第6話 アイゼン狩り
先ほどまで手にしていた拳銃は、手のひらでクルクルと回転しながら腰に携えたホルダーへと帰っていく。
手持ち無沙汰となった銀色に光る右手は……手遊びでピストルを作った時の形へと変わり、左手はそれを支える皿の様にして添えられる。
そして右手の、パカリと開いた人差し指から放たれる、スペシャルな一撃。
正面には、半透明のバリケード状の障害物がある。
その上へ放たれた弾丸は天井へと当たるが、その勢いは収まらない。
廊下の奥の壁、そして床と跳ね返り、そして……
「当たっ……た?」
アンラッキーガール
・すご
楽土
・すげぇええええ!!!
ゴールドから抜け出し隊
・風音様キタ━(゜∀゜)━!!!!!!
トマトマァァ
・マジかっっ!?!?
パンパンジー
・やばすぎ!!
粘々ギブアップ
・えっ、天才?
命中したのは敵チームのアイゼン。
弾丸が命中した事でゴリッと、HPバーが削れる。
流石にヘッドショットでは無いものの、初めての命中だった。
あちらのアイゼンも困惑しているのだろう、敵が目の前にいるのにも関わらず背後を向く。
それもそのはず、マグリスの弾が自分に当たったなんて思う訳ないのだから。
このレベル帯でマグリスのスペシャルが自分に当たるなんて、誇張抜きで宝くじが当たるレベルだろうし。
まず裏取りされたと考える方が普通だ。
そうして正面のプッシュに成功した彼女達は、その勢いのまま中央を制圧し……無事勝利を収めたのだった。
パチパチパチッ
「おめでとう」
「ありがとうございます!」
試合が終わったところで通話を再び繋ぐと、早速彼女を拍手で讃える。
「本当に、一時間で出来るんですね……」
「いやぁ、本当に上手くいったね。 固定撃ち作戦」
それは、数時間前に遡る……
「アイゼン狩りって、出来るんですか?」
「まあ、理論上は……と言われてるけど」
アイゼン……それは、このゲームのキャラランキングにて、TierGodの座に立ち続けるサービス開始時からの最強キャラ。
見た目は、全身を真っ白で分厚い装甲で覆っており、中にはムキムキの肌の黒い男が入っている。
性能としては、HPは多少高いものの鈍足で、抑えられた火力。
そんな彼を最強たらしめるのは、その唯一無二のスペシャル……一夜城壁。
半透明なバリケードを設置し、それが壊れるまではこちらから一歩的に攻撃をする事ができるのだ。
もし通路でスペシャルが使えたならば、宝石までの道のりをを完全に封鎖し、カウントを大きく進めることができるだろう。
だからこそ、マグリスが輝く。
「まず、アイゼンが強い場所は分かりますか?」
「えっと、狭い通路ですよね?」
「はい、正解です。よく勉強してますね」
「えへへ……」
少し照れた様な、可愛らしい声がヘッドセット越しに響く。
「では、マグリスのスペシャルが輝くのは?」
「え〜っと、反射できる壁がある場所……ですか?」
「正解です、そう……狭い通路とも言えますね」
「あっ」
そこまで言ったならば、彼女も気づいたみたいだ。
そう、完全に得意な場所が被っている。
「そしてアイゼンのバリケードは上が空いてますから、一応攻撃は入れれます。
ただ体を張り付けるぐらいに近づくため、普通だったら角度がありません」
「そうですね……。狙おうとはしましたけど、当たる気はしなかったです」
「ただマグリスのスペシャルであれば、上を通して攻撃出来るという訳ですね」
「なるほど……。でも、橙さんならともかく私に出来ます……かね?」
彼女から放たれる不安げな問いかけ。
だけども、その先のモノを事前に用意していた俺にとっては、まるで……テレビショッピングの前振りの様にしか思えなかった。
「もちろん!じゃあまず、ララトークで送る数字を打ち込んで貰えますか?」
「分かりました!ちなみにこれって?」
「こちらで作った、試し撃ち場ですね」
廃都倶楽部では、マッチング待ちの間に試し撃ち場でエイム合わせが出来る。
そして最近のアップデートで追加されたのは、この試し撃ち場をカスタマイズ出来るシステム。
一応全世界に配布する事も出来たりするのだが、正直空気ではあった。
それもそのはず、ベテランであれば昔からの試し撃ち場に慣れてしまっているからだ。
あくまでここは試し撃ち、いつもと動きが変わらないかを確かめるためだけに使うので、デフォルトの方が好まれていた。
新規プレイヤーであれば、別にデフォルトでも充分だしね。
なので変えている人でも精々普段の設備に、動く的をプラスしたぐらいのモノぐらいだ。
今回も少し手を加えただけではある。
だけども、今までにはない設備が置かれていた。
「えっと……これは?」
振り返った瞬間、少し困惑気味の彼女。
そこには通路を模したオブジェクトがトンネルの様になって奥へと続き、その中の案山子を守る様にバリケードが設置されているというモノガ置かれていた。
そしてそれが、まるでバッティングセンターの球速別ケージの様に横へ幾つも並んでおり、違うのは標的とバリケードのこちらからの距離だけ。
そう、これは……
「スペシャルを吐いたアイゼンを狩るための施設ですね。
ここで、どこに撃てばどう反射するのかを肌感に叩き込んでもらいます」
「もちろん実戦の待ち時間で、ですけど」
アンラッキーガール
・なるほど、そうやってやるのか
トマトマァァ
・配信見ながら、俺もやってみよ
極楽
・冬はお家でアイゼン狩り!
こうして彼女へのこちらのアドバイスと共に研鑽した1時間。
まずは、足を止めたアイゼンへ当てる事はできた。
……たとえ、ラッキーでもね。




