空に至る螺旋【グランドステア】
「この辺が中心かな」
会場全体を見渡せる舞台上の真ん中と思しき場所に移動した僕は、ブレイド・ベルの皆を見渡した。
「これから魔力を溜めて魔法を発動させる。皆は邪魔されないよう援護をお願い」
「了解!」
狐人族のラガードとノワール。
狸人族のダン、ザブ、ロウ。
熊人族のカルア。
牛人族のトルーバとベルカラン。
鼠人族のアリーナ。
猫人族のミア。
狼人族のシェリル。
猿人族のスキャラ。
兎人族のオヴェリアとラムル。
僕の言葉に反応したブレイド・ベルの皆が一気に獣化し、舞台上に魔波が吹き荒れる。
空を飛んでいた鳥人族の戦士達がこちらの動きに気づいたらしく、じろりとこちらに鋭い眼光を向けた。
「あれは『リッド・バルディア』ではないか」
「あの陣形、何をするつもりだ」
「何でもいい。ホルスト様の邪魔をしようということは確かだ」
「お前達、雑魚に構うな。全員でかかれ」
獣化した鳥人族の戦士達。
彼等は空を飛びやすい軽装の防具、槍、腰に帯剣を差し、背中には弓を背負っている。
どの距離でも戦えるようにだろう。
「きたぜ。てめぇら、リッド様と他の部族長達に手出しさせんなよ」
「そりゃ、俺の台詞【せりふ】だぜ。オヴェリア」
「止めなさい、二人とも。これは実戦なのよ」
飛びかかってきた戦士達に真っ先に向かったのはオヴェリア、ミア、シェリルだ。
「童【わっぱ】は引っ込んでいろ」
「邪魔するなら容赦はせんぞ」
「道を開けろ、貴様等と遊んでいる暇などない」
鳥人族の戦士達は、三人を格下扱いしてまるで相手と思っていないようだ。
でも、オヴェリア達はにやりと不敵に笑う。
そして、すれ違いざまにオヴェリアは踵落としを、ミアは両手で爪撃を、シェリルは両手で掌底を、それぞれに繰り出した。
「がぁ……⁉」
戦士達は呻き声を漏らして舞台上、水堀、会場の席へと吹き飛んでいった。
「童だぁ? よく見てもの言えよ。三下が」
「邪魔するなら容赦しねぇって? それ、自分達のことを指して言ったんだよな。あぁ?」
「奇遇ですね。私達も皆さんと遊ぶ時間はありません」
戦士達を吹き飛ばした三人が眼光を光らせ、ドヤ顔で空を覆う戦士達を一瞥した。
「な、なんだあいつらは……⁉」
「よくわからんが、あの型破りな風雲児リッド・バルディアに仕えている奴等だ。こちらの常識では測れん。皆、こいつらのことを童【わっぱ】と思うな」
警戒した戦士達が叫んだ瞬間、狐の形をした焔が無数に飛び交い、戦士達を飲み込んで燃え上がっていく。
「な、なんだこれは……⁉ ぐぁああああ⁉」
「へへ、ちょっと気付くのが遅いんじゃないの?」
「調子に乗ったら駄目です。油断大敵ですよ、ラガード」
『狐火』を放ったのはラガードとノワールだ。
「皆さんすごいです。よし、私も負けていられませんね……しゃあ、いくぜぇ!」
丁寧な口調から、荒々しい口調に変わったスキャラが爪と牙を露わにする。
次いで、狐火で混乱している敵陣に突撃し、戦士達を次々に地上へ、観客席へ、水堀へ吹き飛ばしていく。
「く、くそ……⁉ だが、この程度でやられると……」
地上に叩き落とされた戦士が歯を食いしばって起き上がろうとしたその時、「思ってないよ、戦士さん」と小さな影が戦士の顔にかかった。
「あの子達、突撃して突破口を開いてくれるのは良いんだけどねぇ」
「そうそう。でも、どうしても討ち漏らしが出てきちゃうんだ」
「そして、僕達がそれを駆逐するってわけ。おわかりかな、戦士達の皆さん」
可愛い顔で目を細めているのはダン、ザブ、ロウの三人だ。
彼等の拳には闇属性の炎が揺らめいている。
「や、やめ……⁉」
「あれれぇ、急に耳が詰まってよく聞こえな~い」
「本当だ、なんでだろうねぇ」
「こんな時こそ、君達の神様に救いを求めてみたら?」
「ぐぁあああああああ⁉」
戦士の悲痛な叫びと共に連続した爆発音と黒い炎が次々に立ち上がっていく。
あの三つ子達、可愛い顔してブレイド・ベルの中で一番容赦がないんだよね。
「童とは思えん強さだ。皆、無闇に近づくな。高度を取って弓で射殺せ」
「く……⁉ 了解した」
鳥人族の戦士達は白兵戦で分が悪いと判断したらしく、逃げるように空へと上がっていく。
「はは、どうだ。ここまでは追ってこられまい」
一人の戦士が勝ち誇ったように笑ったその時、「さぁ、それはどうかな?」と白い影が鳥人族達を追い抜いて遥か上空に飛び上がった。
白兎【びゃくと】と呼ばれる段階に獣化している兎人族のラムルだ。
「空は飛べなくても、跳躍で皆さんより高く飛ぶことは意外と簡単ですよ。そして、こんなこともできます」
ラムルは空中で足下に氷の足場を魔法で作り、呆気に取られている戦士へ跳躍して鋭い蹴りをお見舞いした。
「がぁ……⁉」
「貴方達、鳥人族との戦い方は『訓練済』です。空中は決して安全地帯ではありませんよ」
彼はにこりと笑いかけると、蹴った戦士を足場にして再び空中で跳躍。
周囲にいる鳥人族の戦士達に狙いを定め、次々と襲い掛かっていく。
ラムルの発言にあった『訓練済』とは、牢宮でアリア達と散々手合わせしたことを指している。
「なんて奴だ。飛べもしないくせに空中での戦いに慣れてやがる」
「感心している場合か。援護にいくぞ」
ラムルが暴れている空域とは別の場所にいた鳥人族の戦士達が向かおうと身構えた瞬間、一筋の閃光が地上から飛び立ち、目にも止まらぬ速さで一人の戦士を直撃した。
「ごばぁ……⁉」
「……俊足天昇馬脚【しゅんそくてんしょうばきゃく】。えっと、あの、ごめんなさい。でも、隙だらけだったので」
のんびりとあどけない顔で戦士を蹴り上げたのは、馬人族のマリスだ。
彼女は地上から馬人族特有の強力な脚力で跳躍し、その勢いのまま重い一撃を戦士の腹部に繰り出したのである。
戦士はぴくぴくと震えた後、目を剥いてしまった。
「き、貴様ぁ……⁉」
残っていた戦士が持っていた槍を構えるも、「その槍、誰に矛先を向けている」と黒い影がマリスと戦士の間に割って入った。
同時に戦士の槍は黒い影に蹴り飛ばされ、次いで戦士の腹部に重い蹴りによる一撃が抉り込まれる。
「うぐぁ⁉」
「マリスとリッド様に仇なす者は、俺が蹴り倒す」
黒い影の正体は馬人族のゲディングだ。
彼とマリスは馬人族の中でもとびきりの才能を持った子達で、馬人族の持つ強力な脚力から繰り出す蹴り技は、一撃必殺と評して過言ではない威力を持っている。
あれが腹部に直撃した以上、あの鳥人族達は戦闘不能間違いないだろう。
「マリス、怪我はないか?」
ゲディングが振り向くも、その場所にすでに彼女の姿はない。
「……任務遂行したら、ご褒美はリンゴがいいなぁ」
「げばぁあああ⁉」
「くるな、くるなぁあああ⁉」
マリスは蹴り倒した相手を踏み台にし、空中を縦横無尽に飛び回っている。
ゲディングは唖然とするも、すぐに我に返って彼女と同じ動きで敵を落としていく。
「皆、万全ではないというのによく暴れ回るものだ」
「そうですね。ホルストにやられた憂さ晴らしもあるんでしょうけど」
「ふふ、でもぉ、おかげで私達は安心してリッド様の護衛に集中できますねぇ。アリーナちゃん、敵の動きはどうですかぁ?」
「大丈夫です。皆、ばらばらに動いているようでしっかり円形に陣を作ってますから」
魔力を溜めている僕を囲んで護衛に集中してくれているのは、大剣を肩に背負う熊人族のカルア、大斧を持つ牛人族のトルーバとベルカラン、鼠人族のアリーナだ。
カルア、トルーバ、ベルカランは獣化すれば巨躯となって壁の役目を果たせる。
障害物のない平地の舞台上では護衛役に最適だ。
一方、アリーナは背丈こそ低いものの、雷属性魔法の『電界』と『通信』を用いることで、襲いくる敵の位置を確実に把握して指示を出せる。
まさに適材適所の陣形だ。
「……⁉ 上空から五……いえ、六人急降下してきます。高高度から穴を突いてきました」
アリーナがハッとして叫んだ瞬間、カルア、トルーバ、ベルカランの目付きが鋭くなった。
「天を割れ、大地破砕剣【だいちはさいけん】」
「技を借りますよ、カルア。大地破砕閃【だいちはさいせん】」
「同じくいきますよぉ。大地破砕閃」
三人は瞬く間に獣化し、巨躯となった体でカルアは大剣を、トルーバとベルカランは共に大斧を振るった。
次の瞬間、三人が振るった武器から魔力弾が放たれ、急降下してくる戦士達に直撃し、大爆発が起きて轟音を響かせる。
撃墜してくれるのは有り難い。
有り難いけど、頭上で何をしてくれているんだか。
僕が魔力を溜めることに集中していることを忘れているんじゃないだろうね?
心の中で苦笑していると、「まだだ、まだ終わらんぞ」と声が聞こえてきた。
爆煙の中から一人の戦士が槍を構え、飛び出してきたのだ。
「神を敬う心のない不敬の輩め。天誅」
殺気の籠もった声が響きわたるも、僕に恐怖はないし、そんなことよりも魔力を込めるほうが重要だ。
だって『彼女』が、最初から戦士の動きを把握していたからね。
「神と妄信して天誅を叫ぶ前に、主君の行いが人として正しいかどうか、顧みてはどうでしょうか?」
「が……⁉」
アリーナが腰裏に差していた短剣で槍の柄を真っ二つに切り、戦士の鳩尾に拳をめり込ませていた。
彼女は拳を引き抜くと同時に、戦士を蹴りで吹っ飛ばして水堀に着水させる。
水柱が立ち上がる中、アリーナは「頭でも冷やしなさい」と鼻を鳴らした。
集まってくる鳥人族の戦士達を皆が返り討ちにしていくなか、掌サイズのフェイが僕の肩にちょこんと降りる。
「リッド、もうそろそろじゃない?」
「うん。でも、この状況だからね。ちょっと多いぐらいで丁度良いはずさ」
返事をしたその時、脳裏に『リッド、いけるよ』とメモリーの声が響いた。
「よし。皆、少し離れて」
皆が反応して一斉に飛び退くと、僕は空に漂う竜を睨み、体の中に溜め込んだ魔力に属性を付与していく。
一つは樹、一つは土、一つは水、一つは氷……ホルスト、お前が天翔竜【あまかけるりゅう】なら、こっちは天を穿つ龍だ。
「天を穿つ道を作り出せ。天昇龍【グランドステア】」
溜めた魔力を解放した瞬間、舞台から太く大きな樹が生え、それを骨組みに土と水が肉となり、氷がその形を留め、巨大な龍となって天に漂うルシュムガルに螺旋を描きながら昇っていく。
やがて龍は咆哮を発し、ルシュムガルの体に牙を突き立てた。




