立つ女
「さて、昼間もやってきましたがこちらが夜の現場となります」
彼らがやってきたのは事故が起きた夜の現場だ。
「街灯も無く、ここに人が倒れていたらと考えるとかなり注意しないといけません」
「噂の女を確認する為、ここからは一人で歩きたいと思いまーす」
ここでカメラが切られた。
「本当に一人で行くのか」
「そりゃ、調査はあくまで信憑性を高める為、俺達の本当の目的は勇敢に挑んでいる姿を見せる事だろ」
「それはそうだけど」と気乗りしない敢太からカメラを受け取り、勇二は一人夜道へ消えていった。
「やっぱり暗いですねぇ、見てください周り」
一人そんな事を言いながらカメラで周りを撮影して歩いていく。
勇二も馬鹿ではない、敢太が気乗りしない理由も分かっている。
(やっぱり止めるべきか)
そんな悩みを抱えながら無意識に進んでいると道の端に髪の長い女が一人立っているでは無いか。
「緊急事態です、もしかして噂の女と遭遇してしまったかも知れません」
カメラで撮しながら、ネットの情報を思い出し身構える。
その手の揺れは現場の緊張感を記録していた。
勇二は撮影しながら女とは距離をとり、その横を通り過ぎようとした時。
「危ないですよ」
「うわーー!!」
女の静かな声とは裏腹に勇二は大声をあげ走って逃げる。
だがしばらく進んだ後に止まった(危ないですよ?)この言葉が頭に届いた。
「あの~、先程は大声をあげてしまい申し訳ございません」
勇二は元の場所に戻り、女へ声をかけた。
「いえ、地元の人ではないですよね? ここら辺には何もないと思いますが何かお困りですか?」
よく見れば20代前半の綺麗なお姉さんである。
「いや、困ってる訳ではなくて…」と説明しようとすると遠くから「おーい」と声が聞こえる。
「俺が勇二でこっちが敢太って言います。
ネットでここが少し噂になっているので見に来たんです」
勇二の雄叫びを聞き、心配して駆けつけた敢太と共に今回は榎本さんの時の失敗を生かして最初から正直に話を始める。
「噂ってどんな噂ですか?」
「ここは心霊スポットだという噂です」
この言葉に彼女は反応を示した。
こんな場所で一人立っているのだ無関係で無い事は明白である。
「心霊スポットですか、確かに以前ここら辺で事故がありましたからね」
彼女は伏し目がちにそう言った。
「事故の件ご存知なんですね、だとするとなおの事、疑問に思うのですが…」
「何ですか?」
彼女は愛想笑いを浮かべてこちらに顔を向ける。
「お姉さんは何で夜中にこんな所で立っているんですか?」
この確信をついた質問にまるで準備をしていたかのような返答をしてくれた。
「その以前あった事故の為です。
定期的に通るようにしてて、そしたら後ろから大きな独り言を発して歩いてくる人がいるから立ち止まって警戒してました」
彼女のいうとおり、夜道で男が後ろから大きな独り言を発して付いてきたら怖いであろう事は想像出来る。
勇二は小さく「すいません」と謝り、ある考えが頭を駆け巡る。
「もしかして山本美咲さんのお姉さんなんじゃないですか?」
突拍子のない質問に二人は呆気にとられていた。
「はい? 何でそう思ったんですか?」
「いや、事故があったから定期的に通ってるなんておかしいじゃないですか」
「それだけ?」
敢太も勇二の説明にはまだ納得していない様子だ。
「もちろん、それだけではありません」
まるで推理ドラマのように勇二は話を続ける。
「お姉さんはこうも言いました」
【後ろから大きな独り言を発して歩いてくる人がいるから立ち止まって警戒していた】
「普通そんな人が後ろから来たら逃げるんじゃないですか? 立ち止まって警戒するなんて事無いと思います」
「そこに何か理由がある以外は」
この推測を聞いたお姉さんは「こうも考えられない?」と返事をする。
「ここは見通しの悪い道路。
私は以前あった事故を再び起こさない為に見回りしている警察官。
それなら立ち止まって警戒する事にも合点がいくと思うけど?」
そんな事を考えもしなかった勇二は「なるほど」と返す言葉を考えていた。
すると勇二を待たず敢太が「警察の方なんですか?」という純粋な質問をぶつける。
すると彼女は「さぁ? どうでしょう?」とイタズラに笑い。
「私はもう帰るからあなた達も帰りなさい」
それだけ言って立ち去ってしまう。
取り残された二人はお姉さんとは逆方向へ歩きながら「結局あの場所で何してたんだろうな」と勇二は未だに悩んでいた。
その様子をみていた敢太は「お前が確信をついたからはぐらかされたのかもな」と呟く。
「はぐらかされた?」
「そうだよ、だって最初の質問【山本美咲さんのお姉さんですか?】ってやつには結局答えて無いだろ」
「あっ」
敢太に言われて上手く誤魔化されていた事に気付き、少し悔しい気持ちになった。
そんなモヤモヤを残しながら今夜はホテルへと戻るのだった。
ーーー
翌日、二人でホテルの朝食を取っていると「今日はどうする?」と敢太が話しかけてきた。
パンをかじりながら勇二は答える。
「今日もあの場所に行こうと思う。
最初に取材したおばあさんが言ってただろ、【ここら辺に住む山本さん】って周辺をひたすら探してみよう」
「…そこまでしなくて良いんじゃないか」
敢太は昨日言えなかった気持ちを改めて伝えた。
「事故の情報と現場の撮影だけで充分だろ、これ以上深掘りする必要無いんじゃないか」
「いや、俺は最後までやりたい」
「遺族の気持ちを踏みにじってもか」
「…」
敢太がずっと言いたかった本音はこれである自分達のYouTubeを盛り上げる為にそこまで踏み込む必要があるのかという事だ。
「俺はやりたい、噂の信憑性を持たせる為じゃない、何故ネットにこんな噂を掲示したのか? 誰が? 何の目的で?」
「最初は心霊が目的で来たけど今は違う、ネットの掲示は何が目的なのか、それを探るのが勇敢チャンネルのするべき事だと思ってる」
勇二も敢太の気持ちに応えるように誠意を込めて返答をした。
その真っ直ぐな目に敢太は「はぁ~」とため息をつき「分かったよ、けど関係者に不快な想いをさせちゃいけないだろ」と言葉を返す。
「山本さんの家を探るのはやり過ぎか?」
「やり過ぎだよ」
敢太の言葉に勇二は反省し「じゃあ今日はどうするか」と頭を悩ませていると敢太から提案があった。
「夜中になったら、あのお姉さんがいた所に行ってみよう、また会えるかも知れない」
敢太の提案に「う~ん」と身の無い返事をして天井を見上げる勇二はもしかしたらというある可能性を思いつき敢太に話す。
「まぁそれぐらいなら…」と敢太の許可を得て二人で移動するのであった。




