表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
島娘!!〜波間を駆ける少女たち〜  作者: れんP


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/46

第四話 夕暮れの水上食堂



ここは《島海学園》。


世界中の海を漂う人々にとって、最後の希望とも呼ばれる海上拠点。


半分水没した巨大な廃校。


そこには海を駆け、怪物と戦う少女たち――島娘が集っていた。


夕暮れ。


オレンジ色の光が海面を照らしている。


訓練を終えた九州は、少し疲れた様子で水路廊下を滑っていた。


「はぁ〜……」


疲労感はある。


だが、それ以上に楽しかった。


海を走る感覚。


潮流を操る力。


今まで教本でしか知らなかったものを、実際に体験したのだ。


「すごかったなぁ……」


自分の手を見る。


まだ少しだけ水がまとわりついていた。


そこへ前を滑っていたイリナが振り返る。


「疲れたかい?」


「ちょっとだけです」


「初日にしては上出来さ」


「ほんとですか!?」


「褒めてる」


九州はぱっと笑顔になる。


「えへへ……」


イリナはその様子を見て少し目を細めた。


「君みたいな子が来ると、この学園も少し明るくなるねぇ」


「そうですか?」


「あぁ」


二人はゆっくりと二階区域へ上がる。


夕方になると学園の雰囲気は昼間と少し違っていた。


廊下の照明が淡く点灯し、水面へ光が反射している。


潮風が吹き抜けるたび、水面がきらきら揺れた。


遠くでは島娘たちが談笑している。


補給船が接岸する音。


調理場から漂う香り。


ここは戦闘拠点。


だが同時に、人々が生活する場所でもある。


「お腹空いた……」


九州のお腹がぐぅと鳴った。


イリナが吹き出す。


「ははっ、元気だねぇ」


「だ、だっていっぱい動きましたし!」


「じゃあ食堂へ行こうか」


「はい!」


二人は水路を滑って食堂区域へ向かう。


やがて大きな扉が見えてきた。


《水上食堂》


元々は体育館横の大食堂だった場所を改装した区域だ。


内部はかなり広い。


床には浅く水が張られており、島娘たちはそのまま滑って移動できる。


一方、人間用の歩道もきちんと作られていた。


「わぁぁ……!」


九州は目を輝かせる。


天井には古い校章。


壁には大型モニター。


海産物を運ぶドローン。


そして大量の料理。


「すごい……!」


「島娘はよく食べるからね」


イリナは慣れた様子でトレーを取る。


九州も真似した。


すると厨房の奥から元気な声が飛ぶ。


「おっ、イリナー!」


大柄な料理人の女性だった。


腕まくりしたその姿は漁師のようでもある。


「新人連れてるじゃないか!」


「今日配属された九州だよ」


「へぇ〜!」


九州は慌てて頭を下げる。


「きゅ、九州です!」


「元気いいねぇ!よし、今日はサービスしとく!」


「えっ!?」


皿へ山盛りの魚フライが追加される。


「わぁっ!?」


「食っときな!島娘は燃費悪いからね!」


「ありがとうございます!」


イリナがくすくす笑う。


「歓迎されてるねぇ」


「うれしいです!」


二人は窓際席へ向かった。


窓の外には夕焼けの海。


沈みかけた高層ビル群の影が遠くに見える。


50年前に沈んだ都市の名残だ。


九州は少し静かになる。


「……世界って、本当に変わっちゃったんですね」


イリナはスープを飲みながら頷く。


「あぁ」


「私、教科書では知ってましたけど……実際見るとすごくて……」


海に沈んだ都市。


崩れた橋。


海面から突き出る建物。


かつて人類が築いた文明。


その多くは今、海の底に眠っている。


「でも」


九州は顔を上げる。


「まだ人っていっぱいいますよね」


「いるね」


「みんな頑張って生きてる」


イリナは少し驚いたように九州を見る。


「君、前向きだねぇ」


「え?」


「普通はもっと絶望した顔をする」


九州は少し考えてから笑った。


「だって、沈んじゃったものは戻らないですし!」


「ふふっ」


「それなら、今を頑張ったほうがいいかなって!」


イリナは少しだけ目を伏せた。


波の音が聞こえる。


しばらく静かな時間が流れた。


その時だった。


『警戒海域更新』


館内放送が響く。


食堂内の空気が少し変わる。


大型モニターへ海図が映し出された。


赤い点。


九州が小さく息を呑む。


「マリンモンスター……?」


「近海で反応が出たみたいだね」


食堂の島娘たちも画面を見る。


だが慌ててはいない。


慣れているのだ。


この世界では、危険は日常だから。


「出撃するんですか?」


「今回は偵察だけだろうね」


イリナはモニターを見る。


「この辺りは比較的安全な海域だ。でも最近は少し活性化してる」


九州は画面の赤点を見つめた。


少し怖い。


だが同時に。


胸が高鳴っていた。


自分もいつか戦う。


この海を守るために。


すると突然、食堂の奥で誰かと誰かがぶつかった。


「わっ!?」


水しぶき。


トレーが揺れる。


「あ、ご、ごめんなさい!」


九州が振り返る。


そこには小柄な整備士の少女がいた。


工具箱を抱えて慌てている。


「あぁ〜!部品濡れたぁ!」


「だ、大丈夫ですか!?」


「うぅ……やっちゃった……」


イリナが苦笑する。


「またか」


「イリナさん助けてぇ〜!」


「はいはい」


食堂の空気が少し和らぐ。


笑い声。


波音。


食器の音。


夕暮れの海。


九州はその景色を見つめた。


ここは戦場だ。


危険な海のど真ん中。


それでも。


「……なんか、いい場所ですね」


イリナは窓の外を見る。


夕焼けが海を染めていた。


「あぁ」


そして静かに笑う。


「ここは、私たちの帰る場所だからね」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