第7話 昼下がりの少女たち 3
夕方の樋野川駅前は、人で、溢れていた。
桶野川駅の改札は、北口と、南口の、二箇所である。
駅前ロータリーは、二層構造になっている。
下の層は、タクシー乗り場とバスの停留所があり、上の層が、デパートなどの商業施設やオフィス街に、繋がっている。
綺亜は、雑踏の中に、まぎれていた。
綺亜は、軽く、ため息をついた。
(困ったな)
と、綺亜は、思った。
綺亜は、鞄の中を、見た。
朝、七色からもらった、パンフレットとチケット二枚が、あった。
桶野川市から、電車で、一時間半程の場所に位置する、F市にある、商業施設の一画で、開催される、ストロベリー・スイーツ・ストリートというイベントのものである。
綺亜は、改めて、パンフレットを、眺めながら、
(今度の土曜日、か)
想像以上に、自身が積極的でないことに、綺亜は、気付いてしまっていた。
夕闇の屋上での、七色との会話を、綺亜は、思い出していた。
『これは、恋のライバル宣言』
『……七色は』
『七色は、彼方のこと、どう思ってるの?』
『私は……』
『この言い方は、フェアじゃないわね』
『私は、彼方が、好き』
『七色の答えは……今は、良いわ』
『負けないんだから』
彼方が好きだと、恋のライバル宣言を、したのだった。
その時の七色の表情が、綺亜の目に、焼き付いていた。
彼方は、綺亜と七色の、共通の友人である。
彼方本人に好きだと、伝えたわけではないが、自身以外の者である七色に、伝えたのである。
自身の内に秘めていた想いを、言葉にして、外に、出したのだ。
(意識しすぎなのは、わかってるのよ)
と、綺亜は、心中、自身に、言い聞かせた。
それでも、彼方と会話をしようとすると、その宣言が、頭の中で、ちらついて、まともに顔を合わせることも、難しくなっていた。
意識しすぎて、緊張してしまうのである。
(何やってるんだろう。私……)
と、綺亜は、思った。
綺亜が、歩いていると、ふと、ある看板が、目に入った。
「占い屋、か」
と、綺亜は、呟いた。
半ば、思い付きで、綺亜は、中に、入ってみた。
店内は、お洒落な間接照明が置かれていて、薄暗かった。
受付の若い女性が、にっこりとして、
「先生のご指名は、ございますか?」
と、聞いた。
(こういうところに来るの、はじめてだな……)
と、綺亜は、考えながら、
「ええと、はじめてなので、特に、そういうのは」
と、緊張しながら、言った。
「かしこまりました。では、占い方法のご希望は、ございますか?」
と、受付の女性は、言って、備え付けの料金表を、見せながら、
「手相、占星術、姓名判断、色々ございます」
「希望も、特には……こういうところに来るのは、はじめてで」
と、綺亜は、正直に、言った。
受付の女性は、微笑んで、
「では、はじめての方向けの、お試しのコースが、よろしいかと思います。ご案内しますね」
と、綺亜を、招じた。
綺亜が、通されたのは、一番奥のスペースである。
テーブルが一脚と椅子が二脚の、小さな空間で、占い師が、座っていた。
占い師は、映画に登場する、魔術師のような帽子を、目深に、被っているので、顔は、良く見えなかった。
僅かに、柔らかく微笑んでいる口元が、見えるのみである。
「はじめまして」
と、占い師が、言った。
「はじめまして」
と、綺亜が、挨拶した。
綺亜は、占い師に促されて、椅子に、座りながら、
(すごく綺麗な髪。雰囲気も、素敵だな)
と、思った。
(声が若いし、意外と年も、近かったりして)
占い師は、両手を、テーブルの上に、置いて、
「そうね。年は、意外と、近いかもね」
と、言った。
「ええっ」
と、綺亜は、声を上げた。
「何で、わかるんですか」
「貴女から、私の姿は、帽子で、隠れてしまって良くわからないでしょうけれども、私には、心の眼が、あってね。可愛らしい貴女の姿が、良く見えるから」
と、言った、占い師は、人差し指を、立てて、
「同い年よ」
「きっぱり言うんですね」
「このぐらい、はっきりしていないと、占い師なんて、務まらないわ」
と、占い師は、言った。
綺亜は、占い師に、好感を、持った。




