第13話:エンディング・ビルダーズ
魔王軍の脅威が完全に去り、アストライア村に真の意味での「完全なる平和」が訪れてから、数ヶ月が過ぎた。
あの最終決戦で魔王を渾身のロマンパンチで盛大にぶっ飛ばした(そしてすごすごと魔界へ逃げ返らせた)功績により、ツヨシは国王から「名誉王国技師長」の称号と、国庫を揺るがすほどの莫大な褒賞金を贈呈されることになった。王城から派遣されたピカピカの正装を着た使者が、黄金のトレイに小山のように積まれた金貨をジャラジャラと差し出しながら、「さあ、王都のど真ん中にそびえ立つ大理石の大邸宅を、あるいは広大な領地を!」と恭しく申し出たとき、ツヨシは鼻をほじりながらこう答えた。
「いや、そんなデカい家はいらん。掃除が面倒だし、第一、夜中にこっそり溶接やグラインダーをいじるスペースがないだろ。金貨の半分はドワーフ鉄と潤滑油の買い付けに回して、残りは村の子供たちの駄菓子屋の永久無料化資金にしてくれ」
使者は「なんと無欲で高潔な……!」と感動のあまりガタガタと号泣したが、村の住民たちは「あぁ、いつものツヨシのおっさんだわ」と完全に冷めた目でその光景を見守っていた。
こうして、ツヨシが望んだものは地位でも名誉でもなかった。
彼が手に入れたのは、以前よりも二倍ほど広くなり、耐火性と換気性能が抜群にアップグレードされた、特製ガレージ付きの快適な平屋だった。
* * *
初夏の心地よい朝風が、アストライア村の緑豊かな丘をどこまでも爽やかに吹き抜ける。
「――ふぅ……。やっぱり、これだよ、これ。この朝の静けさと、湯上がりの一杯は代えがたいな」
ガレージの脇に作られた特製の木製縁側に深く腰掛け、ツヨシはマグカップを傾けた。
中身はもちろん、厳選された異世界の豆を香ばしくすり潰して淹れた、こだわりの自家製ブレンドコーヒーである。その芳醇な香りを鼻腔で楽しみながら一口ゆっくりと味わったあと、ツヨシは視線をガレージの奥へと向けた。
そこには、これまでの激闘を共にしてきた相棒たちがずらりと誇らしげに並んでいる。
初代の「ツヨシ・アイアン1号」、空を舞った「マジンガー・ツヨシ」、無理やり合体した「ゲッター風キメラロボ」、そして村を守り抜いた「ザクっぽい何か」の量産型小隊。どれも戦闘や特訓の傷跡が痛々しく残っているが、ツヨシにとっては我が子のように愛おしい「男のロマンの結晶」である。
「おっさーん! いつまで朝のコーヒーでまったりしてんだよ! 早く今日の設計図を見せてくれよ!」
ガレージの入り口から、バタバタと威勢の良い足音が響いてきた。
見れば、あの時いつも干し芋をかじっていた少年を筆頭に、村の子供たちがワイワイと大勢で押し寄せてきている。その手には、森で拾ってきた謎の光る歯車や、そこらへんの分厚いトタン板がしっかりと握られていた。
「コラ、朝の優雅なコーヒータイムを満喫している紳士に向かってなんだその態度は。第一、昨日の宿題の『てこ原理と重力バランス、およびモーメント計算のドリル』はしっかり終わらせたのか?」
ツヨシが片眉を上げて厳しく見せると、子供たちは「えー、そんなのロボット作りに直接関係ないじゃん!」と一斉に盛大なブーイングを飛ばした。
「バカモノ! 基礎の物理なくして、真のスーパーロボットは作れん! アトムだって、マジンガーだって、ガンダムだって、緻密な理論の裏付けがあってこそ大空を飛べるんだ!」
「はーい……」と、子供たちは渋々ながらも、ガレージの隅に特設された「勉強机兼・設計図書き場」へとトボトボと座っていく。
その微笑ましくも賑やかな光景を眺めながら、ツヨシはふっと満足げに優しい笑みを浮かべた。
毎朝、きっちり四十一度に調整したお湯で朝風呂を浴び、脳内で昭和アニメのテーマ曲を高らかに響かせながら淹れたてのコーヒーを飲む。
そして、昼間は子供たちと一緒にガレージで泥だらけになりながら、まだ見ぬ次世代の「夢のメカ」の設計図を描く。剣と魔法が支配するはずのファンタジー異世界でありながら、このガレージの一角だけは完全に昭和の熱いロボットアニメの撮影所と化していた。
「さてと……」
ツヨシはゆっくりと立ち上がり、油まみれの作業着の裾をパタパタと払うと、愛用のレンチを手に取った。
「そろそろ、あの『五段階変形機構付きの新型ドリルタンク』の設計図を本格的にブラッシュアップするか。次はドリルが左右にパカーッと割れて、そこから謎の熱線ビームが出る仕様にしようそうしよう」
「おっさん、それ絶対ロマンだけど、どう考えても重量オーバーで自滅するやつだよ!」
「うるさい! ロマンに効率や実用性を求めたらそこでおしまいなんだよ!」
子供たちの元気な笑い声と、ガチャンガチャンと金属を叩く小気味よい音が、のどかな異世界の青空へとどこまでも高く響き渡っていく。
鉄とロマンと、少しばかりのネジの緩んだ爆発音に満ちた日々。
還暦を過ぎた昭和のオタク・ツヨシの、世界で一番楽しくてコミカルな異世界スローライフは、今日も明日も、ガレージのシャッターの向こう側で元気いっぱいに動き続けているのだった。
(ツヨシシリーズ第9弾『異世界に転生しちゃったのでロボットつくってみた』・完)
最後まで読んでいただきありがとうございました。明日からは「ツヨシ」シリーズ第10弾が始まります。




