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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第十章

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開幕式とリッドの覚悟

「これより開幕式を執り行う。席に着いてくれたまえ」


セクメトスの言葉に従い、立ち話をしていた面々が自らの席に移動して腰を下ろしていく。


「はは、もうそんな時間か。リッドにファラ、じゃあまたな」


「うん、またね」


ヨハンは白い八重歯を見せると踵を返し、セクメトスとタバルが並ぶ席へと歩いて行く。


側にいたシトリーは、僕達に頭を下げてから彼の後を追った。


今回、彼女の席は僕達の側じゃない。


ヨハンの婚約者として、彼の隣だ。


近くにはアモンとラファもいるから大丈夫だろうけど、彼女の表情はちょっと不安そうに見える。


だけど、前を見やれば先に歩き始めていたヨハンは足を止め、シトリーが来るのをちゃんと待っていた。


「シトリー、手を握っていくぞ。全部族が集まるこの場は、僕達の婚約を周知する絶好の機会だからな」


「は、はい。わかりました」


ヨハンがそう言って差し出した手を、シトリーはおずおずと握った。


「よし、いくぞ」


彼はそう言って前を向いて歩き出すが、耳先がちょっと赤いような気がする。


照れ隠しでヨハンなりに強がっているのかもしれない。


「リッド様、私達もそろそろ席に戻りましょう」


「そうだね」


ファラに促され、僕達はバルディア関係者用の席へと戻った。


バルディア関係者用の席の側には、エリアス陛下をはじめとするレナルーテ関係者用の席も用意されている。


「なかなか大変そうだったな」


僕が自分の席に着くと、隣の席に座っていた父上がにやりと口元を緩めた。


「見ていたなら、助け船を出してくだされば良かったじゃないですか」


「残念だが、こちらはこちらで挨拶が忙しくてな」


むっとして答えると、父上は肩を竦めた。


父上と母上が代わり代わりにやってくる部族長の相手で忙しそうなのは見えていたけどね。


「知っています。特にヴェネとシアが長かったみたいですね。何を話されていたのですか?」


「少し変わった申し出を受けてな。ここでは人の目もある。後で話そう」


「……? 畏まりました」


相槌を打ちつつ、僕はちらりとヴェネを見やった。


彼女は自分の席で欠伸をしているが、隣の席に座るシアは頭痛でもするのか額に手を添えている。


ヴェネがまた突拍子もないことを言ったのかな?


