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魔剣(チープクラス)の性能

数年前、コーフィ=チープが世界にばら撒いた50本の魔剣は、世界の歴史を変える非常識な物だった。

今まで最高ランクとされたSランクの魔剣を遥かに上回るその威力に各国の者達が戦慄したことは記憶に新しい。

各国は手に入れた50本の魔剣をそれを持つに相応しいとされる者達に配り、魔剣による未開拓地の魔物の殲滅を夢見ていた。


だが、そんな幻想はたった一夜にして砕け散った。


50本の魔剣の性能は破格のものであり、それを持つ国は他を圧倒する優位性を持つことは誰の目にも明らかだった。

だから、だろうか。

その使い手の公表と50本の魔剣の起動実験日は三大国家主導の下で同日に行われることになった。


50本の魔剣は各国から使用を許可された才能ある騎士や魔導士の手に渡り、起動の時を待っていた。

魔剣を手にした騎士や魔導士は、これで名実ともに『王国最強!』という栄光に酔いしれていた。

そんな中で行われた50の都市での起動実験。

後に、『悪魔の目覚め』と謳われたこの日。

魔剣を手にして生き残ったのはたったの7人だった。


原因は魔剣使用時に起こった起動直後の魔力暴走。

正確には魔剣内の膨大な魔力が術者に流れ込んだことにより、術者が自我を失い制御を失ったのだ。

人の制御を失った膨大な魔力は様々な現象を起こした。

単純に行き場を失った膨大な魔力が拡散することを求めて自爆するというケースが一番多かったが、中には術者の肉体を乗っ取っての暴走もあった。

前の例の場合、魔剣の性能や場所によって被害の大きさや発生する現象は違ったが、その暴走時間はわずか数秒程度のことだった。

だが、後者の例の場合はその暴走時間は暴走が止まるまでの数日間にも続いた。


膨大な魔力によって意識を失った術者の体を乗っ取り、魔剣はまるで意思があるかのように動き出した。

もっとも、それは勘違いで実際は適当に暴れまわって力の拡散に励んでいただけなのだが、当時がそのことを理解できるものが少なかった。

魔剣を購入した各国の王達はコーフィ=チープに対して責任追及をしたかったが、それをすることはできなかった。

その理由は単純明快で、コーフィ=チープが魔剣を売るに至った経緯が各国の王達による強い要請があったからだ。


「魔剣の力は強大過ぎる。これは国が管理すべきものだ。」

「一個人が所有していいものではない。」

「あの魔剣があれば、人間社会はより豊かになる。なぜそのことが理解できない?!」


各国の王達は懸命にコーフィ=チープを説得し、1年かけて彼を説得して魔剣を売らせている。


『自分達ならばより魔剣を世界の役に立つように扱える。』


それが各国の王達がコーフィに向けてはなった結論だった。

だが、その結果は散々なものだった。

各国の重鎮によって選ばれた50人の魔剣の使い手は43人が死亡。生き残った7人の内、5人が重軽傷を負った。

魔剣の暴走によって43の地点で甚大な被害が出た。都市、街、村が魔剣による直接的な被害だけで50は全壊又は半壊。死者の数は数千に上った。

人の体を乗っ取った魔剣の暴走により住処を追われた魔獣の氾濫により100以上の間接的な被害が発生し、死者の数は万を優に超えた。


この後、魔剣を所有する全ての国は魔剣の使用を一時中止し、魔剣の管理をする国家を超えた機関を設立。

そのトップにコーフィ=チープを置きチープクラスの魔剣の管理を彼と彼の仲間達に一任した。

その後、《五高弟》の名前が世界に響き渡ると≪雑魚狩り≫がこの機関のトップに就任することになるのだった。


「まぁ、そういう訳で魔剣の管理は私に一任されているんだよ。」


《獅子皇帝》の連中の前で魔剣と自身の立ち位置について説明する≪雑魚狩り≫。

俺もこいつの正式な役職を初めて聞いたよ。

確かに、数年前にあった魔導実験の暴走事故や魔獣の大反乱は俺の記憶にも深く焼き付いているが、その事件の真実が魔剣の暴走とか。

あいつ(コーフィ)はいったいどれだけの被害を世界に齎してるんだ?


「まぁ、魔剣の暴走は師匠の活躍で数日以内に沈静化したんだけどね。二次被害の方は各国が全力を尽くす形で終結させて、魔剣の暴走については伏せられたんだ。なにせ、国家ですら管理できない代物を一個人で管理できてしまう人間なんて・・・ もはや、それを人間と定義していいのかわからないからね。」


まぁ、言いたいことはわかる。

確かに、あれを人間の枠組みで測るのは難しいだろう。

という、【秘伝】なんていう『人体限界を超えた技術』と『魔力と闘氣の永久機関』を持つに至った《五高弟》も人間の枠組みからは外れている。

だからな、≪雑魚狩り≫よ。

お前も大概(たいがい)人間やめてるぞ。


「まぁ、そんなことはどうでもよくてね。実は本題は君たちに魔剣の本来の性能を引き出して貰えるようになって欲しいんだ。そうじゃないとこれ以上、君達のような小物にそれは預けていられない。」


