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悲報 リストラされて無敵な無職のおじさん 死ぬ前に英雄になろうとしてわからせられてしまう 4

『さーて、本日の自力救済は(わ)ぁ!……って俺は、お魚咥えたドラ猫を追いかけてんじゃねえんだから』


安岡はふと笑みを浮かべる。

『なんだ、意外と冷静にやれんじゃん、俺』


「何笑ってんだ、こらぁっ

「紙袋から手ぇだせやっ」

「おい、おっさん、早く表出ろっ」

前のめりな少年たちの声。怒りと緊張が混じっている。


その後ろからも声が届く。

「安岡く~ん。怖くないから出ておいでぇ」

少女の声だった。

「「キャハハハ」」

 陰に隠れて見えないが笑い合う声から複数いることがわかる。安岡は少年たちを観察しながら思った。


『こいつら、敗けたら女廻されるとか考えないんだな…… 付いてくる小娘たちも中高生にもなってそういうリスクがわかんないのか…… ま、治外法権みたいな土地だろうと港区だろうと権力持ってる男たちの相手していい思いしてんのは変わんねえか…… 地元でハブられてやっとたどり着いた約束の場所って見方もあるのかも知らねえがどっちにしろ俺に救えるはずがない……」


 少年少女たちの声。すべて流暢な日本語だった。しかし目の届く範囲で日本人2名とクルド人5名が入り混じっている。半キャップと呼称されるヘルメットをかぶっているのは日本人少年だけだった。クルド人はすべてヘルメットをかぶっていない。最前列には男児、小学校2,3年生程度と思しきクルド人がいた。


「はやくコレつかいたいのっ!」

 安岡に見せつけるように拳銃をひらひらと見せつけながら待ちきれないという苛立ちを顔に浮かべる男児。無垢ではなく嗜虐指向を感じ取らせた。


『さって、先制とんないと一矢報いるなんて無理そうだな。ま、俺は自衛隊じゃねぇんだし……』

 思案を巡らせながらゆっくりと、だが力強く前を見据えて歩き出した。男児の前でしゃがみ目を合わせて言った。


「まだ子供じゃないか……」

「バカにするなっ!」

「いや、バカにしてるわけじゃない。ちょっとモノマネしてみただけだ」

「はぁ? ナニ言ってんだ。おめー。なんのモノマネだよ。笑えないっ。つまんないっ。」

「昔の映画。戦国時代にタイムスリップした自衛隊員のモノマネだよ」

「はあ、バッカじゃねえの。バーカ、バーカ」


 安岡は男児の怒りと憎しみにあふれた顔を見ながら思った。

『俺は日本で平和を享受してきたくせに戦場に送り込まれたら葛藤なく相手が誰でも先制攻撃しちまうな…… 川島さん、やっぱり俺は英雄なんかじゃない。俺もこいつら獣と変わらない……』


 横目で少年が紙袋の中を覗き込んでいるのを察しながら言う。

「別に、武器なんか入ってねえだろ? 外に出るなら上着着なきゃ寒いかなって思っただけだよ」

「着させてやるかよ。寒がれ」

「わかったよ。そう睨むな。ビビッて立ち上がることもできねえ…… OK?」

リーダーと見定めた体格のよいクルド人少年を見上げて尋ねた。

「OK」


 少年が目くばせをすると両脇の少年が一歩下がった。安岡はそのまましゃがみ拳銃を持つ男児に微笑んだ。


「火遊びしてるとおねしょするぜ?」


 紙袋から上着取り出し男児の頭にかぶせた。そのまま頭から引きずる。カチャカチャンと金属の塊が床に落ちた音がする。目をやる。拳銃だ。一歩踏み込み思いっきり蹴とばす。抱え上げ後退する


 顔に上着をかぶせられた男児の背後から腕を回した。いつでも首を締めあげられる体制。じたばたと男児が足を動かすと束の間強く締めた。


「さーて、おねんね時間だ。クソガキ。おねしょは勘弁してくれよ?」

じりじりと、腕を締めながら耳元でささやく。


 「殺すぞ、てめえ!」

 駈け出そうとする少年の肩をリーダーらしき少年がつかんだ。

 そして言った。

「どうせ捕まえるぞ。いつまでもそうはしてられねぇだろ?」


「ああ。とりあえず店の迷惑にならないところに行こうぜ。お前ら先に表出てろ」


 多少顔を見合わせると少年たちは店から出ていくのを見届けると安岡は振り返り女性店員にたずねた。


「あの、警察は?」

女性店員は言った。


「これくらいじゃ呼んでも来ません」

「DAYONEー」

 皮肉めいた笑いが浮かぶ。一息吐くと安岡は男児を抱えながら外に出た。腕が疲れていた。苛立ちも生まれていた。そして油断も。


「熱っ!」


 思わず叫び手を放す。振り返る。リーダー格の少年がナイフを振っていた。

「うっ」

 声にならないうめき声。これが自分のものだと気が付くのに多少の時間を要した。

「死ね死ね死ねぇっ」


男児が刺された場所を狙って執拗に蹴り飛ばしてくる。体を丸める。胎児のように。意識が覚醒と麻痺の間を往復する。静けさに包まれている。ふとそう意識した。


「いってぇし、熱いし、寒いし、死ぬのか、俺…… カエルみたいにひっくり返ってるんだろうな、俺……』

 まるで体の少し上空を漂いながら見下ろしているような感覚だった。駐車場の冷たい色の照明が照らす己の血だまりとそこにひっくり返っている己の身体。そして、それを見守る鮮やかな黄色のカエル。


 そんなものを目にしながら安岡の意識は闇に落ちていった。

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