第11話:一年戦争ならぬ、一ヶ月防衛戦の幕開け
「いやぁ、隣国の牧場の一件も丸く収まったことだし、我がガレージの量産化計画もいよいよ仕上げの時期だな」
マグカップのコーヒーを傾けながら、ツヨシはガレージの作業台にもたれてフッと満足げに息をついた。
先日の「隣国お詫び行脚」を経て、ツヨシが痛感したのは「個人の力や一機限りのスーパーロボットだけでは、広範囲の防衛や突発的な軍事脅威に対応しきれない」という冷徹な現実だった。そこで導き出された答えが、コストパフォーマンスと整備性に優れた「泥臭い量産型ロボットによる小隊防衛網」の構築である。
数日間、ガルドの鍛冶工房とガレージを往復しながら叩き出し続けた「ザクっぽい何か・量産型」は、ついに全五機の小隊として見事なまでにガレージの奥にずらりと整列していた。高さ二メートルほど。ずんぐりとした灰緑色のボディに、頭部からピンと伸びた一本のブレードアンテナ。そして胸元には、なぜかマジックで大きく「量」ならぬ「ツ」の文字が書き殴られている。
「おっさん、これ本当に動くのかよ……なんか目が光ってないやつもいるぞ?」
切り株に座り、干し芋をかじりながら少年が不安そうに覗き込む。
「バカを言うな! 量産型ってのはな、洗練された無機質な美しさと、現場で叩き上げられたタフさが命なのさ。よし、ちょうどいい。その性能テストを兼ねて、今日の午後から『防衛演習』でも……」
――ズガガガガッ! ドゴォォンッ!!
そのツヨシの言葉を遮るように、村の北側の地平線から、突如として尋常ではない地響きと凄まじい黒煙が巻き上がった。
「な、なんだぁ……!?」
鳥たちが一斉にギャーギャーと鳴きながら空へ逃げ出し、村の警鐘がカンカンカンとけたたましく鳴り響く。
村の自警団の若い衆が、顔面を真っ青にしてガレージへ転がり込んできた。
フレアのように激しく立ち込める土煙の向こうから現れたのは、これまでの魔獣の群れでもなければ、あの空中要塞の残党でもない。同じ規格で完全に統一され、無機質な銀色の光を放つ『本格的な量産型魔導人形』の大軍団だった。その数、なんと二十機。手に手に魔導銃やスパイクシールドを構え、規則正しい足音を立てながら、着実にアストライア村を包囲しつつある。
「フハハハハ! 愚かなる人間の村よ! 我が魔王軍が誇る最新鋭・量産型魔導人形二十機による完全包囲網だ! 降伏しなければ、この村を更地にしてくれる!」
敵の指揮官の傲慢な声が、拡声魔道具を通じて村全体に響き渡った。
村中が文字通りの阿鼻叫喚のパニックに突入した。
「包囲された……! もうおしまいだぁ!」
「魔王軍の本格的な軍隊じゃないか! 一体どうすれば……!」
村人たちが頭を抱え、泣き叫ぶ子供たちを抱きしめて震え上がる。
その時だった。
ガレージのシャッターが、ガタガタとすさまじい音を立てて強引に押し開けられた。
中から飛び出してきたのは、ピカピカのスーパーロボットでもなければ、謎のキメラロボでもない。くすんだ灰緑色に塗られた、妙に泥臭い「ザクっぽい何か・量産型」の五機小隊だった。
中央の指揮官機(頭に一本アンテナ、胸に「ツ」の文字)のハッチがガチャンと開き、ツヨシがヘルメットのバイザーをグイッと押し上げながら顔を出した。
「騒々しいな……! せっかく優雅な午後のお茶を楽しんでいたってのに、勝手に村を包囲するとはいい度胸じゃないか」
「な、なんだあいつは……!? あの変な色の鉄の塊が五機だけだと……?」
敵の指揮官が、あまりのシュールな光景に思わず言葉を失う。
ツヨシはフンと鼻を鳴らし、自作のコントロールパネルのボタンをパチパチと叩いた。
「いいかお前たち! 戦争ってのはなぁ、お洒落な必殺技の撃ち合いじゃない。泥臭い物量戦と、現場の整備性、そして『量産型は伊達じゃない』っていう意地で決まるんだよ!」
「いっけえええええ――っ! 量産型小隊、前へ!」
ツヨシが操るリーダー機を先頭に、後ろに続く四機の「ザクっぽい何か」が、一糸乱れぬ(※ツヨシがリモコンのレバーをガチャガチャとまとめて動かしているだけ)動きで、敵の包囲網へと突撃していった。
バババババッ! と敵の魔導人形から魔導弾が放たれる。
だが、ツヨシは微動だにせず叫んだ。
「左舷、弾幕が薄いぞ! 右翼、迂回して回り込め!」(※味方は他に誰もいない)
もちろん、実際の戦術なんてものはなく、ツヨシの頭の中にある古い戦争映画とガンダムの記憶をそのままアストライア村の広場に再現しているだけである。しかし、ガルドの鍛冶工房で鍛え上げられたドワーフ鉄の装甲は伊達ではなく、敵の魔導弾を「カキィィン!」と頼もしい金属音ではじき返し、一歩も引かない。
「なっ、なんだこの硬さは!? 魔法の気配がしない、ただの無骨な物理の塊だぞ!」
敵の魔導人形たちが混乱し始めたその瞬間、ツヨシの量産型小隊が肉薄した。
派手な光子力ビームや必殺技はない。あるのは、ドワーフ鉄のパイプを振り回す「泥臭い殴り合い」、足元をすくう「タックル」、さらには「目つぶし砂かけ攻撃」という、あまりにも実戦的かつ容赦のない近接格闘術の嵐だった。
ガキィンッ! ドカッ! バキィッ!
「グワーッ! 近接格闘を想定していない私たちの魔導人形が次々とスクラップに……っ!」
わずか十分の出来事だった。
魔王軍が誇る最新鋭の量産型魔導人形二十機は、ツヨシ特製の「泥臭い量産型ゴリ押し戦法」の前に、次々とバラバラの鉄くずへと変えられていく。
「た、撤退だぁーーっ! 化け物め、こんな泥臭い戦争をする奴らがいるかぁ!」
指揮官は恐怖に顔を引きつらせ、命からがら尻尾を巻いて森の奥へと逃げ出していった。
静まり返った戦場。
ガルドの工房の前で、ツヨシは量産型リーダー機のコクピットから降り立ち、額の汗を拭いながら深々と息をついた。
「ふう……これぞ、一年戦争ならぬ、一ヶ月……いや、実質十分の防衛戦だな。やっぱり、村の平和を支えるのは、個人のスーパーヒーローより、整備性の高い量産型機体の物量だわ」
地上で見守っていた村人たちは、呆れを通り越して、もはや言葉を失いながらも、やがてパラパラと、そして盛大な拍手を送り始めた。
最前列にいた少年は、キラキラした目でツヨシの量産型ロボットを見上げながら叫んだ。
「おっさん! すげえよ! あの軍隊をたった五機で追い払ったぞ!」
ツヨシはフッと笑い、愛用のレンチを肩に担いだ。
魔王軍の包囲網を泥臭い量産機で撃退し、アストライア村の平和は今日も完璧に(そしてかなりシュールに)守られたのだった。




