」
つくづく思う。私、魔法の才能ないわ。
「ピィッピー!(来たよ!)」
「分かってる」
「私には分からんがな」
全くもって分からん。
だが、そんな事も言っていられなくなった。
唐突に真横に移動したと思ったら、さっきまでいた地面が抉られた。
……え?マジで?
「コガネ君!?あれ、ヤバイやつじゃない!?」
「いつぞやのドラゴンに比べればマシだ」
「それは確かにぃぃぃ!!」
コガネ君は会話しながら右へ左へ動きまわる。
もしかして、ガルダまでこれが続くのかな?
そろそろ酔いそうなんだけど。
「コガネ君、これいつまで続く?」
「……あと100メートル」
「あれ?そんなで終わるの?」
「ああ。生息域を抜けるからな」
「抜けたら追いかけて来ない?」
「あれは攻撃型ではないから、抜ければ大丈夫だ」
なら良かった。
この馬の速さならあと数秒で抜けるだろう。
良かった良かった。本当に良かった。
マジで酔ってるんだよね。水飲みたい。
「主、顔色悪いぞ?」
「ちょっと……酔った……」
「もう少し進んだら木陰があるから、一旦休むか」
「面目ない……」
コガネ君は宣言通り少し進んだところにあった木陰で馬を停め、私はぐったりしつつ水を飲んでいた。
モエギは上空からの見張りを続行、サクラはいつの間にやら馬と仲良くなっていた。
「主、大丈夫か?」
「うん……だいぶ良くなった……」
「もう少し休もう。これからまた魔物の生息域に何回か入るから」
「マジか〜」
「……避けないで弾く方法もあるぞ」
「弾く?」
「ああ。結界を張って身を守る」
「……移動しながら出来るの?」
「出来ないことはない……が、面倒くさい」
「よし、避ける方法でいこう」
これ以上コガネ君に負担を掛けることは避けたい。
私が酔うのはどうにでもなるだろう……多分。
少し休めば体調は良くなるし、私の酔い醒ましがちょうどいい休憩になる。……はずだ。
「……よし!行こう!」
「もういいのか?」
「うん!大丈夫!」
無駄に気合いを入れて立ち上がる。
気持ち悪いのはおさまったし、正直に言うと木陰が心地よすぎてこのままだと動けなくなりそうなのだ。
「なら行くか。体調悪くなったらすぐに言ってくれ」
「はーい」
「ピィ!」
「うん、頼りにしてるよ」
コガネ君の手に引き上げられ馬に跨る。
馬で疾走するのはかなり気持ちがいいので、魔物が現れなければこの旅(というか移動)も楽しめるのだ。
魔物が現れなければ。
……うん。現れましたね。はい。
休憩終了後8分で現れました。
うん。知ってた。
「主、捕まってろ」
「了解した〜」
ははは。こうなりゃ自棄だ。
もうどうにでもなりやがれ。
なにか色々諦めてから約6時間が経過した。
……結構経ってますね。はい。
魔物の襲撃を1つ1つ書いてたら2、3話埋まるんじゃないかってくらい襲われました。
……疲れた……
「主、見えたぞ、灯棒だ」
「えっ本当に!?」
「ああ。前を見てみろ」
コガネ君に体重を預けて沈没していたら嬉しい報告が入った。
言われた通り前を見ると、確かに灯棒が現れはじめていた。
「……あっ、見えた!」
目を凝らしてみると、遠くにガルダも見える。
「チュン?」
「うん、そうだよ」
「ピッ!ピピッ」
「うーん……じゃあ、お願い。大通りから少し裏に入ったところにあるエキナセアってお店」
「ピッ!」「チュン」
2羽が帰還を知らせて来る!と飛び立った。
……あれ?ヒエンさん、2羽のこと知らないし鳥の言葉分かんないから、行っても意味が無いのでは……?
