バルディアのぱじゃまぱーてぃー3
「えっと、ごめん。それは初耳なんだけど……?」
「それはそうだろう。私だって、父上から聞かされるまで知らなかったんだからな」
僕の言葉にデーヴィドはやれやれと肩を竦めた。
「もっとも、ケルヴィン辺境伯家は早々に候補から外れたらしい」
「え、どうして?」
「レナルーテ王国との距離があり過ぎたから、だそうだ。レナルーテ側の心情を考えた結果らしい」
「あぁ、なるほど」
言われてみれば、それもそうだと合点がいった。
政略結婚とはいえレナルーテは年端もいかない王族のファラを差し出したのにも関わらず、皇族ではなく高位貴族との婚姻。
これだけでも、レナルーテの一部華族は反発していた。
もし、物理的に距離があるケルヴィン辺境伯家ともなれば、人質の印象が強まったはず。
そうなれば反対派を率いていたノリス一派だけでなく、エルティア義母様もきっと猛反発したに違いない。
最悪、ノリスと手を組んで何が何でも婚姻を破談にした可能性もある。
「リッド、もう終わった話だ。気にするな」
軽い口調で切り出したのはデイビッドだ。
彼はそのままの勢いで「そもそも……」と続けた。
「ファラもといレナルーテ王国の王女との政略結婚となれば、有力貴族の名が挙がるのは当然だろう。バルディア辺境伯家、ケルヴィン辺境伯家、ジャンポール侯爵家だけでなくエラセニーゼ公爵家。それ以外の名家も候補に入っていたはずだ。終わった話を気にしていてはきりがないぞ」
「う、うん。それもそうだね」
デイビッドの言うことも尤もなんだけど、ベルゼとデーヴィドがファラの縁談候補だったというのが何故か引っかかる。
僕やファラと同い年なんだから、候補に選ばれるのは当然なはずなんだけど。
これはあれかな、嫉妬というか独占欲的なものだろうか。
自分の中にある感情の処理に困惑しているなか「さて……」とキールが笑顔で話頭を転じた。
「皆それぞれに話したんだ。あとは、リッド義兄さんだけだよ」
彼がそう言うと、皆の視線が息を合わせたようにこちらに向けられた。
「そうですね。帝都で話題に事欠かないリッドとファラの恋バナを聞けるなんて、楽しみです」
「まぁ、リッドとファラは結婚しているのだから、この場合は惚気になるかもしれないがどんな話が飛び出てくるのか。期待しているぞ」
「え、えぇ……?」
ベルゼとデーヴィドが興味津々といった様子で身を乗り出してきた。
僕が話す番になって、何やら急に部屋の雰囲気が変わった気がする。
「確かに直近の話題だと惚気になるな。では、私同様にファラとの馴れ初めを聞かせてくれ」
「な、馴れ初め……?」
デイビッドの言葉に首を傾げるも、キールがすぐに反応した。
「それは面白そうですね。さすが兄さんです」
「うん、僕もリッドとファラの馴れ初め。聞いてみたい」
「そうだな。二人がレナルーテ王国でどう出会い、親交を深めたのか。実に面白そうだ」
四人は目を輝かせ、こちらを見据えている。
「え、えっと。僕とファラは国同士の政略結婚の意味合いが強いから、馴れ初めと言ってもそんな大した話にはならないと思うんだけど……」
急な注目を浴びて戸惑いながら切り出すと、デイビッド達が急にむっとして顔を寄せてきた。
「リッド、私達には語らせておきながら自分は誤魔化すつもりなのか」
「リッド義兄さん、ここは愛妻家らしく自信満々に語ってください」
「リッドとファラの出会い。僕はとっても興味あるよ」
「リッドは私と同じ武家の辺境伯家出身だろう。ここは及び腰にならず覚悟を決め、男らしく語ってくれ」
デイビッド、キール、ベルゼ、デーヴィド。
まるで示し合わせたかのように圧を発して迫ってきた。
「ちょ、ちょっと待って。話す、話すからそんなに迫ってこないでよ……⁉」
四人の圧に押し負けて慌てて答えた瞬間、デイビッドがにやりと笑った。
「聞いたな、皆」
「えぇ、聞きましたよ。兄さん」
「僕もです、殿下」
「私も聞きました」
四人はすっと普段の表情に戻るなり、引いてしまった。
「え……?」
意図が分からずきょとんとするも、僕はすぐにハッとして四人を訝しんだ。
「……僕が話さざるを得ない状況にするため、予め皆で口裏を合わせていたんだね?」
「はは、今更気付いたのか。だが、一度話すと言った以上は聞かせてもらうぞ」
デイビッドがしたり顔を浮かべ、残りの皆はくすくすと笑みを溢した。
「リッド義兄さんは弁が立ちますからね。これぐらいしておかないと上手く逃げてしまいますからね」
「その口ぶり、キールの考えか。はぁ、やられたよ」
僕は額に手を当てながらため息を吐いた。
でも、どんな流れにしろ話すと言った以上、語るのが筋だろう。
まぁ、こういうのもパジャマパーティーの醍醐味なんだろうな……多分。
少し釈然としないけど、僕は咳払いをして「じゃあ、話すけど……」と口火を切った。
「ファラと初めて顔を合わせたのはレナルーテ王国の王城。謁見の間でエリアス陛下達に挨拶した時だね」
「なるほど。それで、初めて顔を合わせた時、どう思ったんだ?」
何やらデイビッドが食い気味に聞いてきた。
「どう思った、か……」
目を閉じ、腕を組んで出会いに想いを馳せれば脳裏に当時の記憶が鮮明に思い起こされていく。
『レナルーテ国。エリアス・レナルーテの娘、ファラ・レナルーテと申します。よろしくお願いいたします……』
謁見の間でそう告げた彼女と目が合った時、ドキリと胸が高鳴って、ドクンとした鼓動が心の中で響いたんだよね。
あの時は緊張もあってはっきりと自覚できなかったけど、今なら確信を持って言える。
僕は目をゆっくり開けると、照れ隠しに頬を掻きながら「えっとね……」と口火を切った。
「あれは、うん。一目惚れだったよ」
そう告げたところ、一瞬の静寂が訪れるも皆はすぐに色めき立った。
「情熱的だな。さすがは愛妻家と名高いリッドだ」
「それなら僕と同じですね、リッド義兄さん」
「うわぁ。一目惚れって、本当にあるんですね」
「興味深い。もっと詳しい話を聞かせてもらいたいな」
デイビッド、キール、ベルゼ、デーヴィドの四人は目を爛々と輝かせ、身を乗り出して顔を寄せてきた。
「あ、あはは。お手柔らかにお願いね」
それから皆が睡魔に襲われるまで、僕が質問攻めにあったことは言うまでもない。




