第4話:動け、僕のアイアン!②
「いやぁ、すっぽりハマったな」
ガレージの床を盛大に突き破り、見事に横転した試作一号機を見下ろしながら、ツヨシは腕を組んでフームとうなった。
前回のテスト走行は、開始わずか五秒での大転落という華々しいクラッシュに終わった。周囲で見物していた村の子供たちは、最初は驚いていたものの、今ではすっかり「おっさんの珍妙な動くガラクタショー」として定着したらしい。今日も今日とて、ガレージの周りには野次馬ならぬ「応援の子供たち」が特等席の切り株に腰掛け、干し芋をかじりながら見守っている。
「ツヨシのおじさん、今度はコケないように足に竹馬でも縛ったら?」
「バカ言うな、そんなちゃちなもんじゃロマンがないだろ。男ならキャタピラか、せめて複関節だ!」
子供たちの無責任なヤジを心地よいBGM聞きながら、ツヨシは額の汗を拭い、気合を入れ直す。
「よし、昨晩の反省を生かして改良だ。あの横転は、重心が高すぎたのと、足首のショックアブソーバー――つまり馬車のバネじゃ魔獣の体重を支えきれなかったのが原因だな」
ツヨシはすぐさま、村の鍛冶屋のおっちゃんから融通してもらった硬質ドワーフ鉄の端材と、森で拾ってきた「弾力ゴケ」の塊を持ち出した。これを足首の関節にこれでもかと詰め込み、さらに頭部のチャームポイントである鍋の蓋を、より空気抵抗の少なそうな(?)兜型に溶接し直す。
名付けて、『28号タイプ・改』。
「ふふふ……これぞ、昭和の泥臭さと異世界の神秘が融合した、究極の鉄巨人よ……!」
ツヨシが一人で悦に入っていると、ガレージの外が一際ざわついた。
「おい、大変だ! 森の方から、またオーク・ボアの群れが暴れながらこっちに向かってくるぞ!」
村の青年が青い顔をして走り込んできた。
何ということか、この前の個体の仲間か番か、はたまたただの通りすがりか。今度は小型ではなく、大人の牛ほどもある巨体のオーク・ボアが三頭、鼻息を荒くしながら村の畑を荒らしつつ突進してきているという。
「村の畑が踏み荒らされる! 誰か、冒険者ギルドに……!」
「間に合わん! あのスピードなら、ここへ来るのは一分もかからんぞ!」
村中がパニックに陥る中、ツヨシはカッと目を見開いた。
「……絶好のテストベッド(実験場)が、自ら向こうからやって来てくれたってわけか」
ツヨシは微塵も怯むことなく、むしろ嬉しそうに口元をニヤリと歪めた。
「よし、出番だマイ・アイアン! お前の真価をあのイノシシどもに見せつけてやれ!」
ツヨシは木製の巨大コントローラーを両手でしっかりと握りしめ、起動スイッチをガチャンと叩いた。
――ブォン! ドクン、ドクン、ドクンッ!
ガレージの奥で、魔石の炉が猛烈な熱量を放ち始める。機体の目がギキッと鋭い赤い光を放ち、ギシギシと重苦しい金属音を立てながら、試作一号機・改がその巨体をスッと立ち上がらせた。今度は足首の弾力ゴケとドワーフ鉄の補強が功を奏し、床を突き破ることなく見事にバランスを保っている。
「おお……! 立った、今度は完璧に立ったぞ!」
「すげえ! おっさん、なんかカッコいいぞ!」
子供たちの歓声が飛ぶ中、ツヨシはコントローラーのレバーを思い切り前方に押し込んだ。
「いっけええええーーっ! 正義の鉄槌を味あわせてやれ!」
ガチャン、ガチャン、ガシャン!
重厚な足音が大地を揺らし、試作一号機・改がガレージの壁を豪快にブチ破りながら(※出入り口のサイズを忘れていた)村の広場へと進み出た。
ちょうどその時、村の入り口に猛突進してきた巨体のオーク・ボア三頭が、目の前にそびえ立った不気味な鉄の塊に気づき、急ブレーキを踏んだ。
「ブゴッ……!?」
赤目を剥いて威嚇するオーク・ボア。その大きさは二メートルを超え、牙は鋭く光っている。村人たちは思わず目を覆った。あんなガラクタのロボットなど、一突きでスクラップにされてしまうと誰もが思ったのだ。
だが、ツヨシの脳内では完全に『あのテーマ曲』が盛大に鳴り響いていた。
――進め、正義の味方。ロボットは力だ、正義の味方だ!
「フッ、所詮は野生の獣よ。こっちは六十年の人生経験と、昭和アニメの魂が詰まってんだ!」
ツヨシはコントローラーの「右腕フック発射ボタン(※ただのバネ式ワイヤー)」を叩き込んだ。
バシュッ!
音とともに、鉄の塊の右腕がゴツい拳ごと勢いよく飛び出した。もちろん、ワイヤーで繋がっているので飛んでいくだけで戻ってくる仕組みだ。
ガツンッ!!!
凄まじい金属音と鈍い衝撃音が広場にこだました。
先頭を走っていたリーダー格のオーク・ボアの鼻先に、鉄製の拳がジャストミート。そのあまりの衝撃と重量感に、巨体の魔獣は盛大に目を回し、そのままゴロンと真横にひっくり返って気絶した。
「「「……お……おおおお――っ!」」」
村中が、静寂ののち、凄まじい歓声に包まれた。
残りの二頭のオーク・ボアは、仲間が一撃で沈められた光景に恐怖したのか、「ブヒイイッ!」と情けない悲鳴を上げ、尻尾を巻いて一目散に森の奥へと逃げ帰っていった。
広場の真ん中。
煙を上げる試作一号機・改のコクピット(=遠くからコントローラーを握るツヨシの特等席)の脇で、ツヨシはフッと鼻を鳴らし、汗を拭った。
「ふう……危うく、第3話にして最終回を迎えるところだったな」
ツヨシがホッと胸を撫で下ろしていると、村の子供たちがどっと押し寄せ、ロボットの足にしがみついて大はしゃぎし始めた。
「すげえ! 一撃でであのデカブツを倒したぞ!」
「おっさん、あれ名前なんていうんだよ!」
子供たちのキラキラした眼差しを受け、ツヨシはふふんと胸を張り、高らかに宣言した。
ペンキを取り出し、その場で機体の胸元に大きくマジックで書き込む。
――『ツヨシ・アイアン1号』。
「よし、これで第一段階はクリアだ。だがな、子供たちよ……本当のロマンはここからだ。次はもっと空を飛ぶとか、合体するとか、そういう『男の夢』を詰め込むからな!」
村人たちのどよめきと喝采を背に、ツヨシは早くも次なる「スーパーロボット計画」の構想を頭の中で爆発させていた。
異世界の片隅で、昭和のオタクの暴走は、もはや誰にも止められないところまで来ていたのである。




