最後の夏
やってきたのは山本美咲さんが当日に行っていたという隣町の森林祭りである。
現場にあった多くの花束と榎本さんが昨日来た事を考えると1年前の昨日が命日だったのでは無いかと推測したのだ。
そしてその森林祭りは今年も開催していた。
ここまでは想像どおりであったが、問題は人の多さである。
自分達が知らないだけで本当に有名な祭りだったらしく人で賑わっていた。
「こっから取材をするのか?」
敢太は既に諦めたように訴える。
「まぁ、そうだな聞くのはあくまで地元の心霊体験や怖い話についてだから」
それからというもの小学生からお年寄りまで様々な話を聞いた。
その多くが何処かで聞いた事があるような話を地元に置き換えた物に過ぎない。
ただ取材した女子高生のグループは違ったのだ、彼女達の怖い話というのが
【夜中ある道を一人で歩いていると見知らぬ女が立っており声をかけてくる、女を見るとその顔は潰れていた】という話だ。
「その女って黒と赤の浴衣を着た女の話?」
勇二は食いつき質問する。
「えっ? そんな格好だっけ?」
「確か白いワンピースじゃなかった?」
「違うよ、夏なのに黒いコートを着た女じゃない?」
格好に関してはそれぞれ意見が違う。
「じゃあ、質問を変えよう、声をかけてくるって何て言われるのかな?」
「シンプルに【死ねー!】じゃなかったっけ?」
「違うでしょ【助けて~】でしょ?」
「えっ、【許さない】って呟いてるんでしょ?」
またしても意見が違う。
「じゃあ最後の質問! それって学校で流行った噂とかなのかな? 誰に聞いたの?」
「誰? 確か真利ちゃん?」
「そうそう、私も真利」
「というかそんな話好きなの真利ちゃんしかいないでしょ!」
三人は「確かに」とお互い納得し笑いあっている。
「その真利ちゃんって会えたりする?」
「どうだろう? 連絡する事は可能ですよ」
勇二は噂の真相を確めるべく真利ちゃんを待つのだった。
その待っている間、三人組にネットの噂について尋ねたが皆知らない様子であり、後は祭りを案内してもらった。
様々な場所へ行き、記念写真も撮って楽しかったのは事実だが、その反面出費が増えたのは言うまでもない。
女とはこんな年齢から男を手玉に取り逞しいものだ。
そんな中、合流したのが彼女達が言っていた真利ちゃんだ。
勇二達は自己紹介を済ませて彼女の話を聞いた。
「私は友達から聞いた話を皆に話しただけです」
「友達から聞いた話?」
「はい、友達のお兄さんが恋人を振ったら、当日交通事故に遭って亡くなったって話を聞いて、だから友達も元気ないから励まそうって皆に話しました」
【恋人】この言葉に榎本さんから聞いた情報を思い出す。そして話の重要な部分を最後に聞く。
「その話ってネットに載せたりした?」
「いや、私は友達に話しただけです」
この答えで二人は察した、榎本さんがいうような関係者ではなく、この話を知った友達の誰かがネットに載せたのだと。
この辿り着いた真実に勇二は「じゃあ次へ行こうと」敢太へ告げた。
「どこに行くんだ?」
「恐らくこの事を伝えないといけない人がいる時間だ」
この言葉に敢太は察した。
二人は女子高生達にお礼と別れを告げて場所を移動するのだった。
ーーー
「定期的にこの場所を通るようにしているなんてやっぱり嘘じゃないですか」
目的の人物を見つけた二人はそう声をかける。
「山本さんですよね?」
「はぁ、あなた達しつこいのね」
昨日よりやつれた様子のお姉さんがそこに立っていた。
「分かった認めるわ、私は山本美咲の姉、山本麗子よ」
「じゃあ、認めたついでに教えてくれませんか? 何でこんな所に立っているのかを」
彼女はまたしてもため息をつき諦めたかのように語り始めた。
「父を早くに亡くした母は女手一つで私達を育ててくれたのよ、強い母親だった。
でもあの事故以来、母は体調を崩して今は寝たきり状態、かつての母の姿は見る影も無い」
突然何の話だと二人は思ったが黙って続きを聞く。
「母が体調を崩してから一年後、最近になってある噂を耳にしたのよ、この噂については知っているわね?」
彼女はこちらを見て反応を確認している。
二人は首を縦に振り応えた。
「地元の高校生の間では有名な話みたいでね。興味本位でこんな危ない場所へわざわざ足を運ぶ子達がいるのよ。
だから私が警告の為に立っている訳、県外から来るのは予想しなかったけどね」
少し皮肉を交えながらお姉さんは話し終えた。
自分達の安直な行動に恥じながらも勇二は質問をした。
「じゃあ本当に事故を防ぐために立ってるんですか?」
「そうね…、これがあの事故を知っている私が出来る事だから」
彼女は全てを知った上で行動していたのだ。