実にいい笑顔で言い切りやがった。

言われた本人である《獅子皇帝》の連中はその言葉と威圧に声も出ないようだ。

≪雑魚狩り≫のいう通り。こいつらの実力じゃ、いつ暴走してもおかしくない。


「そもそも、君達は魔剣の初期発動をどうにか耐えているだけで、全くその性能を使いこなせていない。」


≪雑魚狩り≫が年寄り臭い説教を始めたようだ。

くどくどと魔剣の本来の性能について語ったり披露したりしている。

実際、魔剣に魔力を流して発動した状態から力を抑えてつけて何とか操っているこいつらの使い方では、魔剣の本来の性能を50%以下しか使えない。


魔剣とは強力な固有の能力を宿す武器のことではない。

強力な固有の能力を有する道具は魔道具と呼ばれるものだ。

では、魔道具と魔剣の違いは何か?

それは、剣そのものが魔力を保有する能力を有しているか否かだ。


猛獣と魔獣の区分けが、危険度ではなく体内の魔石や保有魔力量によって区別されるように、剣と魔剣の区別は魔力を有しているか否かだ。

道具に特別な魔法術式を組み込んで、魔法を使えない者にも魔力を流すだけで魔法と同じ恩恵をもたらすことのできる物は魔道具と呼ばれる。

基本的に、強力な魔剣は魔道具と同じように固有の能力を発言することから混在されがちだが、明確に提言するならば魔剣とは魔力を持った武器である。


だが、魔力とは魔法という奇跡を巻き起こす力の源だ。

それを持つ武器は通常よりも切れ味や強度が上がる。

魔法使いが持てば、自身の魔法の強化や必要に応じて武器から魔力を取り出すこともできる。

故に、魔剣は強力な武器であり、扱いやすい最高の道具だった。


チープクラスの魔剣が世に出回るまでは・・・


チープクラスと以前まで世界に出回っていた魔剣との最大の違いは、作られている魔法鉱石そのものであり、それは同時に魔力の保有量に驚異的な差を生んでいた。

一昔前まで、最強と謳われた伝説の魔剣でさえ、チープクラスの魔剣の魔力保有量の5分の1程度しかないのだ。

その膨大な魔力を求めて各国はチープクラスの魔剣の入手に躍起になったわけだが・・・

彼らは忘れていた。

魔力とは少量ならば使い勝手のいいただのエネルギーだが、多く集まりすぎると人の手に余る代物であることを・・・


少量の雨は世界に恵みをもたらすが、大量の雨は災害をもたらす。

魔力もまた同じで、強大な魔力が暴走した場合、人の手にあまる災害をもたらす。

魔剣の初期発動とは、その恩恵と災害の境界線にあたる魔力の本流の発現に他ならない。


その魔力の本流に耐えられるものだけが、魔剣の所有者たりえる。

そう考えている各国の貴族や重鎮、使い手たちもいるようだが、実際は違う。

魔剣発動時の魔力の本流は、魔剣の出力からいえば50%程度でしかない。

それを何とか耐えて扱ったとしても、威力は50%を超えない。


真に魔剣を扱える物は魔力の本流など気にしない。

寧ろ、それ以上の力を引き出せる存在でなけれなならない。


そう、この俺のように・・・!!


「ガイ君。カッコつけてるところ悪いけど。修業ははかどっているのかい?」


俺の姿を認識した≪雑魚狩り≫が話しかけてきた。


「いや、全く。というか。これはいったい何の罰なんだ?」


「ううん・・・。罰じゃなくて修行だと思うよ? 師匠曰く、自然と一体化する修業らしい。」


「ほう。そうなのか・・・。」


今の俺の現状を鑑みるに、修業には全く見えないんだがな・・・。

だって、首から下が地面に埋まってるんだぜ?

え、これで何を感じろっての?

自然?

本当は才能のない俺を馬鹿にしてるんじゃなくてか?

そんな疑問がよぎった時だった。

≪雑魚狩り≫の奴が急に真面目な顔で話しかけてきた。


「ガイ君。その修行法に意味があるとは僕には思えない。でもね。師匠は君が【秘伝】ができるまでそれを続けるよ。」


な・・・

なん・・・だと・・・?

こんな意味不明な修行法を何度も続けると?

そこにいったいどんな意図が?


「いいかい。ガイ君。修行法には効率重視とやる気重視の二種類の方法がある。そして、その修行法はおそらくは後者だ。」


≪雑魚狩り≫の言ったことはよくわからないが、つまり、要約すると・・・

できるまで、この修行法で行くから覚悟しろよってことか・・・。


「絶対に嫌だな・・・」


それから、俺はこの意味不明な修行法のことは放置して全力で修業に取り組んだ。

誰だって、埋められたくはない。






~遠くの方で獅子皇帝たち~


「なんで、≪暴君≫が埋められてるんだ?」


「わからん。あれも修業の一環か?」


「いや、罰なんじゃないか?」


「お、俺達も修業をサボったり出来が悪いとああなるのか・・・?」


「が、頑張ろう!!」


「「「おー!」」」


こうして、後輩たちを奮起させる≪暴君≫であった。

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