第3話:動け、僕のアイアン!①
そして迎えた、運命のテスト走行の朝。
朝日が昇るのと同時に、ツヨシはきっちり四十一度の朝風呂(村の井戸水を薪で温めた特製風呂)をキメてエンジンを全開にしていた。頭の中では「ガチャン、ガチャン」という重厚な金属音のテーマ曲がフルボリュームで再生されている。
ガレージの前には、昨日の今日にもかかわらず噂を聞きつけた村人たちが、まるで近所の夏祭りでも始まるかのように大勢集まっていた。特等席の切り株には子供たちが並び、手に手に干し芋や乾燥ベリーを握りしめてワクワクと目を輝かせている。
「おっさん、本当にあのガラクタが動くのかよ?」
「昨日までただの鉄の塊だったぞ。動く前にバラバラに崩れるに一票だ」
村の大人たちがヒソヒソと見物する中、ガレージの中央に鎮座しているのは――名付けて『28号タイプ・試作一号(仮)』であった。
あちこち継ぎはぎだらけのボディはオーク・ボアの硬質な外皮で補強され、頭部にはなぜかチャームポイントとして古い鍋の蓋がリメイクされて取り付けてある。手足の関節には、古い馬車に使われていたバネがむき出しで組み込まれていた。お世辞にもスタイリッシュとは言えず、どちらかといえば「ちょっと太った不格好な鉄の雪だるま」である。
「フフフ……プロポーションは愛嬌でカバーだ。肝心なのは中身のパッションと、確かなるギミックだからな!」
ツヨシは胸を張り、手元にある木製の「巨大なリモコン型コントローラー」をしっかりと握りしめた。赤色の大きなレバーと、ガチャンガチャンと手動で回すダイヤルがついている、昭和のテレビのチャンネル切り替え機を彷彿とさせるアナログ感満載の代物だ。
「それじゃあ、いってみるか……。動け、僕のアイアン!」
ツヨシが気合を込めて、リモコンの巨大なレバーをガチャンと前方へ押し込んだ瞬間だった。
ガレージの奥から、重低音が響いた。
――ブォン……、コポ、コポ、ドクンッ!
オーク・ボアの魔石を無理やり直結させた動力炉から、心臓音のような脈動が響き渡る。鉄の塊の目がカッと赤く光り輝いた。
「おおっ……!?」
村人たちがどよめき、一歩後ろに下がる。
ギギギ……、ガシャン!
重々しい金属音を立てながら、試作一号機がゆっくりと、実にゆっくりとその巨体を立ち上がらせた。足元がミシミシと音を立て、ガレージの床板が悲鳴を上げる。しかし、機体は倒れることなく、見事に二本足で直立したのだ。
「す、すげえ……立った! おっさんの作ったガラクタが本当に立ったぞ!」
最前列で見ていた村の少年が、飛び跳ねながら叫んだ。
ツヨシは得意満顔でリモコンのダイヤルをグリッと回した。
「ふははは! 見たか、これが昭和のロマンと、異世界の素材が奇跡の融合を果たした結果だ! さあ、一歩前へ進め、マイ・サン!」
しかし、ツヨシの華麗な操縦に応えようとした試作機は、ガチャン、と力強く足を一歩踏み出した――その次の瞬間。
ズシーン!
「うわっ、重っ!」
あまりの重量に、廃材を寄せ集めたガレージの床板が耐え切れず、試作機の右足が床を盛大に突き破り、見事にすっぽりと地面にハマってしまった。機体はバランスを崩し、「ガシャーン!」という盛大な音を立てて、ガレージの壁ごと派手に横転したのである。
静まり返る周囲。
土煙がモクモクと立ち込める中、横転した鉄の塊の頭部(鍋の蓋)がポロリと外れ、コロコロとツヨシの足元まで転がってきた。
シーン……と静まり返ったあと、村人たちからどっと笑い声が湧き起こった。
「なんだ、結局転ぶんかい!」
「おいおい、自爆芸のつもりかよ!」
子供たちもお腹を抱えて大爆笑している。
ツヨシは転がってきた鍋の蓋を拾い上げ、苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
「……むう。やっぱり、足回りのサスペンションと重量バランスの計算をもう一度見直す必要があるな。床の強度も補強しなきゃいかん。よし、次はもっとこう、ジェット噴射の推進力を……!」
盛大に転び、床をブチ破り、初日のテスト走行は大失敗に終わった。
だが、失敗してもツヨシの心にある情熱の炎はまったく消えることはない。むしろ、これから始まる果てしないロボット改造の日々に、彼の胸はワクワクと高鳴るばかりだった。
異世界の片隅の小さなガレージから、ツヨシの波乱万丈でコミカルなスローライフ・ビルド計画は、こうして文字通り足元をすくわれながらも、最高ににぎやかな一歩を踏み出したのだった。




