第三話 水面を駆ける訓練
「島海学園」――。
世界各地の海を漂う船乗りたちが、その名を知らぬ者はいない。
マリンモンスターと戦う島娘たちの拠点。
半水没した巨大な海上学園。
潮風と波音が常に響くその場所で、今日も少女たちは海を駆けていた。
「島海学園 一階 廊下」
一階部分はほぼ海と一体化している。
巨大な水門の向こうでは波が揺れ、外海の潮流がそのまま校舎へ流れ込んでいた。
壁には補強フレーム。
天井には防水照明。
足元には薄く水が張られている。
九州はきょろきょろと周囲を見回した。
「あの、ここは」
隣を滑るように進むイリナが振り返る。
「訓練施設だね、マリンモンスターと戦うために訓練する場所だよ、九州も、授業でいつかやるさ」
「そうなんですね」
九州の視線の先には巨大な空間が広がっていた。
そこは元々体育館だったのだろう。
だが現在は壁が取り払われ、海水が引き込まれた巨大な訓練プールのようになっている。
人工波発生装置。
浮遊ターゲット。
水流制御装置。
そして遠くには模擬マリンモンスターの残骸。
何人もの島娘が水面を高速滑走していた。
白い水しぶきが舞う。
「少し、やっていくかい?」
「いいんですか!?」
九州の目が一気に輝く。
「あぁ、別にここは授業以外使用禁止ではないからね、」
「そうなんですね、私!やってみたいです!」
その瞬間、九州の周囲で水が小さく跳ねた。
嬉しさに反応するように潮流が揺れる。
イリナは少し驚いたように目を細めた。
「感情がそのまま潮流に出るタイプか」
「え?」
「いや、悪くない」
イリナはゆっくりと訓練水域へ降りる。
水面に足が触れた瞬間、彼女の周囲に静かな波紋が広がった。
九州も続く。
ひやりとした水の感触。
だが沈まない。
島娘の身体は潮流と共鳴し、水面へ立つことができる。
「まずは基本からだ」
「はい!」
「水上機動は力任せじゃない。海の流れに身体を預ける」
イリナはゆっくり滑り始める。
静かだった。
なのに速い。
ほとんど波を立てないまま、水面を滑空していく。
「すご……!」
「やってみな」
九州は深呼吸した。
そして足元へ意識を集中させる。
水が集まる。
流れが生まれる。
次の瞬間――。
バシャァッ!!
「わぷっ!?」
ものすごい水しぶきと共に九州が吹き飛んだ。
「きゃあああっ!?」
水面を暴走し、そのまま回転。
訓練用浮き輪へ突っ込む。
ぼふんっ!!
「いたたた……」
イリナは少し黙ったあと、小さく吹き出した。
「ははっ」
「わ、笑わないでください〜!」
「いやぁ、豪快だったからつい」
九州は顔を赤くする。
だがイリナはゆっくり近づいた。
「でも悪くない」
「え?」
「出力は高い。新人であれだけ潮流を起こせる子は珍しい」
九州は目をぱちぱちさせる。
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。ただし制御が荒い」
イリナは九州の足元を見る。
「君の潮流、前へ押し出す力が強すぎる。だから暴走する」
「うぅ……」
「まずは加速じゃなく、流れを作ることを意識するんだ」
九州は頷いた。
再び構える。
海を感じる。
波の音。
水の揺れ。
学園へ流れ込む潮流。
すると今度は穏やかに水が動き始めた。
「そのまま」
九州がそっと踏み出す。
水面が滑る。
先ほどよりずっと自然だった。
「でき……!」
そのまま前進。
加速。
水しぶき。
九州の身体が海上を駆け抜けた。
「わぁぁっ!!」
嬉しそうな声が響く。
イリナは静かに笑った。
「筋はかなりいいね」
九州は訓練場を一周して戻ってくる。
「すごいですこれ!!走ってるのに泳いでるみたい!」
「島娘は海と一体になる存在だからね」
「海と一体……」
九州は自分の手を見る。
水滴がきらきらと光っていた。
その時。
訓練場の奥で警報音が鳴る。
『模擬戦闘訓練開始』
すると水中から機械製ターゲットが浮上した。
魚型ドローン。
赤い目が光る。
九州が驚く。
「えっ!?」
「安心しな。訓練用さ」
イリナは片手を上げる。
すると彼女の周囲の水がゆっくり渦を巻いた。
次の瞬間。
水流が刃のように放たれる。
ズバァン!!
魚型ドローンが真っ二つになった。
「すごっ……!」
「島娘は潮流を武器にもできる」
イリナは九州を見る。
「君にもいずれ、自分だけの戦い方ができるよ」
九州はその言葉に胸を高鳴らせた。
マリンモンスターと戦う力。
海を駆ける力。
自分にも、そんな未来がある。
そう思うだけで嬉しかった。
訓練施設 外の窓側。
直島は静かに立っていた。
窓越しに訓練場を見る。
白髪の少女。
背には巨大な大剣。
その視線は真っ直ぐ九州へ向けられていた。
「......あの子が...........」
その時ドアが開き出てきた。
「興味があるのかな?直島」
イリナだった。
直島は少しだけ視線を逸らす。
「......別に、」
短く答える。
そのまま歩き去ろうとする直島へ、イリナが声をかけた。
「そうだ、こんどの新配属された島娘のために実戦訓練があるだろう?そこに出るといい、」
直島の足が少し止まる。
「............別に......」
「まったく、君は素直じゃないね」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




