1.卑怯な選択
明るい日差しに顔を照らされ、意識を取り戻す。
重い瞼を強引にこじ開け、目を見開いた。
(また、戻って来れたのか……)
あの日の朝——
エリナと共に、レクイエア湖の深い湖底に身を落としてから目覚めた日の朝に戻っていた。
色んな思考が交差する。
喜ぶべきなのか、それとも悲しむべきなのか。
考えがまとまらないままベッドの上で上半身を起こすと、聞き慣れた声が耳に届く。
「珍しいですね。ルーク様が寝坊されるなんて」
そう言って、エマは窓のカーテンを開けた。
「おはよう。エマ」
「おはようございます。今日は良い天気ですね」
「うん……そうだね。良い天気だ」
俺は何よりも一番にすべき事に気付くと、ベッドから立ち上がり、
「花壇に行ってくるよ」
花壇に行くことをエマに伝え、自室を後にした。
†
花壇では以前と同じようにエリナが花に水をあげていた。
だが、前と同じようにエリナに話しかけることはしなかった。
気付かれないように遠くからエリナを視界に入れるだけで、その場から離れた。
俺は守れなかったエリナに、合わせる顔がなかった……。
†
少し出掛けてくると屋敷の人間に伝え、俺は馬を走らせた。
行き先は、レクイエア湖
そこで俺は、再び過去に戻った現実を嚙み締めると共に、自分の無力さを嘆いた。
守れなかった。
盾になることさえできなかった。
俺の力では、どうすることもできなかった。
エリナとリーシャ、二人を連れ去り、俺に何もさせることなく殺した仮面の男。
桁違いの強さを持つ実力者。
どんなに鍛錬を積んでも、人生を永遠にやり直すことが出来たとしても、勝てる映像が浮かばない。
仮面の男は、俺の持つ情報網に一切引っ掛かることなく学園の警備を掻い潜り、二人を異空の庭へと連れ去った。
それはつまり、誰にも気付かれることなく、いつでも行動を起こせるということ。
目にしたのは仮面の男だけだが、組織の犯行ではないという保証はない。
考えにくいが、仮面の男が末端の人間の可能性だってある。
……八方塞がりだ。
打つ手がない。
他に方法があるとすれば、エリナを仮面の男の手が届かない場所へ……。
「………そうか……その方法があったか……」
俺は最初から迎え撃つつもりでいた。
害する敵を倒すことでエリナを守ろうとしていた。
対峙することが前提だった。
しかし、エリナを救う事だけを考えるのであれば、戦う必要はない。
仮面の男に立ち向かう理由はない。
——避ければいい——
——徹底的に、他の全てを犠牲にしてでも——




