表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/109

第5話 影のパーティー 9

「っ!」


 七色の口から、驚きの息が、漏れた。


 凛架の影から、つくり出された、黒色の針の先端が、七色の細い脚を、斬った。


 七色は、灼けるような痛みに、顔を、しかめた。


 針の先端が触れた、七色の左太ももから、血が、何本かの筋をつくって、滴り落ちていった。


「私は、遠慮は、しませんよ」


 と、鷲宮は、にやっと笑った。


「七色!」


 と、彼方が、叫んだ。


 駈け寄ろうとする彼方を、七色は、手で、制した。


 大丈夫です、と、七色が、言った。


「好峰さんを、安全な隅の場所まで、運んであげて下さい。操影の魔術にかけられた人達は、綺亜さんと私を狙うように、暗示を、かけられているようですから」


 七色の言に、彼方は、頷くと、杏朱を、抱きかかえた。


 凛架の蹴り技は、早くて、正確だった。


(空手をやっているだけある)


 と、七色は、思った。


 七色と凛架は、一進一退の攻防を、繰り広げた。


(立海さんの蹴りに、割り込もうとしても、その隙がない)


 凛架は、息を吸い込むと、勢いよく、前に、踏み出した。


(速い……!)


 七色が、身構えるよりも速く、凛架の正拳の突きが、七色の腹部を、捉えていた。


 七色は、僅かに身を退くことで、凛架の拳を、右手で、掴んでいた。


 凛架の身体が、七色に、引き寄せられて、大きく、傾いた。


 七色の手刀で、凛架は、ゆっくりと、崩れ落ちた。


「どうしたのですか、"月詠みの巫女"。一般人に、そこまで、手こずるとは、拍子抜けですよ」


 と、鷲宮は、揶揄するように、言った。


 七色と綺亜は、奮戦したが、多勢に無勢で、徐々に、追い詰められつつあった。


(それに、皆が、相手じゃ……分が悪すぎる)


 と、体育館の隅の壁を背もたれに、杏朱を、寝かしつけた、彼方は、思った。


 杏朱は、青白い顔のまま、眠りに、ついていた。


 彼方が、杏朱の手を握ると、ひどく冷たかった。


(これも、魔術の、影響なのか……)


 と、彼方は、思った。


「杏朱。ここで、待っててね」


 と、彼方は、杏朱に、言った。


 綺亜と七色が、横並びに、なった。


「……操られてしまっている本人と、影からの、複合攻撃。迂闊に、手が出せないわね」


 と、綺亜が、呻くように、言った。


 七色は、眼前を見据えたまま、


「迷っている暇は、ないです」


 と、言った。


 綺亜は、揺らぎのない、まっすぐな、七色の言葉に、とまどって、


「七色……?」


「学園の皆さんを傷つける行為に、綺亜さんが、ためらいを感じているのは、わかります」


 と、七色は、事務的に、言った。


「それは……」


 と、綺亜は、言い淀んだ。


「敵は、確実に、前に、存在している。ならば、躊躇しているわけにはいかないでしょう」


 と、言った、七色は、前方を、見た。


 綺亜は、叫ぶように、


「そんな、1+1は、みたいな考え方……!」


「1+1は2です」


 と、七色は、にべもなく、言った。


「くは……くはははははははははは!」


 鷲宮は、肩を震わせて、哄笑した。


「どうですか、お友達に、良いようにやられるというのは!最高に、気持ち良いでしょう?」


 七色は、双振りの剣で、生徒達の影を斬り付けていくと、ばたばたと倒れる人影の音が、した。


「綺亜さん、影を!」


 と、七色が、言った。


「……わかってるわ、そんなこと!」


 と、綺亜が、戸惑い気味に、叫んだ。


 操られている生徒達と綺亜の間に、両端を繋ぐ青白い一本の線が、できていた。


 綺亜が創り出した、魔力による、青の導火線である。


「スティングレイ、起動しなさい!」


 綺亜が、レイピアを振るって、号令すると、雷光の線が、空間を薙いだ。


 瞬く間に、迸る雷光は、生徒達の影だけを、正確に狙っていく。


 次々に倒れ込む生徒達の姿が、綺亜の瞳に映った。


 綺亜の背中を、別方向からの影の針が、襲った。


「しまっ……」


 綺亜は、体勢を立て直そうとしたが、目の前に、影の針が、迫った。


 鋭い音とともに、その針が、砕かれた。


 綺亜の前に、七色が、割り込んでいた。


 七色が、影を斬りつけて、女子生徒を、一人、昏倒させると、片膝をついた。


「……はぁっ」


 と、七色は、大きく、息をついた。


「大丈夫、ですか……?」


 と、七色は、聞いた。


 影の針は、七色の腹部を掠ったようで、血が、流れ出していた。


 綺亜は、俯いていた。


「……やれた」


 と、綺亜は、俯いて、言った。


 七色からは、綺亜の表情は、良く、読み取れなかった。


「……綺亜さん?」


 綺亜は、自身の葛藤を吐き出すように、


「今のは、私、一人だって、防げた。七色の助けは、いらなかった」


 と、言った。


「綺亜さん。貴女は、何のために、戦っているのですか?」


 七色の声音は、いつものように、通り一辺倒である。


「先程のドッジボールで、今の綺亜さんは私に勝てない、と言いました」


「今、そんなことを、話している場合じゃないでしょう」


 と、綺亜は、苛立ちを隠さずに、言った。


「今の貴女は、自身のための戦いに、囚われすぎています」


 と、七色が、言った。


「だから、冷静に剣を振るえず、判断は散漫で、本来の力を、出し切れていない」


 綺亜は、唇を、噛んだ。


「そんな『今の』綺亜さんに、私は、決して負けないでしょう」


「……私は、"守護者"。守り護る者。その使命を、全うしているだけ!それの、何が悪いの!」


 綺亜の激昂が、体育館に、響いた。


「使命に、縛られないで下さい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