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第5話 影のパーティー 7

 不意に、何かを削り取るような、無機質な音が、辺りを、包み込んだ。


 鈍く重たい音が、響いた。


 体育館の扉が、何者かによって、閉められたようだった。


 水を打ったような静けさが、巨大な、風にはためくベールのように、体育館全体を、覆った。


 異変に気付いた彼方は、横にいる七色を、見た。


 七色は、暗闇の中、表情を、堅くしていた。


「……これって……」


 と、言いかけた、綺亜も、言葉を、失っていた。


 彼方が、見渡すと、誰もが、直立していた。


(何で、皆、黙っているんだ?)


 と、彼方は、思った。


 棒立ちの生徒達は、無言である。


 重苦しい空気に、彼方は、覚えがあった。


 静けさに、言いようのない不安感を、彼方は、募らせていた。


(……この感じは……)


 と、彼方は、心中、震えた声を、あげていた。


 彼方の中で、捉えどころのない違和感が、燻っていた。


 不安感と違和感とが、ふらふらと漂っていて、濁った水面から、不鮮明な水底を覗くような感覚だった。


 七色も、目の前の光景に、既視感があったようで、


「これは……」


 と、呟くように、言った。


 彼方が、見回すと、生気のない目が、向けられていた。


 生徒達の影は、電波を受信できない時のアナログテレビの画面の砂嵐のように、濁っていた。


 試合の最後にボールに当たった、松本という男子生徒が、不安定に左右に、身体を揺らしながら、歩を進めた。


 松本の歩き方は、支点を失った、振り子のようだった。


「……対象者の影と、その意識を縛る魔術……"影法師"」


 と、七色が、言った。


 生気のない淀んだ瞳のまま、松本は、ゆらゆらと、彼方達に向かって、歩いてきた。


 松本に、追随するように、他の生徒達も、二人三人と、動き出した。


 何十人もの生徒達が、無言のまま、ゆっくりと、歩を進め出した。


「まさか……"影法師"?これだけの人数を、一度に……?」


 と、綺亜が、言った。


 彼方と七色と綺亜を、取り囲むように、生徒達が、集まっていた。


「ちょっと、何が、どうなっているの?」


 と、言ったのは、怯えた顔をした、杏朱だった。


 杏朱の顔色は、悪かった。


 いつものからかうような、余裕の色は、消え去っていた。


「大丈夫?杏朱」


 と、彼方は、杏朱に、話しかけた。


(杏朱は、自我を失っていないのか?)


 と、彼方が思っていると、


「吐き気がする。それに、酷く眠いの……」


 と、杏朱は、呻くように、言った。


「私も、そう……眠い……」


 と、凛架が、言った。


「魔術に対する耐性が、普通の人よりも、少しある人は、"影法師"の影響が、薄れているようですね」


 と、七色が、言ったように、何人かは、白濁しながらも、意識を、保っているようだった。


 凛架が、ゆっくりと倒れ込むところを、綺亜が、支えた。


「少し、眠って良いかしら?」


 と、青白い顔で、凛架が、聞いた。


 綺亜が、頷くと、凛架は、安心したように、笑って、意識を、失った。


 杏朱が、そのまま眠るように、崩れ落ちるところを、彼方が、抱きとめた。


「……ありがとう、朝川君」


「無理して喋らなくて良いよ」


「朝川君の手、暖かいのね」


 と、杏朱は、力なく笑った。


「ふふ。こんなふうにされると、勘違いしてしまいそうになるわ」


「杏朱……?」


 杏朱は、そのまま、眠りについた。


 新谷が、無言で、彼方に、近付いてきた。


「おい、新谷。大丈夫……」


 彼方が、言い終らないうちに、新谷の振り上げた腕に、押される恰好になって、彼方は、よろめいた。


「彼方、退がって。いつもの乃木君じゃない!」


 と、綺亜が、緊張した声で、言った。


「ああああああ」


 言葉にならない声をあげて、男子生徒の一人が、七色に、向かってきた。


 七色は、屈んで、その拳撃をやりすごすと、手刃で、昏倒させた。


「綺亜さん」


 と、七色は、綺亜に、呼びかけた。


「わかってるわ。怪我をさせないようにって」


 綺亜は、向かってくる女子生徒を、転倒させた。

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