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「ああ、ザック!! さっきはおいしいケーキをありがとう」
おなじ工場で働く現地の女性は、気軽にザックをつかまえて話をしている。
正直言うと、気が気じゃない。
「よろこんでいただけましたらなによりです」
「ねぇ、ザック。仕事終わりに遊びに行かない? もちろん、あなたの雇い主の了解が得られたら、だけど」
わかりやすい嫌がらせ。そういう時に強がるから、わたくしは誤解されやすいのだ。
「申し訳ありませんが。わたくしの雇い主は一人しかおりませんのでお断りします。雇い主が了承してくれたとしても、他人と目的もなく遊ぶのは好みではありませんから」
「あらまぁ。よっぽどお嬢様に首ったけなのね」
「そうですよ」
だから。そういう時は違います、とか答えなさいよなんて思いながらも。
ちょっとだけうれしい。
雇い主ってあたりがむずむずするけど、ゆるしちゃう。
断ってくれてありがとう。
「でもあなた、あの手作りケーキとってもおいしかったから、もしお嬢様が結婚しちゃって無職になっても喫茶店で雇ってもらえるわね」
「そうでしょうか? ロザリア様はまだ結婚できない年ですが?」
だからそれ!!
……なんてわかりやすい皮肉なんだろう。女って、醜いな。
「まぁ、そうだけど。そのうちお嬢様だって恋愛するでしょう? その時あなたがくっついていたら、お邪魔になるじゃない?」
「その時に考えますのでお気遣いなく」
ザックったら。
そんなことないよって、言ってしまいたくなる。
わたくしが今気になっているのはザックだけだもの。
ねぇ、ザック。わたくしのこと、好き?
……そんなことを聞けたら、もっと楽になれるのに。
でも、もし断られたら?
わたくしはただの雇い主でしかないのかしら?
「食べ終えたのでしたら、お皿を片付けます」
「あ〜ん。ザックってばつれないんだから」
甘い声で囁く女を心底醜いと思った。
「それから、ロザリア様の職場だからケーキを配っただけで、貴方様に好意を抱いているわけではありませんので、もし勘違いさせてしまったのでしたらすみません」
ちゃんとフォローまでしてる。ザックってすごいな。
女の職場って思われがちだけど、ザックも少しはわたくしの手伝いをしてくれているし、まるっきり秘書だけやっているわけじゃない。
女たちの職場だからこそ、ザックが恋愛対象にされるのはわかるんだけど。
こんなこと、もう嫌だな。
それからザックはわたくしを見て。
「申し訳ございません、ロザリア様。職場の皆様と円滑に仕事を進めるためのリップサービスまでしてしまったようです」
どこがサービスしていたんだろう!?
つづく




