対牛鬼、リッドの逆襲
「ヌゥガァアアアアアア」
牛鬼は怒号を発し、駆け走ることで牢宮【ダンジョン】に地響きを轟かせ、イビと薙刀戦士には目もくれずに僕の後ろから追ってきている。
巨大な分、歩幅も大きいから見かけ以上に足が速いようだ。
身体強化・烈火を発動しているから何とかなっているけど、通常の身体強化だと追いつかれているかもしれない。
ちょっとした判断の誤りが『死』に直結する状況だというのに、僕の心中は不安や恐怖よりも興奮や武者震いのような高揚感に包まれている。
『幼いリッド様には、どうしても『死』と隣り合わせの実戦経験が足りませぬ。その点が補えれば、さらなる強さを得られることでしょう』
牢宮を駆け走る中、ふいにカーティスの言葉が脳裏を過った。
僕がバルディアの山岳地帯からこの牢宮に誘われてから、すでに数時間は経過している。
通信魔法は使えず、外部と連絡を取る手段は現状不明。
フェイの言う遊戯【ゲーム】を短時間で攻略して脱出できたとしても、バルディアの皆には相当な心配を掛けてしまっていることだろう。
ここに誘われたのは僕の意思ではないにしろ、普段から迷惑をかけているから心苦しい思いはある。
ただ、今は現状を乗り切ることに集中すべきだ。
叱られる覚悟もあるからね。
そして、この心中にある不安、恐怖、興奮、武者震いと向き合い、より高みを目指す好機と捉えるべきだろう。
「ふふ、こういう状況って確か、前世だと『さらに向こうへ【プルスウルトラ】』とか言ってた気がするな」
不思議と笑いが吹き出ると、「おい、悪役主人公【ダークヒーロー】」と空から凜とした強い口調が轟いた。
「てめぇ、いつまで逃げてんだ。見せ場を作れよ。それともあれか、がきんちょだけに木偶坊【でくのぼう】ってか」
走りながら見上げれば、空で両腕を組んだイビが口元をにやりと歪めていた。
そっちが牛鬼をこちらにけしかけたくせに。
少しの苛立ちを覚え、僕も大声かつ強い口調で切り出した。
「悪役主人公の次は木偶坊か。随分な言いようだね。あいつを煽って挑発したのは君だろう」
「はは。どの道、この程度の相手に苦戦するようなら、悪役主人公は名が勝ちすぎるからな。てめぇの愛称【ニックネーム】は木偶坊に格下げだ」
「それは御免被るね」
僕は勝ち気に言い返すと、その場で足を止めて背後から追ってくる牛鬼に振り返った。
「ヌゥオオオオオ」
直後、牛鬼は好機と見たのか大剣を振りかぶって放り投げてきた。
牛鬼と同等の大きさ、優に5mはありそうな大剣だ。
骸骨達を倒して拾った剣に魔力付与をした程度では、受け止めることは不可能だ。
かといって、飛び上がるだけでは薙刀戦士に伝えた『隙』を作ることもできない。
「見せ場を作るつもりはさらさらないけど、倒すための隙は作らないといけないからね」
自分を鼓舞するように呟くと、僕は回転しながら迫ってくる大剣に向かって駆け出した。
牛鬼は得物を大きく振りかぶって投げたことで、次の動きが限定されている。
あいつの残った得物は腰にある鞘に入った二振りの剣のみ。
なら、僕がするべきことは決まっている。
大剣が目の前に来た瞬間、僕は素早く牛鬼に向かって跳躍して大剣を躱す。
同時に溜め込んでいた魔力で風の属性魔法を発動し、自身の勢いと速度を限界まで向上させた。
牛鬼は僕が向かって来るとは思っていなかったのか目を見開くも、すぐに腕を交差して防御の構えを取った。
「果たして、この技に君は耐えられるかな」
僕は身を縮め、速度を維持しながら空中で前転の動きで縦軸の回転運動を行って勢いを増し、『魔障壁を展開した状態』で踵落としを牛鬼の交差した両腕に振り下ろした。
「死中に活を見いだせ、魔衝一蹴撃【ましょういっしゅうげき】」
踵落としが牛鬼の腕にぶつかった瞬間、牢宮内に硝子が割れたような甲高い音が轟き、波紋のように響きわたった。




