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ピザの焼き方を知っているか? そうアレを使うんだ!!

それは修業を終えた夕暮れ時のことだった。

この日、俺はガイとその仲間達や《獅子皇帝》、ヨシュアの部下達に修行をつけるという依頼を受けたので夕飯を作ることができなかった。

だから、従業員である3人に夕飯を作ってもらうことにしたのだ。


正直、リリアナさんがいるからすごく不安だけど。

ガルム君とバーンズ君は元騎士だったそうだ。

騎士は炊き出しや行軍時に料理を作るのも仕事の一環。


リリアナさんに何もさせず、2人で作業をすれば問題ない。

そんな風に考えた俺の読みが浅はかだと言わんばかりに、轟音が鳴り響いたのは修業が終わり店に帰る途中のことだった。

何事かと思い急いで帰ってみれば、我が家の半分が消し飛んでいた。


「あら? なんで爆発したのかしら?」


「ええ・・・。まさかこんなことになるとわ・・・。」


「本当に申し訳ありません!!」


辿り着いた先では3人の従業員が半壊した我が家から逃げ出していた。

リリアナさんは平然とした態度でなぜこうなったのかわかっていないのか首をかしげている。

バーンズさんは呆れた顔でリリアナさんが手に持つ赤い槍を見つめている。

ガルムさんは俺を見つけるや否や全力で土下座をかましてきた。


いったい何があったのかはともかく即座に我が家の火災は消火した。

まぁ、リリアナさんが手に持つ赤い槍を見ればなんとなくわかるんだけどね。


「な、なによ・・・。私はピザガマの火が弱かったから、この魔道具で火力を上げようとしただけよ!」


俺の視線に気づいてリリアナさんが赤い槍を振りかざす。

そう、俺が各国の王達に売った魔剣の内の一本。≪プロミネンス≫である。

修業の邪魔になるからと店内に置いておいたのだが、どうやらそれを使った結果らしい。

全くうまく扱えないのに魔剣なんて使うからだ。


「なぁ、コーフィ。この嬢ちゃん頭は大丈夫か? ピザが何かは知らんが魔剣を料理に使うだなんて相当の馬鹿なんじゃないか?」


ガイもリリアナさんの未熟さを理解したのだろう。

彼女は少し知能が低く何でも力任せにやってしまう癖があるんだ。

いや、それよりもピザとはなんだろうか。

ピザガマというのも気になる。

そんなものがうちの店にあったのだろうか?


とりあえず、半壊してしまった店のことは放置して夕飯の準備をしよう。


「いや、お前の店が消し飛んだのにほっといていいのか?」


ガイが消し飛んだ店のことを案じているが問題はない。

魔の森にある大樹を切り抜いた我が家は時間があれば再生する。

最近のリリアナさんは闘氣術による能力向上と魔力もほとんど全快状態なので我が家にかけてある結界魔法を突破することができる程度になっているので、家が壊れるだなんて日常茶飯事だ。


