第5話 影のパーティー 5
ドッジボールのチームは、三組と五組を混合して、分けられた。
彼方は、新谷と七色と同じチームである。
綺亜と凛架と杏朱は、彼方の相手チームに、入った。
「いやあ、御月さんと、一緒のチームだなんて、俺も、ついてるぜ。よろしくな」
と、新谷は、七色に、言った。
「はい。よろしくお願いします」
と、七色が、言った。
「じゃあ、俺は、内野の前のほうに、立つわ」
と、言った、新谷は、コートのほうに、歩いていった。
彼方は、七色に、
「同じチームになったね」
と、言った。
七色は、事務的に、はい、と、言った。
(そういえば、御月さんが、体操服を着ているのを見るのは、初めてか。合同授業なんて、今まで、なかったからな)
と、彼方は、思った。
白い体操服の上からは、七色の胸の膨らみが、はっきりと見えた。
服が肌に近い白色なので、いつもよりも、胸の部分が、目立つのかもしれなかった。
彼方は、妙に意識してしまって、七色の体操服から、目を逸らした。
(体操服から、離れないと。これじゃあ、新谷と杏朱の話に、当てられている感じだ)
と、彼方は、内心、苦笑した。
彼方の視線は、今度は、七色の視線と、重なった。
「どうかしたのですか?」
と、七色が、上目遣いに、聞いてきたので、彼方は、両手を振って、
「何でもないよ」
と、自身の思考を、打ち消すように、言った。
「ドッジボールは、久し振りです」
と、澄んだ瞳で、七色が、言った。
「僕もだよ」
と、彼方が、言った。
「朝川さんは、球技は、得意なのですか?」
と、七色が、聞いた。
彼方は、苦笑して、
「や。全然なんだよ」
と、答えた。
彼方とは反対のコートでは、綺亜が、黙って、前を、見据えていた。
彼方が七色と話しているのを見て、綺亜は、
(何だか、胸が、もやもやする)
と、思った。
先程の用具室での出来事もあって、彼方とは、別のチームになりたいと、思っていたはずである。
(それで、真っ先に、彼方に、ボールを投げつけてやるって、思っていたのに……)
綺亜は、自身の心の揺れに、戸惑った。
(ううん。違う、違う!あいつは、偶然とは言え、私の……胸を触って……ブラも外されちゃって、でも、彼方の手、すごくあったかくて……違う!この前、ボールから庇ってくれた時は、お気に入りのパンツだって、触らてちゃって!)
綺亜は、考えを振り払うように、頭を振った。
(でも、心配してくれた声は、すごく優しくて……)
いざ、別のチームになってみると、がっかりしている自身がいることに気付いて、綺亜は、顔が、熱くなった。
(わかってる)
と、綺亜は、思った。
(今までで感じたことがない感情だけど、このもやもやした状態を、何て呼べば良いのかは、何となくわかる)
と、綺亜は、朝の時田の言を、思い出していた。
(これは、きっと……)
「肩に、力が、入り過ぎじゃない?」
と、声をかけられて、綺亜は、はっと我に返った。
綺亜の横に、杏朱が、いた。
「こんにちは、倉嶋さん。同じチームに、なったわね」
と、杏朱が、笑った。
「ええ。よろしくね」
と、綺亜は、短く、返した。
「緊張しているのかしら?」
「大丈夫よ」
「なら、良かった。倉嶋さんの活躍に、期待しているわ」
「ありがとう」
と、綺亜が、言った。
「しかし、やばいな。委員長からの、猛攻撃が、心配だ」
と、新谷は、腕を回して、肩をほぐしながら、言った。
「立海さん、空手をやってるから、ボールを投げる力も、すごいんだよね」
と、新谷の横にいた、三組の保川茉莉音という女子生徒が、言った。
茉莉音は、肩までの短めの髪で、両サイドを白いリボンで結んだ、可愛らしい少女である。
「安心しなさい」
と、新谷は、にやりと笑った。
「茉莉音ちゃんは、俺の後ろにいれば、大丈夫だよ」
「あ、ありがとう、乃木君」
と、茉莉音が、おずおずと、言った。
新谷は、コートの最前線で立っている凛架に、
「ってなわけで、委員長。勝負だ」
凛架は、笑って、
「意気や良し。こてんぱんにされる覚悟は、できたということね?」
と、新谷に、聞いた。
「いや、違うな。開き直って、真っ向勝負をすることに、決めただけだ。負けるつもりはねえよ」
「まったく、調子が、良いんだから」
と、凛架は、不敵に、笑った。




