第三十四話 決戦前夜
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために戦う海上拠点だ。
敵群到達まで残り十八時間。
島海学園はかつてない緊張感に包まれていた。
夜明け前。
まだ空が薄暗い時間から学園は動き始めていた。
整備班が武器を運ぶ。
補給班が物資を確認する。
人間たちも慌ただしく走り回っている。
海上に設置された警戒灯が絶えず海を照らしていた。
九州も朝早くから訓練施設へ来ていた。
武器の点検である。
島娘たちはそれぞれ島核から武器や能力を発現できる。
しかし戦闘前の確認は欠かせない。
「よし……」
深呼吸する。
手は少し震えていた。
怖くないわけがない。
相手は過去最大規模。
しかも超大型までいる。
その時だった。
「早いね」
声が聞こえる。
振り返る。
対馬だった。
大槍を背負っている。
いつもより真剣な表情だった。
「対馬さん」
「眠れたか?」
「少しだけ」
正直な答えだった。
対馬は苦笑する。
「私もだ」
少し安心する。
強い先輩でも同じなのだ。
その後。
二人は並んで海を見る。
穏やかな海。
しかしその向こうには敵がいる。
「九州」
対馬が口を開く。
「怖いのは当たり前だ」
九州は黙って聞く。
「でも逃げなければいい」
その言葉は重かった。
戦ってきた者の言葉だった。
「はい」
九州は力強く頷いた。
午前。
第一講堂。
島娘たち全員が集められていた。
大規模作戦会議である。
司令官が前へ立つ。
スクリーンには島海学園周辺海域の地図。
そして赤い光点。
敵群だった。
「敵群到達予測まで十二時間」
講堂が静まり返る。
「各班へ配置を伝える」
防衛班。
迎撃班。
救護班。
後方支援班。
次々と役割が発表される。
九州たち新人組は後方寄りの防衛配置だった。
前線ではない。
しかし戦闘区域であることに変わりはない。
西表島も同じ班だった。
佐渡島もいる。
少し安心した。
会議終了後。
みんなが散っていく。
誰もが真剣だった。
ふざける者はいない。
その時だけは。
昼。
食堂。
いつもなら賑やかな場所。
しかし今日は少し静かだった。
戦闘前だからだろう。
そんな中。
西表島だけは普段通りだった。
「おかわり!」
「まだ食べるの!?」
九州が驚く。
「戦う前にいっぱい食べないと!」
妙に説得力があった。
佐渡島も少し笑う。
張り詰めた空気が少し和らぐ。
すると。
食堂へ沖縄本島が入ってきた。
続いて屋久島。
奄美大島。
種子島。
前線組の先輩たちだった。
空気が少し変わる。
九州は思わず見つめる。
その時。
沖縄本島がこちらへ来た。
「九州」
「はい!」
反射的に背筋が伸びる。
「緊張してるな」
見抜かれていた。
「少しだけ」
「嘘だな」
笑われた。
九州も少し笑う。
沖縄本島は真面目な顔になる。
「私たちが前に出る」
静かな声。
「だから君たちは学園を守れ」
九州は目を見開く。
「守る……」
「そうだ」
沖縄本島は頷く。
「誰かが前で戦うなら、誰かが後ろを守らなきゃならない」
その言葉は九州の胸へ深く刻まれた。
午後。
訓練施設。
最後の調整が行われる。
対馬が槍を振るう。
種子島が能力を確認する。
奄美大島が海面を滑走する。
そして。
少し離れた場所。
直島がいた。
巨大な大剣を背負っている。
一人で海を見ていた。
九州は少し迷った。
だが近付く。
「直島先輩」
直島が振り返る。
「九州」
相変わらず短い返事だった。
少し沈黙。
海風が吹く。
そして九州は思い切って聞いた。
「怖くないんですか?」
直島はしばらく考えた。
そして答える。
「怖い」
九州は驚いた。
最強の島娘。
みんなの憧れ。
その直島が。
「でも」
直島は海を見る。
「守りたいから戦う」
ただそれだけだった。
特別な言葉ではない。
けれど。
九州の心を強く揺らした。
夕方。
太陽が沈み始める。
赤く染まる海。
警戒灯が点灯する。
司令室では最終確認が続いていた。
観測班から新たな報告が届く。
《敵群まで残り六時間》
緊張が高まる。
そして夜。
島娘たちはそれぞれの持ち場へ向かう。
武器を持つ。
仲間と並ぶ。
覚悟を決める。
九州も寮へ戻った。
眠るためではない。
戦闘服へ着替えるためだ。
窓の外を見る。
真っ暗な海。
何も見えない。
しかし確実に近付いている。
超大型マリンモンスター。
そして大群。
九州は拳を握る。
怖い。
それでも。
逃げない。
守りたいものがあるから。
その時だった。
島海学園全域へ警報が鳴り響く。
ビーッ!!
ビーッ!!
ビーッ!!
赤い警告灯が回転する。
校内放送が流れた。
『全島娘へ』
司令官の声。
今までで最も険しい声だった。
『敵群を視認』
九州の心臓が跳ねる。
『総員、戦闘配置につけ』
ついに来た。
決戦が。
学園の外。
夜の海の彼方。
無数の赤い光が闇の中で輝き始めていた。
それはマリンモンスターたちの瞳。
海を埋め尽くす怪物の軍勢。
そしてその中心には。
黒い結晶を纏う超大型マリンモンスターがゆっくりと姿を現していた。
島海学園防衛戦。
その幕が今、上がろうとしていた。
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次回もお楽しみに




