第6話:村の鍛冶屋と、ドワーフ鉄の特訓
「いやぁ、感服したね、おっちゃん。この熱を帯びたハンマーの軌道、そして叩いた瞬間の金属の鳴き声……まさに職人芸の極みだ!」
ガレージから少し離れた村の片隅。年季の入った巨大な金床の前で、ツヨシは油まみれの顔をさらに真っ黒にしながら、満面の笑みで拍手を送った。
その目の前で、腕組みをしてぶっきらぼうに立っていたのは、アストライア村唯一の職人にして頑固一徹で知られる鍛冶屋のおっちゃん――ガルドだった。彼はツヨシが差し出したマグカップをじろりと睨みつけ、フンと鼻を鳴らした。
「……なんだい、急に持ち上げやがって。お前さんのその変なテカテカした鉄の塊を見るたびに、俺の職人としてのプライドがズタズタになるんだがな。ただのガラクタの寄せ集めじゃねえか」
口ではそう言いながらも、ガルドの目はツヨシが持ってきた特製の設計図(正確には怪しげな落書きに近いが)をちらちらと盗み見ていた。
そもそも二人がこうして言葉を交わすようになったのは、先日の『マジンガー・ツヨシ』の試運転のときのことだった。あまりの重量にガレージの床だけでなく、村の共同井戸の周囲の石畳まで盛大にミシミシと鳴らせたため、ガルドが「俺の打った頑丈な鉄ペグを勝手に抜くな!」と怒鳴り込んできたのがきっかけである。
しかし、いざ話し合ってみると、一方は還暦を過ぎてなお昭和のロボットアニメに魂を捧げた元エンジニア、もう一方は長年村の道具を支えてきた生粋の叩き上げ鍛冶職人。言葉の端々に漂う「良いものを作りたい、この手で形にしたい」という執念の波長が、なぜか奇跡的にガッチリと噛み合ってしまったのだ。
「いいかい、おっちゃん。ただ硬いだけの鉄じゃあダメなんだ。ロボットの装甲ってのはね、こう……敵の魔導砲を食らったときに『ズシーン』と重厚な音を響かせつつ、内側のパイロットには心地よい振動だけを伝える絶妙な『しなり』が必要なのさ!」
ツヨシが熱弁を振るうと、ガルドはふっと呆れたように息を吐き、しかし興味を抑えきれないといった様子でぶっきらぼうに反論した。
「しなりだと? 冗談じゃねえ。剣や鎧ならともかく、何メートルもある鉄の巨人が動くときにしなりがあったら、重心が狂ってすっ転ぶのがオチだ。いいか、お前さんの言うその『マジンガー』とかいう代物を本当に動かしたいなら、北の山脈から採れる最高峰の『ドワーフ鉄』と、魔力を弾く『ミスリル銀』の配合比率をだな……」
「おおっ……! さすがはおっちゃん、目の付け所がシャープだねぇ!」
ツヨシはパッと目を輝かせ、ガルドの肩をパンパンと叩いた。
かくして、村の鍛冶屋と、謎のロボットビルドおじさんによる「職人同士の熱すぎる技術談議」が連日幕を開けることになった。
村人たちは、その二人の工房から聞こえてくる激しい金属音と、どこかズレた熱弁に耳をふさいだ。
「おい、今日の議論はなんだって?」
「なんか、『パイルダーの接合部分の摩擦係数を減らすには、溶岩石の油を塗るべきか、それとも妖精の涙を煮詰めるべきか』とか大真面目に言い合ってたぞ……」
「ついていけねえよ!」
村人たちのそんな生温かい視線をよそに、ガルドの工房の片隅では、着々と次世代の強化装甲の開発が進んでいた。
ガルドが本職の腕を振るって打った最高純度のドワーフ鉄のプレートに、ツヨシが「月光力結晶」の微粉末を特殊な接着剤(という名の謎の樹脂)でコーティングし、さらに耐熱性を上げるための魔法陣(風の落書き)をマジックで書き込む。
「ふむ……これで、スレ傷なんかも完全にカバーできるはずだ」
ガルドは自分が打った鉄板を職人の目で確かめ、ふんと鼻を鳴らした。
「まあ、お前さんのその滅茶苦茶な設計図のおかげで、俺の新しいハンマーさばきも一段と冴え渡ったがな。……おい、次の強化パーツはどうするんだい?」
ツヨシはニヤリと笑い、新たな設計図の端っこを指さした。
「決まってるさ、おっちゃん。次はもっとこう……腕からロケットみたいにスポーンと飛び出す、例の『アイツ』の仕込みさ!」
「……まったく、どこまで俺を巻き込む気だか」
呆れながらも、ガルドの口元には隠し切れないワクワクとした笑みが浮かんでいた。
異世界の頑固な鍛冶屋と、昭和のオタクエンジニア。二人の熱く、そしてどこかネジのぶっ飛んだ技術特訓は、アストライア村の工房にさらなるロマンの火花を散らし続けるのだった。




