第二十七話 先輩たちの遠征報告会
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために戦う海上拠点。
料理大会から数日後。
朝のホームルームが終わろうとしていた時だった。
先生が教壇を軽く叩く。
「今日の午後は合同授業だ」
教室が少しざわつく。
合同授業。
複数の学年や班が集まって行われる特別授業だ。
「内容は遠征報告会」
その言葉に九州は少し身を乗り出した。
遠征。
先輩たちが実際に海へ出て行う任務である。
九州たち新人にとっては憧れの仕事だった。
「普段聞けない話も聞けるぞ」
先生がそう言うと、西表島が嬉しそうに手を上げた。
「質問してもいいのー?」
「内容次第だ」
「やったー!」
午後。
島海学園講堂。
大きなスクリーンが設置され、多くの島娘たちが集まっていた。
九州たちも前の方へ座る。
やがて壇上へ何人かの島娘が上がった。
対馬。
沖縄本島。
屋久島。
種子島。
そして直島。
いずれも遠征経験豊富な先輩たちである。
「おぉ……」
九州は少し感動した。
豪華な顔ぶれだった。
司会役は先生である。
「まずは対馬」
対馬が前へ出る。
スクリーンに海域地図が映し出された。
「今回の任務は補給船団の護衛だった」
真面目な表情で説明が始まる。
九州たちは真剣に聞いていた。
補給船団は人類にとって生命線。
食料。
燃料。
医薬品。
様々な物資を運んでいる。
「途中で中型マリンモンスターが出現したが撃退」
スクリーンには戦闘記録映像も映し出された。
海上を滑る対馬。
巨大な槍。
豪快な一撃。
マリンモンスターが吹き飛ぶ。
「すごい……」
九州が思わず呟く。
西表島も目を輝かせていた。
次は屋久島。
屋久島の任務は調査遠征だった。
「未確認海域の生態調査」
映像には巨大な海藻林や珍しい魚たちが映る。
まるで海の森だった。
「綺麗……」
佐渡島が小さく呟く。
九州も同じ気持ちだった。
沈んだ世界にも、まだ知らない景色がたくさんあるのだ。
続いて種子島。
「漂流都市の探索任務」
スクリーンには半分沈んだ巨大都市が映った。
高層ビル。
崩れた橋。
水没した道路。
昔の世界の残骸だった。
講堂が静まり返る。
誰もが見入っていた。
そして。
最後に直島の番となった。
講堂の空気が少し変わる。
人気者なのだ。
直島は静かに前へ出る。
スクリーンに映ったのは広大な海だった。
「護衛任務」
説明は短い。
相変わらずである。
しかし。
映像が流れた瞬間。
講堂中がざわついた。
巨大なマリンモンスター。
大型個体だった。
普通の島娘なら苦戦する相手。
だが。
映像の直島は違った。
海上を駆ける。
速い。
あまりにも速い。
白い軌跡が海面へ刻まれる。
そして。
一閃。
巨大な剣が振るわれる。
次の瞬間。
大型マリンモンスターが真っ二つになっていた。
講堂が静まり返る。
「……」
「……」
「……」
その後。
大歓声。
九州も思わず立ち上がりそうになる。
「すごい……!」
憧れだった。
強くて。
優しくて。
誰よりも前へ進む先輩。
九州の胸は高鳴っていた。
報告会が終わると質問時間になった。
西表島が真っ先に手を上げる。
「はい!」
先生が指名する。
「どうやったらそんなに強くなれるの!?」
直球だった。
会場から笑いが起きる。
対馬が腕を組む。
「鍛える」
沖縄本島が笑う。
「鍛える」
屋久島も頷く。
「鍛える」
種子島も答える。
「鍛える」
全員同じだった。
「えぇぇぇ!?」
西表島が叫ぶ。
さらに笑いが起きる。
その後も質問は続いた。
遠征で大変なこと。
海で見た不思議な景色。
戦闘で大切なこと。
九州は夢中で聞いていた。
やがて終了時間。
みんなが席を立ち始める。
その時。
九州は偶然直島の隣になった。
少し緊張する。
「直島先輩」
「ん?」
「私もいつか遠征に出たいです」
直島は少しだけ考えた。
そして。
「出られる」
短い返事。
だが。
九州は嬉しかった。
「本当ですか!?」
直島は頷く。
「九州は前より強くなった」
その言葉だけで十分だった。
胸が温かくなる。
もっと頑張ろう。
もっと成長しよう。
九州はそう思った。
夕方。
講堂から出ると海が夕焼け色に染まっていた。
今日も平和な一日だった。
笑って。
学んで。
憧れを胸に抱く日常。
だがその頃。
司令室では緊急観測情報が更新されていた。
《大型個体群、進路変更》
《目標推定地点》
《島海学園海域》
静かに赤い警告灯が点滅する。
そして司令官は険しい表情で海図を見つめていた。
穏やかな日々の終わりが、少しずつ近付いていた。
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