「本当に申し訳ありません。」


ガルム君がいつものように頭を下げている。

最早いつもの予定調和だ。

ここは大人対応でいつも通りの言葉を返しておこう。


「修理費として1億Gね。」


「なっ?! いつも勝手に治るのにですか?!」


いや、勝手に治ると言ってもこんなに何度も店を破壊されてはさすがの俺も怒るよ。

それに、借金は減ることなく増え続けているのだから少しくらい増えてもいいじゃないか。

ガルム君はまた頭を悩ませているようだが、知ったことではない。


今はそれ以上に大変な事態が迫っている。


「被害状況はどんな感じだい? 夕飯は何時に出来上がる予定だい?」


そう、この爆発で先程まで準備していた夕飯が消し飛んでしまったのだ。

これは由々しき事態だ。

この魔の森では、木々は三日あれば元の状態に戻る。

爆発で失った部分はほんの一部だ。一晩あれば十分に治る。


だが、今日の晩御飯が遅れるのはあまりよろしくない。

修業のせいで皆、お腹を空かせている。

疲れた体には迅速な栄養補給が必要だ。

ここでどれだけ素早く栄養を取れるかで修業の成果が変わってくる。


とりあえず、店の中を確認するとそこには薄く延ばされたパンケーキのような物の上にソースにベーコン、チーズ、彩にハーブなどが乗せられている。

おそらくはこれに熱を加えて焼き上げるのだろうことが予想できる。


すでに焼く前の状態は既にいくつかできていし、パンケーキ部分のタネとその上に乗せる具材の準備も万端だ。

必要なのはこれらを焼くための鉄板・・・

いや、竃の方が全体から火が入るか。


そう思って竃を見れば先ほどの爆発で木っ端微塵になっていた。

店内には結界魔法が施されいるが、この結界は切り抜いた樹が元に戻らないようにするために発動しているので、通常よりも防御力が低い。

手加減していただろうとはいえ、魔剣の威力には耐えられない。


店は時間が経てば自然に修復されるので放置でいいが、竃の代わりは早急に必要だ。

木を削り出して結界魔法で耐熱性を上げて使うことも考えたが、今回はもっと早くて的確に火を入れる方法があるのでそれを使うことにする。


「よし、あれを使おう。ちょっとアレとソレを借りるね。」


俺はそう言って二つの魔剣を手に取るのだった。




ピザって料理はチョーうめ~。

初めて食ったが、薄く延ばされたパン生地の上に酸味のきいたトマトソースにとろりと溶けるチーズ、香辛料の効いたベーコンのコンビは最高だ。

ただの彩かと思っていたハーブも、香辛料代わりになっていて食べるところによって味が変わるので全然飽きが来ない。


「これ、普通に喫茶店の新メニューになるんじゃないか?」


そんなことを言いながら俺はワインを呷る。

西方で仕入れてきた上物らしくすごくうまい。

コーフィは酒が飲めないから隣でぶどうジュースを飲みながら焼きあがったピザを摘まみつつ、次々にピザを焼き上げて配膳していく。


「うん。味も悪くないしサンドイッチみたいに片手で食べることも可能だからありかもしれないね。」


俺の提案にコーフィもピザを一口食べてそう言った。

そんなことを言っている間にも、ピザは次々に焼きあがっていくが、俺と≪雑魚狩り≫以外の奴らは全員が頭上を見上げたまま固まっていた。

自分達が見ている景色が信じられないのか。

ポカンと口を開けて馬鹿面を晒しているのは見ていて面白いが、さっさと席について食事を始めろと言いたい。


「いや~。それにしても絶景だね。なかなか見れない景色だよ。」


そう言って笑う≪雑魚狩り≫も笑みが引きつっている。


「ブルルル」


「お代わりを頂戴しますわ!」


俺達以外の唯一で唯一食事を敷いている集団はどうやらお代わりの催促をしているらしい。

焼きあがったピザが次々と二つの集団のテーブルに落ちていく。

一つは、麒麟達。

彼らは完全にコーフィの支配下に入ったのか。

この喫茶店の周辺に住み着いて、コーフィに様々な果実や食料をまるで供物のように捧げている。


もう一つは、この店の従業員である三人の魔族。

従業員のはずなのに店長にだけ働かせて一切何もせず、食事にありついている。

その図々しい態度は堂に入っていて、まるで、それが当然という如く振る舞っているので何も言う気が起きない。


「まぁ、この状況じゃできることはないか。」


ため息交じりに呟きながら空を見上げれば、そこはまるでおとぎ話に出て来るかのような景色が広がっていた。

空中を舞うのはピザの原料である生地とその上にかけるソースとトッピングの肉や野菜達だ。

それらはまるで意思があるかのように空中を舞う。

ピザ生地は原材料から空中を舞い小さな竜巻のように一体化すると発酵する前の状態のタネになり空中で制止する。

そして、程よく時間が経過して膨れていくと回転しだし、丸く平らなピザ生地へと姿を変える。


その上に、同様に原料の状態から同じように空中で小さな竜巻を巻き起こすかのように合体したトマトスースが先ほど出来上がったピザ生地の上にかかり、その上に細かく切り分けられた野菜やベーコンが乗っかると最後に数種類のチーズが円柱から切り出され、細かく細切りにされてその上に乗る。

こうして、一体化し焼く前のピザの状態になったものが、空気の膜に覆われると一気に高温で焼かれる。

焼きあがったピザは、空気の膜から解放されてふわふわとゆっくり回転しながらテーブルに置かれたお皿の上に落ちて来るのだ。


この一連の流れを行っているのが、この店の店主であるコーフィだ。

こいつは、ピザという料理を作るために魔法を使っている。

いや、ただ魔法を使っているだけならばまだ許そう。


だが、今回使っているのは魔法ではなく、魔剣だった。

おそらくは、風と火の適性がなく、竃が先ほどの爆発で吹っ飛んでしまったからなのだろうが、だからって魔剣を使うのはどうなのだろうか。

しかも、使っているのはただの魔剣ではない。

《獅子皇帝》の連中が持っていた二つの魔剣。《フウマ》と《プロミネンス》だ。


器用なことにコーフィは二つの魔剣を装備して、その力を呼び覚ますと先ほどの手順でピザを作り始めた。

物を空中に浮かせるのも、食材を切るのも混ぜるのも、《フウマ》の持つ風の力だ。

《プロミネンス》はピザを焼くためだけに使用している。


空中という広い範囲をたくさんの食材を操り、ピザを適度な熱で満遍なく焼くその精密な魔力操作は俺にも真似できるものではない。

そもそも、二つの魔剣を同時に発動させることなど俺には不可能だ。

それをムシャムシャと出来上がったピザを食べながらだなんて《五高弟》ですら何人ができるのかわからない。


ピザを焼く前に空気の膜で覆っているのは、熱が外に出てこの場の気温が上がらないための措置だろう。

おけがで、焼く光景を眺めているにもかかわらず全く熱くない。

お客のことを考えた無駄な超高等テクニックだ。


「お前ら、いい加減に食えよ。」


そんな推察をしながら食べ進めると俺のお腹はいつの間にかいっぱいになっていた。

だから、先程から理解が追い付かずに固まっている奴らに声をかけて食事を促した。


俺の声を聴いて、全員が席に着き食事を開始した。

だが、理解が追い付かない彼らは心ここに在らずといった感じで食事を進めるのだった。


たかが料理に《プロミネンス》を持ち出した店員も異常だが、店主はさらに常軌を逸している。

俺はこの喫茶店が魔の森にあることに安堵しながら酒を呷るのだった。

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