首を捻ったところ、上着の懐がもぞもぞと動いた。


「……ねぇ、リッド。僕はいつまでここに隠れていなきゃいけないの?」


「言ったでしょ? 獣王戦が終わるまで、だよ」


フェイが上着の懐から息苦しそうに顔を覗かせ小声を発するも、僕は周囲を見渡してから気付かれないように答えた。


「えぇ、でも、まだ暫く獣王戦は続くんでしょ?」


「だから部屋で待っているようにって言ったじゃないか」


「だって、獣王戦を僕だって見たかったんだもん」


彼は拗ねたように口を尖らせた。


フェイは僕を依代にして地上に存在している関係上、僕とあまり遠く離れることはできない。


そうした理由からズベーラにも一緒に来たんだけど、さすがに目立つし、人語を理解する牢宮核【ダンジョンコア】の化身なんて紹介すれば大騒ぎになることは間違いない。


だからこうして、彼は僕の懐に潜んでいる。


ちなみに僕が試合に出るときは、父上かキールに預かってもらう予定だ。


ファラから『私が預かりましょうか?』という申し出をもらったけど、それは何となく断った。


「……もう暫く待って。獣王戦が始まれば皆は舞台上に注目するはずだから。そうなったら、懐から顔を出しても大丈夫だと思うからさ」


「わかった。じゃあ、もうちょっと頑張るよ」


彼は頷くと空気をすーっと大きく吸い込み、懐の中に引っ込んだ。


すると、隣に座っていたファラが小首を傾げた。


「リッド様、どうかされましたか?」


「いや、フェイが息苦しいって顔を出してね」


「あぁ、そういうことですか。ふふ、フェイが早く好きにできるようになってほしいですね」


彼女が笑みを零したその時、セクメトスが席を立って周囲をぐるりと見渡した。


「皆、席に着いたようだな。では、はじめるぞ」


彼女はそう言うやいなや勢いよく空高くへ跳躍し、強烈な魔波が吹き荒れる。


何事かと目を見張れば、空に舞い上がったセクメトスは観客席を悠々と飛び越えて舞台中央に降り立った。


観客席から一斉に歓声が轟く。


セクメトスは両腕を大きく広げて、会場にいる観客達をぐるりと見やった。


「同志諸君、長らく待たせたな。現獣王セクメトス・ベスティアの名を以て、獣王戦の開催を今ここに宣言する」


「おぉおおおおおおおおおお」


獣王戦開催の宣言と同時に観客達が一斉に声を上げ、雷鳴の如き歓声となって会場を揺らした。


観客達からとんでもない熱気が伝わってくる。


観覧席に座っている部族長達も急に殺気立ち、目の色がみるみる変わっていく。


まるで、会場が猛獣ひしめく檻の中になったみたいだ。


これが獣人族の頂点を決める獣王戦か。


会場から伝わってくる緊張感にぞくりと体が震えてくる。


「……リッド、大舞台の空気に呑まれるなよ」


父上が正面を向いたまま切り出すが、僕は目を細めて笑った。


「ご安心ください、父上。僕はいまとってもわくわくしているんです」


「わくわく、だと?」


「はい。バルディアの威信をこの場で示し、僕の力をあの大舞台で試せることをです」


緊張がないと言えば嘘になるけど、その緊張よりも力を試せる機会を得られたという期待の方が遥かに大きい。


そう確信を持って言える。


「そうか、それは頼もしいことだ。だが、調子に乗って足をすくわれるなよ。すぐ調子に乗るところがお前の悪いところだからな」


「……ご心配には及びません。重々承知しておりますから」


指摘されたとおり、僕は少し調子に乗りやすいところがある。


逆に言えば、波に乗れさえすれば普段の実力以上を発揮できるということでもあるんだけどね。


何にしても、この大舞台だ。


調子に乗りすぎないよう意識して、気を引き締めよう。


「ほほう、セクメトス殿もようやりおるわ。派手な登場と啖呵で一気に民衆の心を掴むとは。さすが現獣王の貫禄と言ったところか。面白い、ここは一つ私も国に戻ったらやってみようかね」


エリアス陛下がにやりと口元を緩めると、エルティア義母様が「ご冗談を」と首を横に振った。


「陛下が急にそんなことをされてはかえって国に混乱をきたします。リーゼルは真っ青となって唖然とし、ザックは刺すような視線を陛下に向けるでしょう。どうしても、というのであればレイシス殿下で試してみては?」


「な……⁉ エルティア様、どうしてそこで私の名前が出てくるんですか⁉」


レイシスが目を丸くするも、エルティア義母様は平然と続けた。


「殿下であれば『若気の至り』として済まされますし、国に混乱は起こりません。試金石としてはよろしいかと存じます」


「よろしくありません。そもそも、どうして若気の至りをわざわざ起こさねばならないのですか⁉」


「あっはは。それは面白い、レイシス。国に戻ったらやってみるか」


「断じてやりません。父上、エルティア義母様、いくらなんでも冗談が過ぎます」


耳まで真っ赤にしたレイシスが声を荒らげると、エルティア義母様は「そうですね」と無表情のまま続けた。


「戯れとは言え、冗談が過ぎたかもしれませんね」


「はは、レイシス。この程度の戯れ、もっと上手にいなさんか。まだまだ青いのう」


「ぐ……⁉」


エリアス陛下の言葉を聞き、レイシスは二人にしてやられたのだと悟った様子で「はぁ……」と深いため息を吐いていた。


レイシス義兄さんも、色々と大変そうだなぁ。


周囲に振り回される様子を見ると、あんまり他人事に思えないんだよね。


「同志諸君の声、実に嬉しいぞ。そして、既に聞き及んでいる者もいるだろうが、今回の獣王戦には特別な参戦者がいる」


セクメトスの声が再び舞台上から轟き、彼女がこちらを見据えた。


「マグノリア帝国に属し、帝国の剣と評されるバルディア辺境伯家より選りすぐりの騎士数名。そして、狭間砦の戦いで『エルバ・グランドーク』を見事に撃退し、型破りの風雲児の異名を得るに至った。獅子奮迅の活躍から当主ライナー・バルディア辺境伯と同じく剣と見なされ帝国の双剣となった、バルディア家嫡男リッド・バルディア殿だ」


口上が会場に響きわたった次の瞬間、セクメトスの目線を追って会場全ての視線が僕に向けられ、地鳴りのような歓声が轟いた。


初めて浴びる大衆の注目に恐れ、不安、緊張など様々な感情が心の中で渦巻くも、その全てを『期待と高揚感』が上回る。


「そして、そのリッド・バルディア殿に対するのは獣人族の王子である我が息子ヨハン・ベスティアだ」


会場に更なる歓声が轟くなか、ちらりとヨハンを見やれば目が合った。


どうやら彼も僕のことが気になっていたらしい。


『リッド、君は大親友だ。でも、この大舞台で負けるのは君だよ』


『ヨハン、大親友と言ってもらえて光栄だし、素直に嬉しいよ。でも、この大舞台で勝つのは僕さ』


言葉に出さずとも、僕達は不思議と視線でお互いの気持ちがわかった。


ヨハンはふっと鼻を鳴らして正面を向き、僕はにこりと笑って舞台に視線を戻した。


「さぁ、皆で次世代の躍進と新たな獣王の誕生を刮目しようではないか」


セクメトスの言葉で獣王戦の火蓋は切られ、会場全体から歓声と拍手の渦が巻き起こる。


未来に起こり得るバルディアの断罪を回避するため、何人からも大切な家族【バルディア】を守るため。


この獣王戦の大舞台は絶対に負けられない。


ヨハン、例え君が『ときレラ』における物理最強キャラだったとしても、この勝負は必ず勝たせてもらう。


そのために、僕は『時間』という代償を払って『新たな力』を得たのだから。


リッド君の活躍が面白い、続きが読みたいと思いましたら『評価』『ブックマーク』『リアクション』『温かい感想』をいただければ幸いです!


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▽悪役モブ第二騎士団組織図

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― 新着の感想 ―
獣王はガイア着地したんやろうか?それともスパイダーマン着地? もしくはアニメ表現で偶に有る直立不動着地?
リッドはすでに愛妻家として広まってるけどヨハンも愛妻家として有名になりそう
精神と時の部屋で一年の全てを鍛錬だけに費やしてきた天才の実力が今! エルバを倒したモード並の強さはさすがに無理だろうけど、結構近いレベルまで行ってる?
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