第4話 初めての対面
「え〜っと……こんばんは、橙です〜」
「あっ、橙さんっ!こんばんは、沙倉風音です!」
コーチングを承諾した俺──橙。
そうして彼女とのメッセージのやり取りにて決まった今日がその日。
配信開始予定時刻はもう約10分前まで迫る、そんな時間に初めて肉声を交わす。
「本当に今回はコーチングを受けていただいて、ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ指名していただけて嬉しいです」
「いえいえ、こちらこそ本当に貴重なお時間を割いていただき……」
「いえいえ……」
「いえいえ……」
出会い頭に始まってしまった謙遜合戦。
互いに弾が尽きる事もない。
まるで餓鬼道の弾幕の様に……
「……この辺にしましょうか」
「え〜っと、そうですね。
……なんか、すみません。
とはいえこのままでは埒が明かないため、無理やり話を打ち切る事に。
少し落ちた彼女の声のトーンに罪悪感を覚えてしまうけども。
そんなことをしている内に、もう予定時刻は目前まで迫っていた。
「……今日は、ガチというよりは楽しくやっていきましょう!」
「はい!」
配信の流れは、もう事前に打ち合わせした。
そうして再び力強さを感じる返事をする彼女と一緒に、開始時刻を迎えるのだ。
でも、
……こんなに、視聴者がいるって聞いてないけどね!?
「挨拶させてくださ〜い!」
「例え今日雪が降っていても!お茶の間に春をお届けするのは、この私!
ドリクエ所属ライバーの、沙倉風音で〜す!!」
先ほどまでのネガティブなところは、もう見えない。
天真爛漫で、月並みだけど……まるで太陽の様な彼女がそこにはいた。
「そして本日も来月のドリクエカップに向けて廃都倶楽部をプレイしていきます!」
……ですが、前回はランクに行きましたが、ボコボコにされてしました!」
「なのでっ!サムネイルにもある通り、特別コーチをお呼びしました!
どうぞっ、橙さんです!」
「……ご覧の皆様こんばんは。コーチに任命された、廃都倶楽部廃人の橙です。
これから一ヶ月、よろしくお願いします」
パンパンジー
・うぉおお!本当に呼べたんだ!
Ram
・その自己紹介でいいのかよw
ゴールドから抜け出し隊
・廃人キタ━(゜∀゜)━!?!?!?
……とんでもない速度でコメントが流れていく。
これらを全て拾うのは、滝の水を手の皿で受け止めようとするぐらい無謀だろう。
正直いつもの自分の配信なら、全部読むぐらい難しくないんだけどね。
でも流石に、
「開始5分も経ってないですけど、1万人の視聴者は多すぎませんかね……。
すごいですね、沙倉さん……」
「いやいやっ、こんなにいつも集まってないですよ!?
だって私のチャンネルフォロワー数は5万人ちょっとで、同接は基本2000人ぐらいですしっ!」
注目度……凄すぎないか?
普段行われるユーザー主催大会でも、精々3000人程度。
一番人を集めるアンラッキーガールが1万人といった所。
本当に、どっから集まってきたんだ??
コーチングとはいえ、今日やるのはただのランクマッチなんだけど。
しかも何か、
「……アンちゃんさんもいるんですね」
「えっ!?アンラッキーガールさんがっ!?」
アンラッキーガール
・覗きに来ました^^
明日クリ〜ム
・アンちゃん来た〜〜!!
私はアイゼンで戦犯しました
・アンちゃんおるんか
一勝瓶
・橙ガチアンチもいます
姿を少し現しただけで染まるコメント欄。
彼女の影響力を改めて思い知ると共に、反応からして呼びかけで集まった訳じゃないって事?
……謎は深まっただけである。
ただ注目度が上がったとしても、今日やる事は変わらない。
「じゃあ、まず1戦見せて貰おうかな?」
「はっ、はい!お願いします!」
「とはいえ試合中のアドバイスは、規約違反ではないけどマナー的によろしくないだろうからミュートしますね」
「はい!あっ、視聴者さんで橙さんの試合解説が観たい方は、ガブtube内にある橙さんのチャンネルへ移動して下さいね!
もちろん、2窓も大歓迎です!」
そんな事前通りの流れで、視聴者を誘導する。
ガチなコンテンツを求める人はこちらへ、彼女を応援したい人達はあちらへ、という棲み分けをする為だ。
彼女のファンでプレイヤーじゃない人だと詳しい説明されても……みたいな人も少なくないだろうしね。
ちなみにガブtubeとは、人の目をガブっと掴んで離さない魅力的なコンテンツが溢れている、という事に由来するとか何とか?
正直よく覚えてないけども、ここでいつもランク配信なんかもしている。
そうして事前に用意していた枠へ、無事移動を果たした。
マルオ
・人多すぎない!?
寒気タン
・チャンネルフォロワーを同接が超えるの、初めて観たかもw
損五億
・2窓してます!
「6000人……マジか」
チャンネルフォロワー数の倍いるんだけど。
これは……適当な事言えないな、本当に。
マウスを握ってる手に、嫌な汗もかいてきたし。
そんなゲーム外から逃げる様に、彼女の画面へと視線を向ける。
そこではマッチング待ちの間に試し撃ちする沙倉さんの姿が。
……うん、エイムは悪くなさそうだ。
しっかりとヘッドショットを狙っているし。
ロリっ照る
・マジでマグリス使うんだ
アンラッキーガール
・いやぁ楽しみだな〜、橙の脳味噌の中身が見られるの
ラックどマイナス
・R18グロやめてね
Ray
・アンちゃんのえっち
クードゥー
・他のシューティング経験者かな〜?
シャキンッッ
入り乱れたコメント欄も、活気を思わせる。
……見なかった事にしたいコメントもあったけども。
「いやぁ、なんかこっちまで緊張してきた……」
そうして生徒である、沙倉風音の一戦が始まった。




