第二十五話 水上大掃除作戦
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために戦う海上拠点。
文化祭も終わり、学園には再び穏やかな日常が戻っていた。
朝。
九州が教室へ入ると、みんながざわざわしていた。
「どうしたの?」
席へ座りながら聞く。
すると西表島が振り返った。
「大変だよ!」
「えっ!?」
九州は思わず身構える。
またマリンモンスターだろうか。
しかし。
「今日、大掃除だって!」
「それだけ!?」
教室中から笑い声が上がった。
西表島は真面目な顔だった。
「大変なんだよ!」
「そんなに?」
「だって掃除だよ!」
まったく理由になっていなかった。
そこへ先生が入ってくる。
「静かにしろ」
みんな席へ着く。
先生は黒板へ大きく文字を書いた。
《学園周辺海域清掃》
「今日は授業を変更する」
ざわつく教室。
「文化祭で人の出入りが増えた影響もある」
「周辺海域の漂流物回収を行う」
なるほど。
海上都市が近いとはいえ、流れ着くゴミや漂着物は多い。
定期的な清掃は必要だった。
「班行動だ」
先生が説明を続ける。
九州、西表島、佐渡島、淡路島。
四人は同じ班になった。
「やったー!」
西表島は楽しそうだった。
数十分後。
島海学園外周海域。
四人は回収用のネットを持って海面を滑っていた。
今日は訓練ではない。
完全な奉仕活動である。
「思ったより多いね」
九州が呟く。
木箱。
ロープ。
壊れた浮き。
流木。
色々な物が流れている。
「こっちにもあるよー!」
淡路島が遠くから叫ぶ。
相変わらず元気だった。
四人で協力しながら回収していく。
すると。
「あっ!」
西表島が何かを見つけた。
海面を漂う木箱だった。
「宝箱かも!」
「違うと思う」
九州が言う。
だが西表島は構わず回収した。
そして開ける。
中には。
大量の古い長靴。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「宝箱じゃなかった」
当たり前だった。
佐渡島が小さく笑う。
その後も作業は続く。
昼近くになると回収した物はかなりの量になっていた。
その時だった。
遠くから誰かが近付いてくる。
水飛沫を上げながら滑走している。
「おーい!」
聞き慣れない声。
やって来たのは褐色肌の少女だった。
長い黒髪を後ろで束ねている。
腰には短槍。
「誰?」
九州が首を傾げる。
少女は笑った。
「私は沖縄本島!」
九州たちは驚く。
かなり有名な先輩島娘だった。
遠征任務の常連で、学園にいることが少ない。
「沖縄本島さん!?」
「久しぶりに帰ってきたんだ」
沖縄本島は豪快に笑った。
どこか頼もしい雰囲気がある。
「掃除か?」
「はい!」
「偉い偉い」
そう言いながら周囲を見渡す。
そして。
「なら競争しよう」
嫌な予感がした。
「競争?」
西表島が反応する。
「どっちが多く回収できるかだ!」
「やるー!」
即答だった。
こうして謎の回収競争が始まった。
結果。
みんな本気になった。
「見つけた!」
「こっちにもある!」
「回収ー!」
いつの間にか大騒ぎである。
九州も必死だった。
だが。
沖縄本島が強い。
速い。
広範囲を移動してどんどん回収していく。
「すごい……」
九州が感心する。
やはり経験豊富な先輩だった。
二時間後。
結果発表。
優勝。
沖縄本島。
圧勝だった。
「ははは!」
「負けたー!」
西表島が悔しそうにする。
しかし楽しそうだった。
昼食後。
今度は回収物の仕分け作業。
使える物。
捨てる物。
危険物。
それぞれ分けていく。
すると。
九州が奇妙な物を見つけた。
小さなガラス瓶。
中には紙が入っている。
「何だろう?」
開けてみる。
中には古い手紙が入っていた。
字は少し薄れている。
『いつか誰かが見つけてくれますように』
短い文章だった。
だが。
どこか温かい。
「昔の人かな……」
九州が呟く。
海に沈んだ世界。
失われた町。
失われた暮らし。
だけど。
そこには確かに人々の想いがあった。
沖縄本島も静かに手紙を見る。
「大事に保管しよう」
その言葉にみんな頷いた。
夕方。
作業は終了した。
学園周辺は見違えるほど綺麗になっている。
達成感があった。
「疲れたー!」
西表島がその場に寝転がる。
「頑張ったもんね」
九州も笑う。
佐渡島も少し満足そうだった。
「綺麗になった……」
夕焼けが海を赤く染める。
穏やかな波。
静かな風。
平和な一日だった。
沖縄本島は帰り際、九州へ声をかけた。
「九州」
「はい!」
「最近頑張ってるって聞いてる」
九州は少し驚く。
「ありがとうございます!」
沖縄本島は笑った。
「焦るなよ」
「先輩たちも最初はみんな新人だった」
その言葉は九州の胸に残った。
やがて沖縄本島は遠征班の元へ戻っていく。
その背中を見送りながら九州は思う。
もっと強くなりたい。
もっとみんなの役に立ちたい。
そんな願いを抱きながら。
そしてその夜。
島海学園から遠く離れた海域。
黒い結晶を纏った超大型マリンモンスターの周囲には、さらに多くの群れが集まっていた。
まるで嵐の目のように。
巨大な怪物はゆっくりと海面を見上げる。
その赤黒い瞳が向いている先は――。
島海学園のある方角だった。
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