第二十一話 文化祭準備と漂着物展示室
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために戦う海上拠点。
文化祭――《島海交流祭》まで残り数日。
学園中がいつもより賑やかになっていた。
朝。
教室では机が端へ寄せられ、みんなが準備に追われている。
九州も両腕いっぱいに箱を抱えていた。
「よいしょっと……」
机の上へ箱を置く。
中には昨日倉庫で見つけた貝殻や古い海図が入っていた。
西表島は脚立の上で作業中だった。
「見て見てー!」
「危ないよ!?」
九州が慌てる。
西表島は天井から魚の模型を吊るしていた。
しかし次の瞬間。
ぐらっ。
「あ」
脚立が傾く。
「きゃー!?」
落ちる。
と思った瞬間。
後ろから伸びた手が西表島の服を掴んだ。
「危ない」
直島だった。
「あはは……」
「笑い事じゃない」
直島は静かに言う。
西表島は素直に頭を下げた。
「ごめんなさーい」
九州は少し安心する。
最近はこういうやり取りも増えてきた。
最初は近寄り難かった直島も、少しずつみんなと関わるようになっている。
その頃。
佐渡島は展示用の説明文を書いていた。
「うーん……」
難しい顔をしている。
九州が覗き込む。
『島海学園周辺で採取された貝殻』
そこまでは書いてある。
だが続きが進まない。
「どうしたの?」
「文章苦手……」
佐渡島がしょんぼりする。
すると後ろから声。
「貸して」
振り返る。
屋久島だった。
黒髪の先輩島娘である。
屋久島は紙を受け取る。
さらさらと書き始めた。
数分後。
「できた」
見てみる。
とても読みやすい。
しかも内容もわかりやすかった。
「すごい……!」
九州が感心する。
屋久島は少し照れたように視線を逸らした。
「昔、案内係やってたから」
なるほど。
経験者だったらしい。
文化祭準備は順調に進んでいく。
昼休み。
九州たちは食堂へ向かった。
今日のメニューは魚のフライ定食だった。
「いただきます!」
みんなで食べ始める。
西表島は相変わらず食べるのが早い。
「おいしー!」
「まだ半分しか食べてないのに……」
九州が驚く。
するとその時。
食堂入口が騒がしくなった。
「来た来た!」
「遠征班だ!」
何人かの島娘が入ってくる。
どうやら遠征任務から戻ってきたらしい。
その中に見知らぬ少女がいた。
長い髪を後ろで束ねた活発そうな少女。
腰には巨大な槍を下げている。
「おっ」
少女が九州たちへ気付く。
「新人ちゃんだ!」
「え?」
少女はそのまま近付いてきた。
「私は対馬!」
九州は目を丸くする。
また新しい島娘だった。
「九州です!」
「知ってる知ってる!」
対馬は豪快に笑う。
「最近話題だからね!」
「話題?」
「直島が気にかけてる新人」
ブッ。
九州が危うくお茶を吹きそうになる。
「ち、違います!」
慌てる。
西表島がにやにやする。
佐渡島も少し笑っていた。
「へぇー」
対馬は面白そうに笑う。
九州の顔は真っ赤だった。
午後。
展示物集めが続く。
九州たちは旧倉庫の整理を任されていた。
そこにはまだ使えそうな物がたくさん眠っている。
「おぉー!」
西表島が箱を発見する。
開ける。
中には様々な漂着物が入っていた。
古い方位磁石。
船のベル。
沈没前の時代の缶。
色褪せた写真。
「すごい……」
九州が見入る。
どれも長い時間を海で過ごした物ばかりだった。
その中に一枚の写真があった。
海辺で笑う家族。
今では沈んでしまったであろう町の景色。
九州は静かに見つめる。
この世界には失われたものがたくさんある。
だけど。
それでも人々は生きている。
前へ進んでいる。
島娘たちもそのためにいる。
「展示しようか」
九州が言う。
「うん」
佐渡島が頷く。
「きっと見てくれる人もいる……」
みんなで大切に箱へ戻す。
その時。
コンコン。
倉庫の扉が叩かれた。
「ん?」
開けると淡路島が立っていた。
「見つけた!」
「どうしたの?」
「文化祭の飾り持ってきた!」
後ろには大量の旗。
大量の装飾。
大量の紙花。
「多い!?」
九州が驚く。
「任せて!」
淡路島は笑う。
「文化祭は派手じゃないと!」
その後。
教室はさらに賑やかになった。
飾り付け。
展示準備。
説明文作り。
気付けば夕方になっていた。
窓の外では夕焼けが海を赤く染めている。
九州は完成しつつある展示室を見渡した。
貝殻。
海図。
漂着物。
海洋生物の模型。
思っていた以上に立派だった。
「すごいね……」
ぽつりと呟く。
すると隣に立っていた直島が小さく頷いた。
「みんな頑張ったから」
九州は笑顔になる。
文化祭が楽しみだった。
みんなで作り上げた展示。
きっと成功する。
そう思えた。
だがその夜。
司令室では再び警報が鳴っていた。
北方海域。
東方海域。
南方海域。
複数地点でマリンモンスターの活動が活発化。
そして。
あの日逃げた超大型マリンモンスターの反応も再び観測されていた。
静かだった海が、少しずつ不穏な気配を見せ始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




