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第10話 願望の行方 1-1
雲は、あまり出ていなかった。
月が綺麗な夜である。
石上宵は、そんな夜空を仰ぎ見ていた。
夜風が、心地よかった。
宵は、まっすぐに家に帰るつもりはなかった。
「母さん、どうせまだ帰ってきていないだろうし……な」
宵は、誰にというわけでもなく、言った。
自宅であるマンションには、誰もいないのだ。
そこに、一人で、
「ただいま」
と言いながら玄関を開けるのが、宵は嫌いだった。
もちろん、
「お帰りなさい」
という返事などない。
それから暗い室内に無言で灯りをパチパチと付けていくのも、嫌いだった。
なぜ嫌いなのか。
うまく言い表せない。
だが、ぼんやりとした理由ならある。
なんとなく虚しいのだ。
漠然とした虚しさだ。