「……主、行かせても意味ない気がするぞ?」
「だよね。今気付いた」
コガネと2人、遠い目をしてガルダを眺める。
「……ヒエンさん、私の契約獣だって気付くかな?」
「……店主なら、どうにか……なるか?」
「なる事を願ってようか」
「そうだな」
ヒエンさんなら分かる気がする。
なんでだろう。どんな事でも出来る感あるんだよな。ヒエンさんって。
私、ヒエンさんが空飛んでても驚かないと思う。
そんな事を遠い目をしながら考えていたら、ガルダの門に着いた。
コガネ君が入国手続きを済ませ、ガルダの中に入る。
5日ぶりのガルダだ。
……すごく長く旅してた気がするけど、実際は大した旅してないし、たった5日なんだよな……
「はぁぁ、なんか懐かしい……」
「人間の感じる時間の速度は分からないが、確かに少し久しぶりな感じはするな」
「あ、コガネ君もそんな感じなんだ?」
「色々あったからな」
「だよねぇ……」
今日だけですごく長かった感じがするもんな……
なんてったって私、ケートスからガルダへの移動の間に軽く10回は魔物に狙われて、2回ほど命の危険を感じたからな……
「主、馬は俺が返して来るから、先に店に行っててくれ」
「えっ、いいの?」
「ああ。ただし、自分の荷物は持っていけ」
「分かった!」
返事をするが速いか、私は馬から降りて荷物を回収する。
そして馬にお礼を言って、エキナセアへの道を走り出した。
5日ぶりの裏道疾走。
いやぁ、やっぱり走り慣れてる道はいいね☆
テンションが上がって思考がとち狂い始めた気がするが、それは全力で無視する。
猛ダッシュの結果、門からエキナセアまで歩いて10分弱の道のりを3分で到着した。
……異世界来てから足速くなったかな?
「ただいまー!」
とりあえず元気に扉を開ける。
「おかえりなさい。アオイちゃん」
「ヒエンさんだ!」
「むしろ私以外がいたらおかしいでしょうに」
「それもそうだね」
扉を開けると、カウンターの内側に座って優雅にお茶を飲んでいるヒエンさんがいた。
……いや、仮にも営業中に1人ティーパーティー開催とかどうなのよ?
と、思わないでもないが今はいいや。
「ヒエンさーん」
「どうしたの?アオイちゃん」
「疲れたでござります」
「お疲れ様。……そういえば、あの2羽の契約獣はどうしたの?」
「あ、あれはね……って、契約獣だって分かったの?」
「ええ。アオイちゃんの魔力を感じたから」
マジで分かるとは……
やっぱりヒエンさん凄いわ。
「で、そうだ。あの2羽、サクラとモエギっていうんだけど、あの、世界とは何かの作者さんに貰った」
「……今サラッと、作者から貰ったとか言ってるけど、会ったの?というか鳥貰うほど仲良くなったの?」
「うん。現在住所はキマイラだよ」
ヒエンさんがスッと額に手をやった。
「……まあ、それはいいわ。養うのも全く問題ない」
「わーい、ありがとうヒエンさん」
「いえいえ……そうだ、リーンは元気だった?」
「うん。私が見た限りではお元気そうだったよ」
「良かった。最近会ってないから、腕の1本くらいは無くしてるんじゃないかと思ってたのよね」
「ヒエンさん、サラッとグロい事言った?」
「言ってないわ」
「そっか……」
そんな会話をしていると、コガネが店に入ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい。コガネ君」
ヒエンさんは言いながら立ち上がる。
「さて、店じまいにしましょうか」
「ヒエンさん、まだ4時半だよ?」
「いいじゃない。2人が帰ってきたんだし」
「それはどんな理屈だ?」
「コガネ君までそういう事言わないの。ほら、看板しまうわよ。」
「はーい」
……うん。「帰ってきた」って感じだな。
このヒエンさんのグダグダ具合、実に懐かしいし心地いい。
でも、残り5時間あるのに普通に店閉めるのはどうかと思う。




