心霊のきっかけ
女は一人涙を流しながら夜道を歩く。
見慣れた景色ではあるが気持ち次第でこんなにも暗いものかと感じていた。
泣き疲れた彼女は気分が悪くなってきた。
目の前が歪み、立つことが困難でしゃがもうと思ったが、慣れない浴衣のせいで倒れ込んでしまう。
「気持ち悪い、誰か助けて…」
そんな願いが届いたのか遠くから光が見える。
だがその光景に安心をしたのは一瞬で地面に伝わる音からそれが車であると認識した。
その車はスピードを緩めること無く、どんどん近付いてくる。
(嘘でしょ…私がここにいるのよ)
倒れていた彼女は最後に「死にたくない……」と言葉を残した。
ーーー
「はい、どうも~、勇敢チャンネルの勇二です!」
「さて、夏ですねぇ~、夏といえば海! 祭り! 色々とありますが一番勇気を試されるのは心霊スポットではないでしょうか!?」
「今回も私、勇二が勇敢に挑んでいきますよ~! 面白いと思ってくれた方は高評価とチャンネル登録お願いします!!」
元気よくオープニングを撮り「敢太どうだった?」とカメラマンに感想を聞く。
「オープニングに高評価とか伝えるのって続けるの? 俺はやっぱり最後に言う方が良いと思うんだけど」
「まだ変えて一ヶ月も経ってないからさ、俺はもう少しやってみて反応を確かめたい」
「まぁ、勇二がそう言うなら良いけど」
敢太とは同じ大学に通う友達だ。
大学一年生の時、YouTuberになって有名になりたいという想いからYouTubeを撮り始めた。
最初は仲の良い五人グループだったが自分以外は本気でやってなどいなかった。
そんなグループだった為か1年と持たず解散となる。
そして一人、途方にくれている時に声をかけてくれたのが敢太。
「YouTubeって興味あってさ、演者は無理だけど裏方なら手伝うよ」
彼の一言で俺は夢を続ける事が出来る。
今まで使っていたチャンネルは捨て、新しく勇敢チャンネルを立ち上げたのだ。
「オープニングの話は置いといて」とわざとらしく物を動かすような仕草をして勇二は無理やり話題を変える。
次の話題は勇二がネットの掲示板で見つけた心霊情報だ。
○○県○○市の木林町そこのとある道を夜中一人で歩くと黒と赤に染まった浴衣を着た女がうつ伏せがちに一人で立っている。
その不気味な女の横を通り過ぎようとした途端。
【ダメーー!!】
と大きな声をあげて襲い掛かってくるそうだ。
その女の顔は潰れており、赤い肉の中にある一つの目がこちらを見つめている。
このネットの噂を確めるべく土日を利用して木林町に二人はやってきていた。
「言いにくいけど、やっぱり作り話じゃない?」
勇二を諭すかのように敢太は伝える。
「いやいや、ここまで来てそれは無いでしょ、一旦現地調査して信憑性を高めていこう」
勇敢チャンネルの強みはここだ。
彼は心霊スポットに行って騒ぐだけでは無く、しっかりと調査しそこを含めた動画を投稿しようとしている。
「すいませーん、取材したいのですが少しお時間頂いて良いでしょうか?」
そう勇二は積極的に声をかけ、ネットの噂について調査を開始した。
今回取材に応じてくれたのは70過ぎのおばあちゃん。
「最近、ここら辺で事故が多発しているって聞いたんですが、何か原因があるんですかね?」
心霊という部分は伏せてインタビューを進める。
「事故? はて? そんなのあったかねぇ?」
おばあちゃんが悩んでいる姿を見て、勇二は言葉を変えた。
「誰か倒れた人がいるって聞いたんですけど事故じゃないんですか?」
「倒れた人…」
敢太と目を合わし情報は無さそうだなと早々に切り上げようとした時。
「あぁ、思い出したわ、あれは酷い事故だったわねぇ」
こんな直ぐに話を聞けるとは幸運だとおばあちゃんの言葉に耳を傾けた。
「そう! その事故について詳しく教えて下さい!」
「もう1年も前の事だから確かでは無いけど、ここら辺に住む山本さんとこの、下のお嬢さん、確か美咲ちゃんっていう子が車に轢かれてねぇ、顔なんてぐちゃぐちゃだったって聞いたわねぇ」
これだと言わんばかりに「それで、それは事故だったんですか?」と食い気味に質問をする。
「事故…そうねぇ、熱中症で道に倒れていた美咲ちゃんに運転手が気付かずに車で轢いてしまったって聞いたわ」
「彼女が着ていた黒い浴衣が一層見えずらくしまったんじゃないかって」
この浴衣というワードにも勇二はすかさず食いついた。
「何で美咲さんは浴衣を着ていたんですか」
「隣町でほらあの有名な森林祭りをやっていたからよ」
「森林祭り?」
「森林祭りよ! 知らない?」
「すいません、勉強不足で」
正直、どんな祭りかなど、どうでも良い事ではあったが、ここで話を遮っては心証が良くないと黙って森林祭りの話を聞く態勢になっていると。