あの悲惨な事故が人づてに伝わり、心霊のネタとして昇華される。
生きている人間の暇に対する只の話題作り、その心の有り様、自分達の愚かさを知ったのであった。
ーーー
翌日、大学の授業へ間に合うように朝早くの電車に乗るため、それよりも早くから二人は事故現場に来ていた。
最後に自分達が迷惑をかけてしまった彼女に謝るべきだと思ったからだ。
二人は目を閉じ黙祷を捧げる。
敢太が目を開き勇二に行こうと声をかけてた時、勇二は一点を見つめ考えていた。
「どうした?」
その真剣な表情に敢太は思わず声をかける。
「おかしい…」
「えっ? 何が?」
勇二の見つめる先を一緒に見ても敢太は何も分からない。
「おかしくないか? この花束の数」
「花束の数?」
そこにあるのは四つの花束。
「お姉さんが一つ、お母さんが一つ。
あと榎本さんが持ってきていたのが一つ。
もう一つは…そうだ、かつての恋人が持ってきたんじゃないか?」
敢太は自分の推測を話した。
「でもお姉さん言ってただろ、【お母さんは寝たきり】だって、一つ多いと思わないか?」
「一つ多いってそんな事もうどうでも良いだろ? 例えば仲の良かった友達とか何とでも考えられるだろ」
敢太は勇二の言葉に納得いかず反論する。
すると勇二は立ち上がり言った。
「俺は最後までやりたい、お前はどうするか自分で決めてくれ」
「え? 最後までやるって何するんだよ」
敢太は悩んだ末、「もう~!」と大きな声を出し勇二に付いていくのだった。
お姉さんが言っていたであろう、地元の高校そこである人物を探す。
周りからは浮き、危うく警察に通報されそうであったがその前に目的の人物に接触する事が出来た。
「あれ? 昨日のお兄さん達じゃん、こんな所までインタビューしに来てるの?」
それは昨日、森林祭りであった女子高生グループであった目的の人物では無かったが、この子達とある約束をして勇二達はその場を後にした。
夕時、大手チェーン店のファミレスで今朝の子達と合流した。
「連れてきたよ~」と彼女らは軽い挨拶をしてきた。
「ありがとう、助かるよ」
その言葉へ被せるように「本当に全員分おごってくれるんだよね!」と念を押された。
勇二が首を縦に振ると女子高生達は一層盛り上がり、一人を残して別の席に座る。
一人残った女子高生、彼女が勇二の会いたかった人物。
「あなたが山本美咲さんの恋人だった方の妹で間違いないですか?」
「はい」
この子は高野彗さん、山本美咲の恋人であった人物の妹だ。
「お聞きしたいのは山本美咲さんについてです」
「…」
「彼女の事故について友達の真利さんに話したのは事実ですね?」
「はい」
「真利さんは友達のお兄さんの恋人の話と言ってましたが、事実は違うんじゃないですか?」
「…」
「その話は本当は君の実体験じゃないんですか?」
ここまで話すと敢太から肘でつつかれる。
気が付けば勇二の声は大きくなっており、先程まで騒いでいた女子高生グループがこちらを睨んでいた。
すると間を取り持ってくれた子がこちらの席に近付いてきて言った。
「もう、奢ってもらわなくて結構ですので」
それだけ告げて彗の手を取り二人で移動しようとする。
だがそれを止めたのは他でもない彗本人だ。
「心配してくれてありがとう、私は大丈夫だから」
そう言葉にしてはいるが表情は暗い。
本人がそう言うならと席に戻ろうとしたが彼女はその手を離そうとせず、ただ「一緒にいてくれる?」とだけ告げた。
そして友達を隣に座らせた彼女は勇気を出して話を始めた。
「私、最近好きな人に振られたんです。
その帰り道、泣きながら一人で歩いていたら黒と赤が混じったような浴衣を着ている女性が道端に立っていて、変だとは思いましたがその横を通り過ぎました。
そしたら途端に目眩がして、それと同時に後ろから【ダメーー!!】って叫ばれて、その恐ろしい顔を見て気を失いました」
「気を失ったってそれからどうなったの?」
勇二が質問をする。
「気が付いた時は自宅のベットの上でした、信じてもらえないかも知れませんが私は無意識のうちに家へ帰っていたんです」
「そうだったんだ」
彼女の話はまるで夢でも見ていたかのような内容であったが不思議と説得力があった。
「それと…」
終わりだと思っていた話を彼女は続ける。
「それと?」
「帰宅した私を出迎えてくれた兄が言っていたんですが、かつての恋人、美咲さんが重なって見えたって」
彼女の話に皆、聞き入ってしまい沈黙が流れる。そんな中、勇二は次の質問をした。
「だから命日にあの花束を持っていったんだね?」
「はい、なんとなく助けてもらった気がしたから」
真相とは見方によって変わる。
この経験は二人を大きく成長させる不思議な経験であった。
(了)




