第三十六話 黒き津波
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために戦う海上拠点だ。
島海学園防衛戦。
開戦から間もなくして戦場は混沌へ変わっていた。
超大型マリンモンスターが放った漆黒の光線。
それは海を裂き、空を震わせ、島娘たちに圧倒的な恐怖を刻み込んだ。
爆風が収まる。
しかし誰も安堵できなかった。
九州は海面へ片膝をついていた。
耳鳴りがする。
視界も少し揺れている。
「うっ……」
顔を上げる。
戦場が見えた。
そこには地獄が広がっていた。
海面は激しく荒れ狂い、至る所で戦闘が起きている。
島娘たちが武器を振るう。
マリンモンスターが襲い掛かる。
爆発。
悲鳴。
怒号。
今まで経験したことのない戦場だった。
「九州!」
西表島の声。
振り向く。
西表島は無事だった。
佐渡島もいる。
二人とも傷はあるが戦える状態だ。
九州は胸を撫で下ろした。
「よかった……」
しかしその時だった。
『全員警戒!』
通信機から叫び声が響く。
『敵増援確認!』
九州は反射的に海を見る。
そして息を呑んだ。
海が黒かった。
いや。
違う。
黒く見えるほど大量のマリンモンスターだった。
超大型の背後。
そのさらに後方。
新たな群れ。
小型。
中型。
大型。
無数。
まるで終わりがない。
「そんな……」
佐渡島の顔が青ざめる。
西表島も笑顔を失っていた。
司令室でも混乱が起きていた。
『観測不能!』
『数が多すぎます!』
『敵群が二重構造になっています!』
予想を超えていた。
最初の群れを本隊だと思っていた。
しかし違った。
あれは先行部隊だったのだ。
そして今現れた群れこそ本命。
本当の大軍勢だった。
ドォォォン!!
再び砲台が火を吹く。
海上砲台群。
島海学園の切り札の一つ。
砲撃が敵群へ着弾する。
爆発。
水柱。
大量の敵が吹き飛ぶ。
しかし。
その隙間を埋めるように次の群れが押し寄せる。
まるで黒い津波だった。
「前衛押されてるぞ!」
誰かが叫ぶ。
九州も前方を見る。
沖縄本島。
対馬。
種子島。
屋久島。
最前線の島娘たちが懸命に戦っている。
だが敵が多すぎる。
少しずつ後退していた。
そして。
その中心。
直島がいた。
巨大な大剣が振り下ろされる。
ズバァァァッ!!
大型マリンモンスターが三体まとめて両断された。
さらに踏み込む。
斬る。
吹き飛ばす。
圧倒的。
まさに一騎当千だった。
だが。
そんな直島でさえ。
無限に湧き出る敵を止め切れない。
「くっ……」
九州は拳を握る。
もっと強ければ。
もっと力があれば。
そんな思いが胸を締め付ける。
その時。
海面から巨大な影が飛び出した。
大型マリンモンスター。
九州たちの防衛ラインへ一直線に突っ込んでくる。
「来る!」
九州が叫ぶ。
三人が構える。
大型は今までの敵とは違う。
新人だけでは危険な相手だった。
しかし。
逃げられない。
後ろには学園がある。
「止める!」
九州が飛び出す。
正面から迎撃。
だが。
敵の爪が迫る。
速い。
避け切れない。
その瞬間。
ドゴォォン!!
巨大な衝撃。
大型マリンモンスターが吹き飛んだ。
「え?」
九州が目を見開く。
そこに立っていたのは。
「大丈夫か?」
淡路島だった。
長い槍を構えている。
さらに。
「加勢する」
奄美大島。
「新人だけに任せられないな」
屋久島。
先輩たちだった。
九州の顔が明るくなる。
「ありがとうございます!」
「礼は後だ」
淡路島が笑う。
「今は生き残れ!」
そして再び戦闘が始まる。
島娘たちは互いに支え合いながら戦った。
前衛。
中衛。
後衛。
誰一人欠けても成立しない。
それが集団戦だった。
戦闘開始から数時間。
空はまだ暗い。
だが誰も時間を気にしている余裕はなかった。
敵は減らない。
疲労は蓄積する。
それでも戦い続ける。
そんな時だった。
司令室から新たな報告が届く。
『超大型に異常反応!』
全員が顔を上げる。
超大型マリンモンスター。
その身体を覆う黒い結晶。
そこから赤い光が漏れ始めていた。
不気味だった。
嫌な予感しかしない。
沖縄本島も気付く。
対馬も。
種子島も。
そして直島も。
超大型はゆっくりと頭を持ち上げた。
赤い瞳が輝く。
そして。
キシャァァァァァァァァァッ!!
咆哮。
その瞬間。
海全体が震えた。
次の瞬間だった。
ドボン。
ドボン。
ドボン。
海面の至る所で異変が起きる。
沈んでいたマリンモンスターの死骸。
倒されたはずの敵。
その身体が黒い結晶へ包まれていく。
九州の顔から血の気が引いた。
「まさか……」
そして。
あり得ない光景が起きる。
倒されたはずのマリンモンスターたちが再び動き始めたのだ。
『なっ!?』
『復活した!?』
『そんな馬鹿な!!』
戦場全体が混乱する。
絶望が広がる。
せっかく倒した敵が立ち上がる。
何度でも。
何度でも。
超大型は咆哮を続ける。
まるで死者を呼び戻す王のように。
そして司令室で観測員が震える声を上げた。
『判明しました!』
誰もが振り向く。
『あの超大型……群れの指揮個体です!』
空気が凍り付く。
『あれを倒さない限り敵は止まりません!!』
島海学園防衛戦。
その本当の戦いが。
今まさに始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




