第12話:最終決戦、アトムの心とガンダムの未来
「いやぁ、まさかあの魔王軍の量産型人形どもが、あそこまであっさりと『泥臭い物量戦』の前に散っていくとはなぁ」
ガレージの作業台にもたれかかり、ツヨシはマグカップのコーヒーをすすりながら、どこか物足りなそうに首をかしげた。
先日の「量産型防衛戦」でアストライア村を盛大に守り抜いて以来、周辺の魔物や魔王軍の残党たちは、すっかりこの村を「ヤバい鉄の塊を量産するイカれたオッサンの巣窟」として恐れ、すっかり寄り付かなくなっていた。村の平和は完全に守られた。ツヨシも「これでしばらくはのんびりガレージいじりができる」と安心しきっていたのだ。
スローライフを満喫しながら、人類のロボットアニメ史の歴史とロマンが完全融合した究極の機体を毎日コツコツと楽しみながら作成していた
――だが、世界の運命というものは、往々にしてそういう平和で油断しきったタイミングで、一番めんどくさい形でやってくるものである。
「……フフフ、人間どもよ。我が闇の軍勢の真の恐怖、いまこそ味わうがいい!」
突如として、アストライア村の上空の空気がピキリと凍りついた。
青空が真っ黒な暗雲に覆われ、地平線の彼方から湧き上がってきたのは、これまでのどんなザコや空中要塞、量産型軍団とも一線を画す、圧倒的で禍々しい漆黒の魔力だった。空間そのものがぐにゃりと歪み、その中心から現れたのは、影の衣をまとった圧倒的な巨躯――すべての元凶である『魔王』その人の降臨であった。
身長は十メートルを超え、全身から放たれる漆黒の魔導炎は、周囲の大地を瞬く間に灰に変えていく。
「おのれ、あの手下の小者どもをスクラップにし、量産型とかいうふざけた鉄くずの群れで私の軍勢を愚弄しやがって……! この私が直接、この村を根本から根絶やしにしてくれるわ!」
「「「ひ、ひえええええ――っ! 魔王様だぁーーっ!! 本物が来ちまったぞおい!」」」
村中が文字通りのパニックの坩堝と化した。これまでの戦闘とはケタが違う。魔王の放つ威圧感だけで、立っているのもやっとの状態だ。村長は腰を抜かしてその場にへたり込み、子供たちはガレージの隅でブルブルと震え上がっている。
その時だった。
ガレージの奥から、重低音を響かせてゆっくりと、だが揺るぎない足取りで姿を現す影があった。
「騒々しいな……。せっかく優雅な朝風呂のあとのコーヒーを、最高の焼き加減のトーストとともに味わっていたってのに」
パイルダーでコクピットに収まったツヨシが、ヘルメットのバイザーをカチリと上げて姿を現した。
その下に鎮座する機体は、これまでの「ガラクタの寄せ集め」や「その場しのぎの合体キメラ」とは完全に一線を画していた。
頭部には『鉄腕アトム』を彷彿とさせる、純粋無垢な正義の意志と希望を感じさせるスマートなシルエット。胸元や装甲には『マジンガーZ』譲りの重厚なドワーフ鉄と、フル稼働する月光力炉の眩い輝き。そして背中や肩のラインには、未来を切り開く『機動戦士ガンダム』的スマートさと圧倒的な機動性を併せ持った――まさに、人類のロボットアニメ史の歴史とロマンが完全融合した究極の最終決戦仕様、名付けて『アルティメット・ツヨシ・オムニバス(仮)』。
「魔王さんよ。お前、さっきから『根絶やしにする』だの『恐怖を味わえ』だの言ってるが……分かってないな」
ツヨシはフッと鼻で笑い、両手でしっかりとメインレバーを握りしめた。
「ロボットってのはな、暴力や侵略の道具じゃねえんだよ! 『正義の味方』であり、人類の夢と未来を乗せて大空を駆ける『希望の結晶』なんだ!」
「なにをわけのわからない寝言を寝ぼけた顔で……! 消し飛べ、すべてを無に戻す滅びのダーク・ノヴァ!」
魔王が両手を天に掲げ、すべてを飲み込むような漆黒の魔導エネルギーの奔流を放った。空間が引き裂かれ、凄まじい熱量と圧力がツヨシの機体へと一気に襲いかかる。
「いっけえええええ――っ! アトムの心と、マジンガーの装甲と、ガンダムの未来を、今こそこの拳に見せつけてやるぜ!」
ツヨシの絶叫とともに、機体の双眼がまばゆいほどの青白い光を放った。
月光力炉が限界を超えた出力を叩き出し、機体は重力すら完全無視してまっすぐ魔王の放った滅びの奔流へと突進していく。
ガキィィィンッ!! と凄まじい衝撃音が世界を揺るがした。
魔王の放った滅びのエネルギーに対し、ツヨシの機体は一歩も引かない。むしろ、その胸元から放たれる純粋な「昭和ロボット愛とロマンのエネルギー(※ほぼツヨシの気合と現場の執念)」が、魔導の闇を少しずつ、しかし確実に押し返していく。
「バカな……!? 人間の分際で、私の魔導極限のエネルギーを押し返すだと……!?」
魔王が信じられないものを見る目で驚愕に目を見開く。
「とどめだぁ! これが俺の、六十年の人生をかけたファイナル・ロマン・パンチだ!」
ツヨシが操る最終決戦仕様機が、文字通り音速の壁を超えて魔王の懐へと飛び込んだ。
繰り出された右拳には、これまでに集めたすべての月光力結晶と、ガレージのスクラップたちの魂(?)がぎっしりと圧縮されている。
ドガアアアァァァンッ!!!!!
世界が真っ白な光に包まれ、次の瞬間、凄まじい爆風が周囲の森の木々をなぎ払った。
数秒後、圧倒的な光が収まったとき――そこに立っていたのは、あちこちからオイルをプシューッと吹き出しながらも堂々と仁王立ちする『アルティメット・ツヨシ・オムニバス』と、見事に目が点になり、そのまま地面に大の字で盛大に気絶してひっくり返った魔王の姿だった。
「「「……勝った……のか?」」」
村人たちが恐る恐る目を開け、そして次の瞬間、ガレージの周りから割れんばかりの大歓声が爆発した。
「やったぁぁぁ! 魔王を倒したぞおっさんがぁぁぁ!」
「すげええええ! 世界を救ったぞおっさん!」
コクピットからパイルダーをスライドアウトさせ、ツヨシは額の汗を拭いながら深々と息をついた。
「ふう……危うく、我がガレージの平和が危うくなるところだったな」
魔王はそのまま意識を失ったまま、アストライア村、そしてこの異世界には再び完全な平和が訪れたのだった。その後、意識を取り戻した魔王はすごすごと恥をかいて魔界へ逃げ帰った。
こうして、昭和のロボットオタク・ツヨシの異世界転生における最大の戦いは、盛大なロマンの爆発とともに、伝説の幕を閉じたのである。




