第7話 昼下がりの少女たち 8
ストロベリー・スイーツ・ストリートが、開催される、土曜日である。
空は、青く、澄んでいた。
天気は、快晴で、風もなく、絶好の行楽日和である。
彼方は、待ち合わせ場所の、桶野川駅前のロータリーに、いた。
辺りを回したが、七色と綺亜は、まだ来ていないようだった。
(予定よりも、少し、早いしな)
と、彼方は、腕時計の針を眺めながら、思った。
期間限定のイベントである、ストロベリー・スイーツ・ストリートは、桶野川市から、電車で、一時間半程の場所に位置する、F市にある、商業施設の一画で、開催される。
桶野川駅から、皆で、同じ電車に、乗り込んで、目的地の最寄りの駅まで、向かう予定である。
(結構、距離があるな)
というのが、彼方の、素直な感想だった。
一時間半程、電車に揺られることになるので、往復三時間、小旅行とまでは言えないものの、ちょとした、遠出である。
イベント地での滞在時間と合わせれば、丸一日だろう。
彼方は、ローファーとジーンズに、ジャケットに、ダッフルコートという、シンプルな格好である。
「おはようございます」
と、彼方に、声が、かかった。
茶色のコート姿の、七色が、立っていた。
七色の姿を見て、彼方は、
(あれっ)
と、思った。
七色は、ベレー帽を、被っていて、良く似合っていた。
葉坂学園では、制服を、着崩して着用する生徒もいたが、七色は、いつも、シンプルに、着こなしていた。
七色は、いつもの制服だと、かっちりとした、クールビューティーの印象が強いが、今日の服装だと、ふんわりしたシルエットで、可愛らしい印象である。
(いつもと雰囲気が、違うな)
と、彼方は、思った。
彼方が、無意識に、七色を、見ていると、
「どうかしましたか?」
と、七色に、聞かれた。
彼方は、聞かれて、我に帰ったように、
「や。いつもの御月さんと、イメージが、違うから…」
と、言った。
「違いますか?それは、いつもよりも良いと言う意味でしょうか、それとも、逆の意味でしょうか?」
と、七色が、言った。
彼方は、笑って、
「いつもの御月さんも、良いけれども、今日は、普段と違った御月さんが、見られたなという意味だよ」
と、言った。
と、七色は、短く、頷いて、ベレー帽子の位置を直して、
「……コーディネート、頑張って、考えてきて、良かった……」
「ごめん。何か言ってくれた?」
と、彼方が、聞いた。
七色は、何でもありません、と、答えた。
五分程して、綺亜が、やって来た。
「おはよう、七色、彼方。ちょっと、遅れちゃった?」
と、綺亜が、言った。
「私も、今来たところです。今ちょうど、待ち合わせの時間になったところです」
と、七色は、言った。
綺亜は、若草色のコート姿で、髪型は、学園では見せたことがない、ツインテールだった。
「綺亜さんのその髪型、はじめて見ました」
「どうかしら?」
「似合っていますよ」
「ありがとう。七色の私服も、普段見ないから、新鮮だわ」
と、綺亜が、言って、
「あまりやらない髪型だから、自分でも、ちょっと違和感が、あるんだけれどもね」
「私も、試してみたいですが、今の髪の長さだと、難しいですね」
「七色は、今の髪型が、一番似合ってるんじゃない」
綺亜に関しても、七色の時と同じで、普段とのギャップに、彼方は、とまどったが、
「じゃあ、全員、揃ったし、行こうか」
と、言った。
三人は、改札口に、向かった。
綺亜は、独り言のように、
「せっかく、髪型変えてきたんだから、何か一言くらい言ってくれても良いじゃない……」
「どうかしたの、綺亜?」
と、歩き始めていた彼方が、言った。
綺亜は、内心、
(朴念仁……)
と、思いながら、
「別に。何でもないわ。行きましょう」
と、言った。
彼方と七色と綺亜の三人は、電車に、乗った。
目的地の駅まで、乗り換えは、三回である。
車内は、土曜日のためか、制服姿の若者や、スーツ姿の人物は、少なかった。
代わりに、家族連れや、私服姿の若者が、目立った。
一度目の乗り換えの後の、電車は、とても混んでいた。
大きな都市に、直結している路線のためかもしれない。
三人とも、乗車口付近で、立っていた。
停車して、人の波が、どっと押し寄せてきた。
「二人とも、大丈夫?」
人波に、押されながら、彼方が、聞いた。
「何とか、ね……って、近すぎじゃない?」
彼方と綺亜は、真正面で、向き合う格好になっていた。
「や。ごめん。すごい混んでいるものだから。困ったね。」
「別に、謝らなくても、良いけど……」
「次の乗り換えまで、三十分くらいだと思うけれども、大丈夫?」
「平気よ。ありがとう」
綺亜よりも、彼方のほうが、背が高いので、自然と、綺亜が、彼方を見上げる形である。
(顔、近すぎるのよ……まともに、見れないじゃない……あ、でも、上目遣いは効果的だって、杏朱が、言ってたし……ああ、もう!)
と、思いながら、綺亜は、頭を振った。
彼方は、綺亜の心の声には、気付かなかったようで、後ろにいる七色に向かって、
「御月さんも、平気?」
電車が、揺れて、七色の手が、彼方のコートのはじに、静かに、触れた。
「はい。平気です」
と、七色は、短く、言った。
「そう言えば、佳苗さんは、どこの売り場に、いるんだろう。せっかくだから、顔を出してみようと、思うんだけれども」
と、彼方が、言った。
七色が、
「イチゴのクレープ屋さんだと、言っていました」
と、言った。
彼方は、頷いて、
「それじゃあ、現地で、売り場を確認して、行ってみよう」
と、言った。