「う゛っん゛」
敢太はわざとらしく咳払いをして話を変えるように促す。
「おばあちゃん、お祭りの話はまた今度にして事故のあった場所って何処か分かります?」
「事故のあった場所? それなら…」
おばあちゃんに教えてもらい、二人は現場へと向かうのだった。
ーーー
着いた場所、そこには三つの花束が供えられている。
「事故現場はここだな」
二人は手を合わせて祈った。
「…」
この沈黙を破ったのは敢太の方だ。
「どうするんだ?」
彼の言うどうするとは噂が事実であった場合に対する言葉である。
「ここまで来たんだ最後までやりとおすよ」
勇二の決意を確認した敢太はそれ以上何も言わなかった。
「あの、あなた達は…」
そう言って声をかけてきたのは花束を持った40代半ばの男性であり、何かしらの関係者である事は明白であった。
「えっと俺達は…」
勇二達は先程と同様に話を進め、取材の許可取りを始めた。
「取材ですか…」
「えぇ、最近頻発している事故について調査しているんです」
「そんな事、聞いた事無いけど」と少し半信半疑であったが「俺が言えた事ではないか…」と黙ってしまった。
その意味深な言葉には触れず
「話す話さないは別にして場所変えませんか? ほら、暑いですし」
敢太が気を利かせて提案し近くの喫茶店へ場所を変える事にした。
それぞれ注文をし飲み物がくる間も重苦しい沈黙が流れる。
「まずは改めて自己紹介から始めませんか? 俺達はYouTubeをやっている勇二と敢太って言います」
勇二は持ち前のコミュニケーション能力で場を取り繕う。
「お名前を伺っても良いですか?」
その言葉に「榎本です」と小さな声で答える。そしてまた重い沈黙。
勇二のコミュニケーション能力を持ってしてもこの場の空気を変えることは出来なかった。
そんな重い空気の中、先に口を開いたのは榎本さんだ。
「頻発している事故を調べてるって嘘ですよね」
嘘をついた負い目から直ぐには反応出来なかったが勇二は本当の事を口にする。
「最近、心霊情報をネットで検索したらこの町の事が出てきまして、調べたらあの場所に行き着きました」
「…そうなんですね、そのネットでは何と?」
この質問に勇二はネットの情報をそのまま伝えた。
「…」
事故の関係者である人だ、ネットでそんな噂が立っている事に少なからず衝撃を受けているのであろう。
暫く続いた沈黙の後、榎本さんは重い口を開いた。
「そのネットの情報から察するに書き込んだのは関係者だと思いますよ」
「何でそう思うんですか?」
「当時、報道では轢かれたとしか言われてませんから、あんな死に方を知っているのは関係者しかいません…」
当時を思い出したのか思考が悲しみに沈み言葉が詰まり嗚咽する。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫です、あの事故に私は向き合わないといけないですから…」
「そんなに思い詰めなくても」
勇二はこの言葉を簡単に口にしてしまった。
「思い詰めないなんて出来ませんよ、彼女を轢いたのは私なんですから」
この言葉をきっかけに彼はポツポツと当時の状況を語りだした。
「あの時、入院していた母の容態が急変したと連絡がありました、私の事を一人で育ててくれた母親です。
確かに私の確認不足、確認不足なんですが…、まさか道で人が倒れている何て思わないじゃないですか!」
身を乗り出して訴えてくる突然の大声に勇二達は驚きを隠せない。
その様子を見て榎本さんは「すいません」と小さく謝り話を続けた。
「当時、18歳の彼女を轢いてしまい、私は直ぐに警察へ連絡しました。
もう生きていないのは顔を見て分かりましたが…」
また当時を思い出し言葉を詰まらせたが無理矢理に話を続ける。
「それに後から知ったのですが、その頃には既に母は亡くなっていたそうです。
私は急ぐ必要などなかったのに…」
自分の事を正直に話してくれた榎本さんへお礼を伝えた後に勇二は質問をした。
「そういえばネットに書き込んだ人物に心当たりはあるんですか?」
「心当たりって言ったらやはり親族の方ではないですか?」
「う~ん」
勇二はその答えに納得せず「親族の方がそんな事ネットに載せますかね?」と疑問を口にする。
「私には分かりません、私に対する戒めとしてかも知れません、それか…」
「それか?」
「当時、付き合っていた恋人がいたと聞いてます」
「恋人ですか…」
榎本さんは話終えると気分が悪くなったのか先に店を出ていってしまった、既に冷めたコーヒーには口をつけずに。
「俺らもこれ飲んだら帰るか」と敢太は呟いたが勇二は「帰る前にやりたい事が…」とある場所へと向かうのだった。




