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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第十章

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リッド達の帰館2

「ただいまです、母上」


「お義母様、ただいま戻りました」


「おかえりなさい、二人とも」


父上達と一緒に母上の部屋を訪ねた僕とファラ。


母上は綺麗な赤いドレスに身を包み、凜とした佇まいで出迎えてくれた。


その姿が目に飛び込んできた瞬間、目頭が熱くなっていても立ってもいられず、僕は母上の元へ足が動いてしまう。


隣に並び立っていたファラも同様だった。


母上は笑顔でしゃがみ込み、僕達を優しく胸の内に抱きかかえてくれる。


「牢宮での修練は大変だったのでしょう。ライナーから様子を聞いていたわ」


母上はそう言って、僕達の顔を優しい眼差しで見つめた。


「こんなに髪が伸びて、身長も少し伸びたかしら。よく頑張りましたね、貴方達に頼りきりで力になれずにごめんなさい」


「いいえ、とんでもないことです。僕は、バルディア家の嫡男として当然のことをしているだけですから。それに母上は闘病中なんです。むしろ、頼り切ってください」


「お義母様、リッド様の仰るとおりです。私もリッド様を、えっと、妻として支えたのみですから、気に病む事なんて全くございません」


「ありがとう。私は幸せ者だわ。こんな素敵な二人の母親なんだもの」


僕とファラが笑顔で答えると、母上は口元を手で押さえつつ、声を震わせながら嬉しそうに微笑み、僕達を再び胸の中に抱きしめる。


心なしか、その目は少し潤んでいるように見えた。


優しさにぎゅっと包まれる中、自分の意思と関係なく目から頬に涙が伝っていく。


泣きたいわけじゃないのに。


鼻を啜ったその時、ファラも目から涙が溢れていた。


僕達は自分達が思っている以上に、心が強ばって緊張していたのだろうか。


あるいは、そうした緊張を解いてくれるのが母上の持つ不思議な力なのかもしれない。


「はは、二人ともそんなに泣いちゃって。余程、母君と会えたのが嬉しかったんだねぇ」


頭上から茶化すように明るい声が聞こえてくる。


見上げれば、そこには掌サイズのフェイがにんまりと笑って浮いていた。


すると、母上がにこりと彼を見やった。


「フェイ、貴方も本当にありがとう。この子達のことをずっと見守っていてくれていたのでしょう。感謝してもしきれません」


「え、あ、いやまぁ、リッドに頼まれたことをやっていただけだし……僕の力を使えば当たり前というか、何というか」


予想外の反応だったのか。


母上にお礼を告げられ、彼は照れくさそうに頬をかき始めた。


「いいえ。頼まれたと言っても、それに応じて答えてくれたのはフェイでしょう。そして、当たり前ということを当たり前にできることは素晴らしいことなのですよ」


「あう……」


フェイは宙に浮いたまま赤面してたじろいだ。


闘病生活で長期間、不自由な生活を強いられた母上に『当たり前のことが当たり前にできることは素晴らしいこと』なんて言われたら何も言い返せないし、何よりもフェイが褒められ慣れていないみたい。


母上はくすりと笑って目を細めながら、彼に向かって手を差し出した。


「改めてお礼を言いますね。フェイ・バルディア、本当にありがとう」


「え、えっと。ぼ、僕も母君に喜んでもらえたみたいで、良かったです」


フェイはどぎまぎしながら答えつつ、差し出された手の上に降り立った。


すると、母上は丁寧に優しく、彼を胸の中に抱きしめる。


「ふぇ……⁉」


「貴方がバルディアとの縁を結び、バルディアの家族になってくれたこと。私は心から感謝しています。どうか、これからもよろしくお願いしますね。フェイ」


「は、はい。任せてください……」


母上はにこりと笑って彼を抱擁から離した。


フェイは耳まで顔を真っ赤にし、ぽーっとしながら僕の肩に舞い降りて「ねぇ、リッド……」と熱が籠もったような小声で呟いた。


「ふふ、どうしたの?」


「すっごく胸がどきどきしているんだ。こんなこと初めてだよ。君達が母君を大切にする理由、なんか分かった気がする」


「そっか、それは良かったね。でも、気を付けてね」


「気を付ける?」


フェイが小首を傾げると、僕は背後を見るように目配せする。


彼が訝しみながら首を回すと「げ……⁉」という声がすぐに聞こえてきた。


なお、視線の先にいるのは父上だ。


母上が僕とファラを抱きしめても、背後にいる父上からは何の気配も感じなかった。


だけど、母上がフェイを胸に抱きしめた瞬間、溶岩がぐつぐつと煮えたぎるような熱い気配。


そして、射貫かれるような視線が僕の背中を越しにフェイに飛び始めたのだ。


彼は見た目こそ小さくて妖精っぽいが長い年月を生きた魔物だ。


それに性別はなくても、口調や言動は男の子っぽい。


いくらフェイの精神年齢が幼いと言っても、父上は少し思うところがあるのだろう。


フェイは錆びたねじのようにぎりぎりと前を向き、「ねぇ、リッド」と恐る恐る切り出した。


「なんか父君、めっちゃ怒ってて怖いんだけど」


「だろうね。でも、それよりもさ」


話頭を転じ、僕はフェイに囁いた。


「僕達が母上を大切にする理由が分かってくれたみたいで嬉しいよ」


「う、うん」


彼が相槌を打ったその時、部屋の扉が丁寧に叩かれた。


「皆様、メルディ様達をお連れいたしました。入ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ、構わんぞ」


声の主はティンクだ。


父上が母上に目配せして答えると、扉が開かれてメル達が流れ込んできた。


「兄様、今度は逃がさないからね。ちゃんと話を聞かせてよ」


「そうです。いくら成長期でも髪はそんな短期間で伸びませんよ」


「私も気になります。何をどうしたらそんな風になるのでしょうか」


「えっと、リッド兄様とファラ姉様。少し身長が伸びたような気もします」


メルとキールが入るなり大きな声で捲し立て、その後にティスとシトリーが続く。


四人の後にはダナエとティンクが苦笑しながらやってきた。


ダナエとティンクは会釈し、部屋の隅に移動する。


なお、部屋にはカペラ、アスナ、ジェシカ、サンドラ達も控えている状況だ。


「あはは、そうだよね。驚いちゃうよね」


僕は決まりが悪く頬を掻きつつ『話して大丈夫ですか?』と目配せすると、父上はこくりと頷いた。


メル達は第二騎士団の執務代行もしてくれたし、今後のことも踏まえて共有しておくべきだろう。


僕は深呼吸をし、「実はね……」と皆の顔をゆっくり見渡して口火を切った。


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