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修業の終わりと蠢く闇

1か月。

そう、俺達がコーフィに修行をつけてもらってから一か月が経過した。

この1か月の間は死を覚悟することが多かった。

下手をすれば死んでいたかもしれない。そう思う瞬間が何度もあった。


最初の2週間ほどは【秘伝】体得のための期間だった。

無駄とも思えるような馬鹿なことを修業と称してやらされた。

だが、反論する暇も精神的な余裕もなかった。

だから、ただただ必死に体得のために集中して氣の操作を行った。


そうして、ようやく【秘伝】のヒの字が見えてきた頃。

【秘伝】を体得するため、そして使いこなすための実践的な修業にシフトした。

今までの理論や知識の伝授、お手本を見たり相談したりの時間は終わり。

ただただ実践の中で力を使うことを強要された。


「お店の準備があるから。」


そう言って去っていくコーフィが修業をしている俺たち全員に同数の麒麟をけしかけてきた時は焦った。

全員が方々に逃げ回り、絶叫を上げながら懸命に戦い続けた。

麒麟達はまるで子供に狩りの仕方を教えるかのように、子供と親の混成群で襲ってきた。

俺達の攻撃や防御を見ながら雑談しながら、手本を見せながら俺達に襲い掛かってきた。


《獅子皇帝》の3人は魔剣を返してもらったようで、武器を手に取り必死に応戦していたが、すぐに氣力と魔力が底をついて倒れていった。

他の奴らも、逃げ回りながら必死に応戦したが、最後は力を使い果たして気絶していた。

だが、あいつらはそれでいい。

力が尽きる。


その言葉ですべてが許されるかのように、麒麟達は彼らを無視して修業は終わるのだ。

だが、俺は違った。

【秘伝】という半永久的に力を得る能力を中途半端に体得してしまったために力尽きることすらも許されないのだ。


麒麟達は俺を襲い、追い詰め、放置する。

一定のダメージを与えるか。こちらの氣の総量が一定値を割った瞬間から、傍観を決め込むのだ。

おまけに、コーフィに渡されたのであろう。

高級なポーションをこちらに投げてよこしてくるのだ。


体力を回復しろ。休むな。さっさとしろ。


言葉を発せず、麒麟達はただその眼光だけで俺にそう語りかけて来るようだった。

俺はポーションで傷を癒し、時間をかけて周囲から取り込んだ氣を自分のものにしてから、また【秘伝】を発動して氣の量を元に戻す。時間にして30分程だろうか。

実践ではまだまだ使い物にならないが、少しずつだが【秘伝】をものにしてきている。

そんな実感を得ながらも、俺はいつになったらこの地獄から解放されるのだろうかと涙を流した。


そして、涙を流すこと約1か月。

俺は・・・

いや、俺達はついに修業を終えた。

正確にはまだ途中なのだが、ある程度は身に着いたのでこれからは実践の中で使い慣れたり、より自分に合った使い方を模索する形になる。


「あとは自分達で扱いに慣れるよう頑張って。」


にこやかに別れを告げるコーフィに俺達は思い思いの返事を返して帰路に就く。

そんな俺達を見ながら羨ましそうに店員3人がこちらを見ていた。

彼らはこの店の店員なのでここから離れることはできない。

故に、これからもあの地獄な特訓から逃れることはできない。

唯一、あれから解放される手段はただ一つ。

この店に客が来ることだろうが、そんな日は当分訪れることはないだろう。


「じゃ、師匠。少しお借りしますね。」


「ああ。じゃ、街の近くまでよろしくね。」


そして俺達はコーフィから馬を借り、魔の森近くの街まで高速で移動した。

無論、魔の森を移動するのに普通の馬など使えるはずもなく、俺達は麒麟の背中に跨って移動するのだった。

そして、誰にも見つからないように街の傍まで移動すると麒麟の群れとは別れた。


「さて、急ごうか。あまり時間がないみたいだからね。」


街のすぐ傍までやって来た俺達は、街には入らずそのまま魔の森から出てすぐそばに待たせていた竜車に乗り込んだ。

コーフィから麒麟達を借りてまで、もっと言えば修業を途中で終えたのには理由がある。

≪雑魚狩り≫の作った怪しげな組織を経由して俺達、守護天将に緊急招集がかかったのだ。


この謎の組織は本当に謎が多いのだが、一番の謎は大陸中で活動する俺達、守護天将の位置を正確に把握して連絡事項を伝えに来るのだ。

特に居場所などを伝えずに出かけても必ずやってくる上に、どれだけ長距離でも、どのような危険地帯でもやってくる。

おまけに集団で来たとはいえ、俺でさえ手古摺るような魔獣を討伐して会いに来ることがある。

今回の修業でも【上伝】は習得していたので、それを極めて【皆伝】に至るための修業をしていた。

あの《獅子皇帝》でさえ【上伝】を覚える程度だったことを考えれば、≪雑魚狩り≫の作った組織にいる連中は全員が守護天将級の実力を持っていることになる。


そんな連中が持ってきた今回の厄介事の内容は『邪神の復活を目論む。邪教団が動き出した』というものだった。


「邪教団か・・・。」


3000年前から一定周期で現れる邪神。

その存在理由やなぜ現れるようになったのかは不明だが、その強大な力の前に人類は幾度となく危機的状況に陥れられてきた。

邪神は封印を施すことによって今まで乗り切ってきたが、その封印を施すために人類が払った代償は10万を超える軍勢である。

無論、これは邪神と戦う力を持った戦士の数であり、力なくただただ無残に殺された人の数はその数倍。

邪神が現れたことにいる治安の悪化や魔獣・魔物の大移動などによる被害はその数十倍に上る。


そんな邪神を神と崇め復活を試みる狂った集団。それが邪教団だ。

歴代の邪神の中には、人を操ったり従えていたこともあるらしく、邪教団の中には先祖が邪教の加護を得ていると言い張っている者達もいる。

それが本当かどうかは不明だが、邪教団の中に強力な魔法の力を有している者達がいる。


「到着しました。」


そうこうするうちに竜車が目的地に到着したらしい。

御者の言葉を聞いた俺達は竜車の扉を開いて外に出た。

外に出た俺達を待っていたのは巨大な白い神殿とその前にズラリと並んだシスターや神官達だった。


いつものギルド支部ではなく、邪教団が相手ということで今回の会議場は教会のようだ。


「よく来て下さいました。」


どこか神々しい神殿から幼くも鈴の音のように澄んだ声が響いた。

そして、純白の修道服に身を包んだ美少女が純白の神殿から現れた。

その背中からは光が差しているかのような錯覚を覚える。

柔らかく優しい笑顔で佇む。

この少女こそが、彼の伝説≪救世主(メシア)≫である。


周囲の奴らがその神々しくも優し気な少女の見た目に惑わされどこかうっとりと見つめる中。

俺は胃が握り潰されるような重圧を感じていた。

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