第2話 マグリス
「……あの〜、『マグリス』むずすぎません?」
レイ
・そりゃそうよ
楽土
・ですよね〜、あれむず過ぎっ!
トマトマァァ
・マグリス最強!……と思っていた時期が僕にもありました
チョッキー
・もしいきなり使えたら、プロ級ですよw
「そっかぁ〜……」
そうして画面に映るピンク髪のアバターも、肩を落とす。
それは、あまりにも上手くいかなかったからだろう。
先ほど風音が見たのはたった数分の試合。
けれどもそのレベルの高い応酬は、観覧した人間全員にコントローラーを握って今すぐプレイしたい!と思わせるだけの力があった。
そしてそれは、初心者の風音も例外ではない。
……とはいっても現実は非情であり、大体の場合は中々上手くいかない自身のプレイに対してテンションが右肩下がり、という結果に終わってしまう。
コツコツと積み重ねたからこそ人間の心を震わせる、あれだけのプレイが出来るのだから。
彼女の操作する両腕を鉄の義腕にしたガンマンは、敗北リザルトの画面で俯きながら手で銃をクルクルと回していた。
それは何とも哀愁漂う光景。
でも仕方ない部分もあった。
このキャラは、廃都倶楽部プレイヤーの間では……満場一致で一番難しいと言われるキャラなのだから。
マグリス──分類的には、アタッカータイプのキャラ。
通常状態は拳銃で戦うのだが、普段の火力は他のアタッカー平均以下に抑えられて設定されている。
そんなキャラが、
「でも、一応理論上最強なんだよね?」
と呼ばれる理由。
それはマグリスのスペシャルに起因する。
その能力とは──最大壁を五回まで反射する跳弾を放つというもの。
……上手く当たれば、アンラッキーガール操る『餓鬼道』も、その味方チームだったタンクの『アイゼン』も一撃で地に伏せる。
けれども使われない理由は、コメント欄に載っていた。
メロメロン
・一回当てた事あるけど、本当に運だけ
しかもキルじゃなかったし
トマトマァァ
・いや冷静に壁越しの相手にまず当てる、しかもヘッショ要求は無理っしょw
粘々ギブアップ
・プロなら一試合に一回当てるぐらいは出来るかもしれないけど、HSはちょっとなぁ〜
対戦だと上振れよりも、安定感が大事だからねぇ
ゲーマーは、理論上最強という言葉に弱い。
それは廃都倶楽部プレイヤーも然り。
一回は全員通る道であり……諦めるところまで含めてワンセットであった。
やはり壁裏にいる相手に反射を考えて撃ち、挙げ句の果てにヘッドショットしないといけないのは要求値が高過ぎたのだ。
胴体でもそれなりのダメージはあるが、一旦前線から引いた後に包帯でゆっくりと回復されてしまう。
そして最初から運営に調整され過ぎたのか、少し弱めなスペシャル以外のスペック。
そのため、スペシャルを当てられないと他キャラの劣化でしかない。
そんなピーキーすぎる性能を持つのが、『マグリス』というキャラであった。
「……じゃあ、みんなのおすすめキャラは?」
Ram
・そりゃあやっぱ、三種の神器っしょ!
パンパンジー
・アイゼン、伽羅子、餓鬼道かな
粘々ギブアップ
・ラムネちゃんは伽羅子、王子はアイゼンだから、風音ちゃんはアタッカーの餓鬼道?
スピネルさんは、オールラウンダーだし合わせてくれると思う
「そっかぁ、確かに味方から考えるのもアリなのか!
ありがとっ!ネバネバさん!」
「でも餓鬼道かぁ〜……流石にマグリスは、無理かなぁ〜?
本番まで一ヶ月しかないし……」
そんなアドバイスを貰ったけども、まだ未練はあるようだ。
アバターは腕を組み、うんうん彼女が唸っている声がマイクに乗っている。
それは対戦ゲームで全員が直面するであろう悩み、
勝って楽しむか、楽しんで勝利を目指すか。
似ている様で、正反対の楽しみ方。
ドリクエカップまでは一ヶ月。
勝ちに行くならばTierSランクの餓鬼道一択ではある。
だけども、彼女の心は……マグリスを使いたがっていた、たとえTierBランクだとしても。
ただこれは、個人戦ではなくチーム戦。
足を引っ張るのは良くないと思った彼女は、静かに目を閉じ……諦めるという選択肢を口に出そうとしたその時、
粘々ギブアップ
・橙に直接、コーチング依頼送ってみたらどうです?
「えっ……」
視界に入ったコメント。
楽土
・それ、オモロそうじゃん!
Ram
・ナイスアイディア!
ガトー
・……あっ、これ本人か!?
その粘々ギブアップに賛同する様に、コメント欄は盛り上がっていく。
確かに彼らも面白い展開になったから乗ったというのもある。
だが一番は──彼女が、マグリスをやりたがっていたから。
それを後押しするために、彼らはコメントしていく。
そして彼女もその熱意を、感じ取っていた。
「で、でも、そんな事していいのかな?
コーチング頼むって、なんかズルくない?」
パンパンジー
・プロのクラゲさんとか、ストリーマーのトウイさんとかやってるし、良いんじゃね?
トマトマァァ
・そうそう!皆さん、やられてますから
ドナ教徒
・→トマトマァァ。なんか、えっちだw
「あっ、そうなの!?
じゃあお願いだけでも、してみよう……かな?
そうして最初は遠慮がちにゆっくりと動き始めた指。
だが最後は溢れ出る衝動に浮かされ、カタカタとキーボードがリズミカルに音を立てる。
最後にカチッとenterキーが押され、橙のララトークへとメッセージは送られた。
「ふぅ……」
いきなりの、トッププレイヤーに対してのコンタクト。
それには普段から視聴者に見られている彼女も緊張していた様で、深い息を吐く。
だがそれも束の間、
「あっ」
何かに気づいた様な声を漏らす。
ラタトゥイYou
・何かあったん?
楽土
・誤爆でもした?
だって、
「あの〜……橙さんって、怖く……ないですよね?」
全く人となりを知らずに送ってしまったのだから。
次回から、主人公の登場です。




