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「季節の野菜パスタ二つと、コーヒーとアイスティーを」
久しぶりに外に出たのに、店の中は妙にこじんまりしていて、閉塞感を感じた。
「それで? ロザリアさんはこの仕事が終わっても、うちの工場で縫製の仕事をつづけてくれるのかい?」
イワガキは氷水を口に含んでからそんなことを聞いてきた。
「ええ。わたくしが仕事するのなら、縫製しかないもの」
「たとえば寿退社――、結婚して引退することとか考えてないんだ?」
「そんなこと考えてどうするの? 相手もいないのに」
「俺じゃダメかい?」
「なに言ってるの?」
ありえない。イワガキはとても無神経だわ。
そうは言っても結婚退社なんて時代錯誤な気がする。
「あの工場では、寿退社するのが夢だって女の子はいっぱいいるよ?」
「わたくしはそうは思わないわ」
「なるほど。ロザリアさんはなかなかキツイ性格みたいだね? そのせいで損をしたことあるだろう?」
「なんでそんなことを聞くの?」
今、とても不愉快で仕方ない。
「気づいてないか。俺、こう見えて一途なんだ」
「それで?」
「一応口説いてるんだけど」
「わたくしを!?」
おどろいた。なんて大胆なの。このわたくしがイワガキ程度の男に口説かれるだなんて。あってはならないことだわ。
「どうかな? そりゃ、きみの大切な秘書さんより気が利かないと思うけど、普通の生活を約束できるよ?」
「普通は嫌い。あなたと結婚する人は、家の中に閉じ込められる運命にあるみたいね」
いや、まいったとイワガキは頭をかいて運ばれてきたコーヒーに口をつけた。
「もっと本気で考えてよ。俺ならきみをしあわせにできるんだよ」
「なにを根拠にそんなこと言えるのかしら?」
「それは俺が俺だから」
よりによってザックと比べるなんて。とんでもない自信家ね。
「わたくしはわたくしの心が震える人とじゃないと結婚しようと思わないわ」
「たとえば、エリオット・レモンティのような男かい?」
嫌だ。どうしてこんなにずかずかとわたくしの懐を探ってくるのだろう? これが口説かれてるってこと? なにか違うみたい。
「エリオットは過去の人よ。今はただの友だちだわ」
「なるほど。なら、俺と友だちになってよ。そこから初めてみない?」
「あなた、見かけによらずしつこいのね?」
こんなことなら、電気くらげに電撃を放ってもらいたいくらい。
「しつこいよ。だって俺、ロザリアさんのことを好きになってしまったんだから」
「そんなこと、この場面でよく言えるわね」
本当にあきれた。そしてアイスティーはがっかりするほどおいしくなかった。
しばらくするとパスタが運ばれてきたけど、なんだか水っぽいし、アスパラは生っぽくておいしくなかった。
なんだか今日一日を無駄にした気分だわ。
つづく




