天昇龍【グランドステア】の闘い
「来たぞ、これ以上は上に行かせるな」
天昇龍【グランドステア】を登っていく途中、空を飛んで先回りした鳥人族の戦士達が次々に槍、剣を構え道を塞いでくる。
でも、僕達一行の先頭を走るヴェネとオヴェリアが先駆けで突っ込んでいく。
「邪魔だ、どけぇ」
「雑魚は引っ込んでろ」
二人は身体強化のみだが、その体から繰り出される蹴り技は凄まじくて、戦士達は次々に吹き飛ばされていく。
「ぐぉおお⁉」
「はは、鳥人族なら空を飛べんだろ」
「あたし達は先を急ぐんだ。逃げるなら追わねぇけどよ、立ち塞がるってんなら蹴り飛ばすぜ」
ヴェネとオヴェリア、好戦的なところがそっくりなんだよね。
息が合うのか互いの背中を任せ合っているみたいだし、とんでもない突破力を発揮してくれている。
二人が討ち漏らした戦士達は後続の僕達が止めを刺し、戦闘不能にさせる流れだ。
僕達がいま居るのは天昇龍の中腹地点ぐらいだろうか。
天昇龍の背中から地上に目を向ければ獣王戦の会場と舞台が見渡せ、皆が小さな点のようになっている。
襲いくる戦士達だけでなく、この高度にも気を付けないといけない。
魔法で飛翔ができる以上、落ちても何とかなるだろうけど、魔力を無駄に消費してしまうからだ。
「……リッド様、先に進んでいるライナー様とエルティア様、部族長の皆様はかなり頂上に近づいているようです」
僕の横を併走していた鼠人族のアリーナが切り出した。
雷属性魔法で皆の位置を把握してくれたらしい。
「わかった、報告ありがとう」
お礼を告げるも、僕の心には様々な不安が過っていた。
ファラと母上達の安否もそうだけど、ホルストが言っていた『神の兵力』とやらがまだ何も出てきていないのだ。
鳥人族戦士達やイビ達が名を連ねる守護十翼【ブルートリッター】のことを指しているのかもしれないけど、そもそもイビ達はまだほとんど姿を見せていない。
このまま何もなければいいんだけど、それはあまりに希望的観測だろう。
「あの、リッド様。一つ気になることがあります」
「……? どうしたの」
アリーナが重そうに口を開いた。
「現状をバルディアに伝えるべく情報局のサルビアに通信を試みているのですが、何度やっても通じません。こんなこと初めてです」
「……⁉ わかった。ちょっと待って、僕もやってみるよ」
走る足を止めずに僕は『通信魔法』を発動する。
バルディアとは距離もあるし、アリーナの話も聞いているから、通常よりも魔力出力も上げた。
でも、アリーナの言葉どおり、サルビアからの返事はない。
「本当だ。通じないね」
「リッド様も通じないとなれば、まさかバルディアか情報局で何かあったのでしょうか」
「いや、これは通信魔法の『電波』が遮断されているように感じるね」
「遮断……そんなこと可能なんですか?」
「通信魔法の仕組みを理解して、かつ膨大な魔力を持っていればおそらく可能だよ。実際、僕ならできると思う」
全ての魔法は仕組みを理解し、修練を積み、属性素質と必要な知識と魔力さえあれば『誰でも』扱うことが可能だ。
僕に出来ることが他の人に出来ないなんて、そんなことは有り得ない。
「つまり、ホルストが遮断している、ということでしょうか?」
「多分ね。近距離では通じるかもしれないけど、遠距離となれば厳しいかもしれない」
アリーナは目を丸くし、ごくりと喉を鳴らして息を呑んだ。
通信魔法を遮断する……口で言うのは簡単だけど、それを実際に行うとなれば相当な魔力量が必要になるからだ。
ただし、僕はそのことよりも、他の不安が脳裏を過っていた。
ホルストが操っていた魔力体。
あの完成度からして通信魔法を遮断する『魔力量』を保持していることは想像に難くない。
問題は、どうやって『通信魔法』の存在を知り得たのか、だ。
ホルストがバルディアに間者を送っていたのか。
あるいは僕の預かり知らぬところで洗脳された者がいたのか。
考えたくはないけど、内通者がいた可能性だってあり得る。
嫌な予感がする……そう思った直後、上から連続で爆発音が轟いた。
なんだ……⁉ と上を見上げれば、先を進んでいた父上達のところと思しき地点で爆煙が上がり、天昇龍の体の一部と思われる土片が次々と落ちてくる。
「おい、てめぇら!」
先を走っていたヴェネが異変に気づき、後ろに顔を向けて大声を発した。
「びびって足を止めんなよ。体が竦んで固まったら落石に対応できねぇぞ。こんなところで死にたくなけりゃ、前をよく見て走りやがれ」
「ヴェネさんよ、あたし達を見くびんな。この状況で足を止める奴なんていやしねぇよ」
オヴェリアがすぐに勝ち気な声で反応し、上空から降ってきた土片を蹴り砕く。
当然、皆も足を止める気配はないし、この程度のことは『高負荷修練』に比べればなんてことはない。
僕は自分の周囲に『火槍・弐式』を大量に生成し、進む道を塞ぐ落石のみを見極めて飛ばしていく。
前方と上空で火槍が落石を次々と撃ち抜き、閃光と爆音が連続で轟き、爆風が吹き荒れ、爆煙が立ち上がる。
「おぉ、すげぇすげぇ。さすがだな、リッド」
高揚した口調でヴェネが不敵に笑い、先へ先へと登っていく。
「進むのに邪魔な落石は僕が破壊する。皆は周囲と襲ってくる戦士達に気を配って」
「了解」
皆から返事が聞こえたその時、上空の爆煙から人影が現れ……いや、違う。
上から落ちてきたんだ。
「かなり落とされちゃったみたいねぇ。一生の不覚だわ」
「ジェティじゃねぇか。なんで先に行ったお前が落ちてくるんだよ」
ヴェネが叫んで呼びかけるなか「あららぁ、リッドちゃん組じゃないの」と底抜けに明るくておどけた口調で答えたジェティは、受け身を取って落石を足場に僕達の前へ跳躍してきた。
彼女は着地と同時に走り出し、僕達と一緒に併走する。
「上でねぇ、急におかしな連中が出てきたのよ」
「おかしな連中、ですか?」
眉を顰めると、ジェティは「そうなのよ」と肩を竦めて相槌を打った。
「全身が黒い魔力に覆われていてねぇ。これまでの戦士達とは比べものにならない力と速さなの。まぁ、次からは対処できると思うけど、初見で対応を間違って足を滑らせて落ちちゃったのよ」
「……全身が黒い魔力に覆われていた、それは間違いありませんか?」
聞き返した僕の脳裏では、過去に対峙した『とある戦士』の姿が思い起こされていた。
まさかあいつが見せた、あの力がホルストの持つ『神の兵力』なのだろうか。




