第三十三話 総員戦闘配置
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために戦う海上拠点だ。
突如として現れた超大型マリンモンスター。
そして過去最大規模の群れ。
水上レース会場は騒然となっていた。
『全選手直ちに帰還してください!』
警報が鳴り響く。
観客席でも避難誘導が始まっていた。
九州はただ呆然と海を見つめる。
遠い水平線。
そこに広がる黒い影。
一体や二体ではない。
海そのものが黒く染まったような大群だった。
「こんなの……」
言葉が出ない。
以前の遠征訓練で遭遇した超大型だけでも恐ろしかった。
だが今回は違う。
数が多すぎる。
その時。
バシャッ!
誰かが海面へ飛び出した。
沖縄本島だった。
「全員島海学園へ戻る!」
鋭い声が響く。
対馬も続く。
「急げ!」
種子島も頷いた。
決勝戦は中止。
もはや競技どころではない。
島娘たちは一斉に海面を滑り始めた。
九州も慌てて後を追う。
風を切る。
海を駆ける。
だが胸の鼓動は激しいままだった。
途中。
西表島や佐渡島たちと合流する。
「九州!」
「佐渡島ちゃん!」
「大丈夫!?」
「う、うん!」
しかし誰の顔にも不安が浮かんでいた。
島海学園が見えてくる。
いつもと違う。
学園全体に赤い警告灯が点滅していた。
サイレンが鳴り響く。
職員。
整備班。
人間たち。
全員が慌ただしく動いていた。
まるで戦争前夜だった。
正門前。
島娘たちが続々と集まってくる。
屋久島。
奄美大島。
淡路島。
種子島。
対馬。
沖縄本島。
そして直島。
遠征中だった島娘たちまで戻ってきていた。
「すごい人数……」
九州は思わず呟く。
今まで見たことがない光景だった。
やがて。
校内放送が流れる。
『全島娘は第一講堂へ集合』
司令官の声だった。
みんな急いで移動する。
講堂。
そこには数百人近い島娘たちが集まっていた。
日本各地の島々の魂を宿す少女たち。
大きなスクリーンが設置されている。
司令官が壇上へ上がった。
講堂は静まり返る。
「諸君」
重い声だった。
「状況を説明する」
スクリーンが点灯する。
映し出された海図。
そして大量の赤い点。
ざわめきが起こる。
多すぎた。
海図が赤で埋まっている。
「大型マリンモンスター百七十八体」
息を呑む音が聞こえる。
「中型及び小型は推定三千以上」
誰も声を出せなかった。
数字が異常だった。
そして。
画面が切り替わる。
映ったのは超大型。
黒い結晶。
巨大な身体。
赤黒い目。
以前より遥かに巨大化していた。
「超大型マリンモンスター一体」
司令官が続ける。
「進路予測地点は」
一拍。
「島海学園」
講堂が静まり返る。
九州の手が震える。
守るべき場所。
みんなと過ごした場所。
食堂。
教室。
寮。
訓練施設。
全部がここにある。
それを狙っている。
その事実が重かった。
だが。
司令官は表情を変えなかった。
「しかし」
その声に全員が顔を上げる。
「我々も以前とは違う」
スクリーンが変わる。
今度は島娘たちの名簿。
遠征班。
防衛班。
救護班。
支援班。
多くの部隊が表示される。
「総戦力を投入する」
ざわめきが広がる。
「島海学園防衛戦を開始する」
その言葉に空気が変わった。
恐怖だけではない。
覚悟だった。
沖縄本島が静かに拳を握る。
対馬も前を見つめる。
種子島も目を細めた。
そして。
直島。
無言のまま立ち上がる。
「私が前衛へ出る」
講堂の空気が揺れる。
誰も反対しない。
最強の島娘。
それが直島だった。
司令官も頷く。
「頼む」
直島は静かに席へ戻った。
その背中を九州は見つめる。
憧れの先輩。
ずっと追いかけてきた存在。
だが。
その時。
九州の胸にある感情が生まれた。
守られるだけじゃ駄目だ。
私も戦いたい。
私も守りたい。
会議終了後。
島娘たちはそれぞれ持ち場へ向かう。
武器整備。
補給確認。
防衛設備点検。
学園中が慌ただしい。
九州たち新人組も準備を始めた。
西表島は珍しく真剣な顔だった。
「怖いね」
小さな声。
九州は頷く。
「うん」
佐渡島も不安そうだった。
「でも……」
九州は二人を見る。
「守ろう」
西表島が顔を上げる。
佐渡島も見る。
「この学園を」
短い言葉だった。
だが。
二人は頷いた。
「うん!」
「……うん」
夕方。
海は赤く染まっていた。
その美しさとは対照的に。
観測班から新たな報告が届く。
《敵群まで残り十八時間》
司令室の空気が張り詰める。
ついに来る。
避けられない戦いが。
その夜。
九州は寮の窓から海を見ていた。
遠くの闇の向こう。
そこに敵がいる。
恐ろしい存在。
だが逃げるつもりはなかった。
ここには仲間がいる。
友達がいる。
守りたい場所がある。
九州は静かに拳を握る。
そして同じ頃。
遥か沖合。
超大型マリンモンスターがゆっくりと海面へ姿を現していた。
その背後には。
無数のマリンモンスターの群れ。
黒い軍勢。
海を埋め尽くす怪物たち。
そして怪物の赤い瞳は真っ直ぐ島海学園を見据えていた。
決戦の時は。
もうすぐそこまで迫っていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




