第五話 潮風の教室
ここは《島海学園》。
海に沈みゆく世界の中で、島娘たちが集う場所。
戦うための拠点であり。
生きるための学園でもある。
翌朝。
窓の外では青い海が揺れていた。
九州は宿舎のベッドから勢いよく起き上がる。
「朝だーっ!」
島海学園の朝は早い。
潮流管理。
海域監視。
補給作業。
島娘たちの訓練。
巨大な海上拠点は二十四時間動き続けている。
九州は急いで制服を整えた。
白を基調とした島海学園制服。
軽量化された特殊素材で、水に濡れても動きやすい。
腰元には潮流制御装置も備えられていた。
「よしっ!」
扉を開ける。
すると外の廊下では既に何人もの島娘たちが移動していた。
水路廊下を滑走する音。
朝食を運ぶ整備ドローン。
窓から吹き込む潮風。
そのすべてが、九州にはまだ新鮮だった。
「おはようございます!」
元気よく挨拶すると、通り過ぎた島娘が手を振る。
「おはよー!」
「朝から元気だねぇ」
九州は嬉しそうに笑う。
その時。
「おや、もう起きてたのかい」
振り返ると、イリナがいた。
長い髪が水面へ溶けるように揺れている。
「イリナさん!」
「今日は教室を案内する予定だったろう?」
「はい!」
「朝食は食べたかい?」
「まだです!」
「じゃあまず食堂だ」
二人は水路へ足を入れる。
水が流れる。
そして身体が滑り出した。
「わっ!」
「昨日より安定してるじゃないか」
「えへへ!」
九州は少し得意げだった。
昨日よりも上手く滑れている。
水の流れを感じられるようになってきたのだ。
二人はそのまま食堂へ向かう。
朝の食堂はかなり賑やかだった。
湯気。
焼き魚の匂い。
パンを運ぶドローン。
そして大量の島娘たち。
「すご……」
「朝は特に多いからね」
九州はトレーを受け取り、料理を選ぶ。
魚定食。
海藻スープ。
エネルギーバー。
どれも高カロリーだ。
「島娘って本当にいっぱい食べるんですね」
「戦闘すると消費が激しいからねぇ」
イリナは慣れた様子で席へ座る。
九州も向かいへ座った。
窓の外には朝日。
海面がきらきら光っている。
「きれい……」
「この時間の海は静かで好きだよ」
九州は朝食を食べながら周囲を見回す。
楽しそうに話す島娘たち。
海図を確認する整備士。
遠征準備をする部隊。
ここは戦場。
なのにどこか温かかった。
朝食を終えると、二人は再び移動する。
「さて、今日は教室を案内しよう」
「お願いします!」
二階水路。
九州は昨日より自然に滑走する。
イリナが少し感心したように頷いた。
「順応が早いねぇ」
「海の感じがちょっとわかってきました!」
「それは大事だ」
二人は学園東棟へ向かう。
その途中、窓の外で訓練を行う島娘たちが見えた。
海上を高速滑走しながら障害物を回避している。
「すごい……」
「上級生たちだね」
「私もあんなふうになれるかな……」
「なれるさ」
イリナは迷いなく答えた。
「君は素質がある」
九州は少し照れたように笑う。
やがて教室区域へ到着した。
廊下には浅く水が流れている。
壁には古い掲示板。
海域マップ。
授業予定表。
そして教室の扉。
「ここだよ」
プレートには《初等戦術科A》と書かれていた。
九州が緊張したように背筋を伸ばす。
「うぅ……」
「緊張してるのかい?」
「ちょっとだけ……」
「大丈夫さ。ここの子たちは悪い子じゃない」
イリナが扉を開ける。
ガラッ。
瞬間、教室内の視線が集まった。
「おっ、新人!」
「昨日来た子?」
「ちっちゃくてかわいい〜!」
九州は一気に顔が赤くなる。
「きゅ、九州です!よろしくお願いします!」
すると奥の席から笑い声が聞こえた。
「元気系だ」
「なんか犬っぽい!」
「えぇっ!?」
教室の空気が少し和む。
イリナは軽く肩をすくめた。
「じゃ、あとはよろしく」
「えっ、イリナさん行っちゃうんですか!?」
「私は別クラス担当だからねぇ」
「うぅ……」
「そんな顔しなくてもまた会うさ」
イリナはそう言って教室を出ていった。
九州は少しだけ不安になる。
だがその時。
コンコン。
教室前方の扉が開く。
入ってきたのは長身の女性だった。
濃紺の制服。
眼鏡。
そして片手には電子端末。
「席につけ」
一瞬で教室が静かになる。
「本日より配属された新人島娘がいる」
先生は九州を見る。
「自己紹介を」
「は、はい!」
九州は立ち上がる。
緊張。
だけど逃げない。
「私、九州です!まだ全然未熟ですけど、頑張ります!よろしくお願いします!」
一瞬の静寂。
そして。
ぱちぱちぱちっ。
教室から拍手が起こった。
「よろしくー!」
「頑張れ新人!」
九州は少し驚いたあと、嬉しそうに笑う。
先生は電子端末を操作する。
すると教室中央へホログラム海図が浮かび上がった。
「では授業を始める」
海域情報。
マリンモンスターの生態図。
危険区域。
それらが次々映し出される。
「島娘にとって最も重要なのは海を知ることだ」
先生の声が響く。
「海を知らなければ死ぬ」
教室の空気が少し引き締まった。
九州も真剣な表情になる。
「本日の授業は近海危険区域について。新人もいる、基礎から確認する」
窓の外では波が揺れていた。
島海学園。
ここは学校。
そして――戦場だった。
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次回もお楽しみに




