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「ええと……?」
「イワガキですよ。そう呼んでください」
「じゃあ、イワガキ。わたくしになにか用があるのかしら?」
「用という用でもないけど。どうです? もうこの地に慣れました?」
いきなりそんなことを聞かれても、ほとんど工場の中にいるわたくしには答えようがないわ。
「って言っても。ドレスを一人で作ってるなんて普通じゃない。手伝いましょうか?」
「イワガキは、他の仕事があるのではなくて?」
いやいや、とイワガキは顔の前で手を振る。
「ミカリン・アールグレイのドレスのほんの少しの部分しか任されてないから、いなくても一緒なんだ。それよりロザリアさんの方が大変でしょう?」
また、大変って言われてしまったわ。そんなんじゃないのに。
「大丈夫よ。でも、手伝ってくれるのなら心強いわ」
まだザックが来ない。イワガキの、長身に似合わぬ繊細そうな指先が目に入り赤面する。
ザック以外の男の人と話すことなんて、めったになかった。
「それじゃ、今日はなにをします?」
「ええと、そうねぇ」
わたくしはドレス作りの経過をざっと話して聞かせた。
ここまでくると、やっぱりわざとだ。
ザックはイワガキに気を遣ってわざと近づいて来ないのだ。
自分は同僚から弁当を受け取った癖に。
悔しくて、おもわずイワガキに身体を寄せてしまう。
「ここを押さえていてちょうだい」
「はいよ」
その雑な返事が不快感をあたえることに気づかないのかしら?
だけど今さら手伝わなくていいなんて言えない。
「ああ、お昼休憩だ。ロザリアさん、一緒に昼食でもどうですか?」
「わたくしは……」
ザックは今日もお昼を作ってくれているのかしら? それとも、弁当で手一杯?
「この近所においしいイタリアンがあるんですよ。おごりますんで、パスタとかどうです?」
……来ないザックが悪いんだ。
「そうね。それじゃ、案内してもらおうかしら?」
これは裏切りになるのかしら?
だけどザックは執事だった頃とそんなに態度を変えることはなかった。
変わったのは、むしろわたくしの方だったのかもしれない。
「どのパスタがおいしいの?」
「季節のパスタってのがあって、旬の野菜を使ったのがおすすめかな。あとはコーヒーがべらぼうにうまい」
コーヒーなんて苦くて飲めないと言ったら、あきらめてくれるだろうか?
「ああ、もしかしてコーヒー苦手? だったらアイスティーなんてどうです? ずっと工場の中で仕事してるんだから、冷たいもの飲まなくちゃ」
あたたかい紅茶が一番大切なのよ? そんなことも知らないの?
そんな人とこれから一緒にご飯を食べるの?
このわたくしが?
信じられないわ。
つづく




