第5話:マジンガーへの道、そして「光子力(?)」の発見
「よし、床の補強はこれでよし……っと!」
盛大に床をブチ破った前回の失敗をバネに、ツヨシはより頑丈なドワーフ鉄を幾重にも重ねてガレージの床を全面改装していた。
そんなある日、作業の合間に一服していると、切り株に腰掛けながら干し芋をもぐもぐと頬張る村の少年が、両手を大きく広げて無茶振りをしてきた。
「ツヨシのおじさん、この前の一号もすごかったけどさー、もっとこう……こう、グワッとカッコよくて、空を飛んで、頭の上に人間がスポッと乗り込むようなやつは作れないの?」
「頭の上に人が乗っかる、ねえ」
ガレージの作業台にもたれかかり、油まみれのタオルで首筋を拭いながら、ツヨシはフームと腕を組んだ。
確かに、1号はリモコン操縦の自走式(という名のほぼ自動人形)だ。しかし、昭和のロボットアニメを心から愛するオタクとして、いつまでも外からコントローラーをガチャガチャやっているだけでは満足できない。男のロマンとは、自らが操縦席に座り、レバーを握りしめ、目の前の計器類をパチパチと動かすことにあるのだ。
頭に浮かぶのは、あの兜をかぶった漆黒の巨人と、その額にカポッと収まる小型飛行艇――パイルダーの雄姿だった。
「よし、分かった。お前たち、次のロマンは『搭乗型』だ。それも、ただ乗るだけじゃない。頭上に空飛ぶ小型艇がガチャンとドッキングして、そこから操縦席がスライドインする仕組みにする!」
「すげえええ! ドッキングだってさ!」
子供たちがわっと歓声を上げる。だが、すぐ隣で村の鍛冶屋のおっちゃんが、呆れたように大きなため息をついた。おいおいツヨシさんよ、ただの鉄くずと魔獣の骨で作った1号ですら床をブチ抜いたってのに、今度は空飛ぶ小型艇だと? 正気の沙汰じゃねえぞ、事故が起きても知らんからな。
しかし、ツヨシの情熱のエンジンは一度温まったら誰にも止められない。
「甘いな、おっちゃん。ロマンに正気なんて必要ないのさ。必要なのは、パッションと、ちょっとしたオーバーテクノロジーだ!」
かくして、第2段階の巨大プロジェクト――『スーパーロボット・パイルダーオン計画』が盛大に幕を開けた。
まずは、パイロットが乗り込むための小型飛行艇、名付けて『ツヨシ・パイルダー(プロペラ付きの少々いびつなバケツ型)』の建造である。
だが、ここで大きな問題に直面した。動力源の確保だ。1号にはそこらへんの魔獣の魔石を適当にぶち込んでいたが、今度は「空を飛ぶこと」と「ロボット全体のメインエンジンを稼働させること」が前提となる。普通の魔石では出力不足ですぐにオーバーヒートを起こし、途中で墜落するのがオチだった。
「うーん、もっとこう……高純度で、エネルギー効率が良くて、しかも名前がカッコいいエネルギー源はないものか……」
ツヨシが頭を抱えてガレージの中をウロウロしていると、村の物知りなおじいさんが、杖をつきながらのんびりと通りがかった。
「ほう、エネルギー源の探し物か。それなら、村の北にある『光るキノコ洞窟』の奥に、昔から村人が近づかない『月見草の結晶』ってのがあるがね。あれは夜になると青白く発光して、触るとビリッと痺れる変な石ころじゃよ。何の役にも立たんがな」
ツヨシの目が、カッッと見開いた。
光るキノコ? 青白く発光? ビリッと痺れる?
「……それだぁっ!!」
ツヨシは飛び上がると、おじいさんに礼を言う間もなく、一目散に北の洞窟へと駆け出した。
数時間後。
ガレージに戻ってきたツヨシの手には、人間の頭ほどの大きさをした、不気味で美しい青白い発光石がしっかりと抱えられていた。
「フハハハ……これだ、これに違いない! 現代科学(の妄想)と異世界の神秘が生み出した奇跡のエネルギー……名付けて、『光子力』ならぬ、『月光力エネルギー』だ!」
もちろん、本家の光子力科学研究所とは何の縁もゆかりもないし、ただの魔力を帯びた高密度鉱石なのだが、ツヨシの脳内では完全に『マジンガーZのテーマ曲』がフルボリュームで再生されている。
さっそく、この『月光力結晶』をハンマーで細かく砕き、特製の魔力炉(ただの分厚い耐熱鍋)に組み込んでパイルダーのエンジンを直結させる。さらに、ガレージの中央には、その巨大なボディを支えるための漆黒の装甲パーツ――ドワーフ鉄と村の廃材を叩き込んだ、高さ四メートルの重厚な胴体が着々と組み上がりつつあった。
「よし、エネルギー充填、百分の一! パイルダー、スィー――ン……じゃなくて、発進!」
ツヨシは自作のヘルメットをかぶり、プロペラ付きのバケツ型パイルダーに乗り込むと、見よう見まねでレバーを引いた。
――ブォォォン! ポポポポポン……!
お世辞にも洗練されているとは言えないすさまじい爆音とともに、パイルダーがガレージの天井すれすれをふらふらと浮き上がる。
「おっとっと、重心が前につんめってるぞ! もうちょっと右のフラップを調整して……!」
冷や汗を流しながらスティックを操作し、ツヨシは何とか機体を安定させた。
ガレージの天井に空けた特製の穴から、真下に鎮座する漆黒の巨大ロボットの頭部が見える。
「行くぞ……これぞ昭和の男のロマン、合体シークエンス!」
ツヨシは深く呼吸をし、パイルダーを巨大ロボの頭部の真上へと慎重に誘導した。
「……パイルダー、オオオオ――ンッ!!」
ガチャン! ゴウンッ!!
完璧なタイミングで機体が頭部のジョイントに噛み合い、コクピット全体が「ガコン」と一階層下へスライドインした。
その瞬間、機体の目がドギツイほどの真紅の光を放ち、胸のダクト部分から『月光力』の余剰エネルギーがプシューッと激しい蒸気となって盛大に吹き出した。
ガレージの外で固唾を飲んで見守っていた村の子供たちが、一瞬の静寂のあと、割れんばかりの大歓声を上げる。
「すげえええええ――っ! 合体したぞ!」
「頭の上に飛行機がスポッとはまった!」
コクピットの中で、ツヨシは額の汗を拭いながら、目の前にずらりと並べた自作の怪しげなスイッチとメーターの数々を見渡した。
「ふふ……ふははは! 見事だ、実に完璧なドッキングだ。これぞ、我が人生の集大成にして、異世界を揺るがす鋼の城――名付けて、『マジンガー・ツヨシ(仮)』だ!」
外の村人たちには「またおっさんが変な名前の鉄の塊を作って叫んでるぞ」と生温かい目で見られていたが、ツヨシの胸の中は熱い感動と少年のようなワクワクでいっぱいだった。
剣と魔法のファンタジー世界に突如として降臨した、昭和のスーパーロボットの魂。
次はこの鋼の城を駆って、いったいどんな大騒動を引き起こすのか――ツヨシのガレージライフは、さらに激しく、そしてコミカルに加速していくのだった。




