第十九話 新しい友達と水上競走
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために戦う海上拠点。
今日も学園には穏やかな時間が流れていた。
朝。
九州はいつものように教室へ向かっていた。
水の張られた廊下を滑りながら進む。
窓の外には青い海。
潮風も心地良い。
「今日はいい天気だなぁ」
そう呟いた時だった。
前方から誰かがものすごい勢いで滑ってきた。
バシャァァァッ!!
「わっ!?」
九州が慌てて避ける。
ギリギリですれ違ったその少女は、器用に急停止した。
「おっと!」
金色の短髪。
元気いっぱいの笑顔。
そして背中には大きなリボン。
「ごめんごめん!」
少女は明るく笑った。
「大丈夫?」
「う、うん!」
九州はほっと胸を撫で下ろす。
少女は興味津々という顔で近付いてきた。
「見ない顔だね!」
「あ、私九州です!」
「やっぱり!」
少女はにかっと笑う。
「私は淡路島!」
「淡路島さん!」
「淡路でいいよ!」
元気な子だった。
まるで西表島を別方向に騒がしくしたような感じだ。
その時。
「九州ちゃーん!」
聞き慣れた声。
西表島だった。
佐渡島も一緒である。
「あっ、新しい子!」
西表島が淡路島を見る。
「違う違う!」
淡路島が笑う。
「私ずっといるよ!」
「そうなの!?」
「遠征ばっかりだったからね!」
なるほど、と九州は納得した。
島海学園にはまだまだ知らない島娘がたくさんいるのだ。
昼休み。
四人は食堂で昼食を食べていた。
話題は自然と訓練の話になる。
「そういえば九州ちゃん結構速くなったよね!」
西表島が言う。
「そうかな?」
「うんうん!」
佐渡島も頷く。
「最初より全然速い……」
九州は少し嬉しくなった。
すると淡路島が目を輝かせる。
「速い?」
何か嫌な予感がする。
「それなら競走しよう!」
やっぱりだった。
「えっ」
「面白そう!」
西表島が即賛成する。
九州は少し困る。
だが。
「別に勝負じゃなくて練習だよ!」
淡路島が笑う。
「ね?」
そこまで言われると断りづらい。
こうして放課後。
島海学園外周海域。
即席水上競走が始まった。
先生はいない。
完全に遊びである。
「一周したら戻ってくるだけ!」
淡路島がコースを説明する。
「よーし!」
西表島が準備運動を始めた。
佐渡島は少し不安そう。
九州も緊張する。
その時。
背後から声がした。
「何してるの」
振り返る。
直島だった。
「競走です!」
西表島が答える。
直島は少し沈黙した。
そして。
「……見てる」
近くの防波堤へ座った。
どうやら観戦するらしい。
「よーし!」
淡路島が手を上げる。
「位置についてー!」
四人が並ぶ。
海面へ足を置く。
潮流を整える。
そして。
「スタート!」
バシャァァァッ!!
一斉に飛び出した。
白い水飛沫が上がる。
先頭はやはり淡路島だった。
速い。
驚くほど速い。
「すごっ!?」
九州が目を見開く。
「負けないよー!」
西表島も追いかける。
だが淡路島はさらに加速する。
「わははー!」
楽しそうだった。
九州も必死に追う。
最近の訓練のおかげで前よりずっと走れる。
海流が見える。
波が読める。
身体が自然に動く。
「もっと……!」
加速。
すると。
少しずつ西表島との距離が縮まった。
「おっ?」
西表島も気付く。
「九州ちゃん速い!」
「えへへ!」
九州も笑う。
競走は楽しかった。
戦闘とは違う。
純粋に海を走る楽しさがあった。
そして折り返し地点。
順位は。
一位淡路島。
二位西表島。
三位九州。
四位佐渡島。
だった。
だが帰り道。
状況が変わる。
淡路島が笑いながら飛ばしすぎたのだ。
「よーし!」
ズルッ。
「あ」
盛大に転倒した。
バシャァァァァン!!
大きな水柱。
「淡路ちゃん!?」
九州たちが慌てる。
数秒後。
海面から顔を出した。
「えへへ」
「笑い事じゃないよ!」
西表島が大笑いする。
その隙に。
九州が追い抜いた。
「えっ」
「わっ」
気付けば二位になっている。
そのままゴール。
結果。
一位西表島。
二位九州。
三位淡路島。
四位佐渡島。
となった。
「負けたー!」
淡路島が叫ぶ。
だが悔しそうというより楽しそうだった。
みんな笑っている。
その時。
防波堤に座っていた直島が立ち上がった。
九州たちの方へ歩いてくる。
「九州」
「はい!」
直島は少しだけ頷いた。
「速くなった」
「!」
九州の顔が明るくなる。
また褒められた。
それだけで嬉しい。
西表島がにやにやする。
「よかったね〜」
「う、うん!」
夕焼けが海を染める。
今日も平和な一日だった。
遠征もない。
戦闘もない。
ただ友達と笑い合う時間。
それは九州にとって、かけがえのない宝物になり始めていた。
そして遠く深海の闇では。
黒い結晶を纏った巨大な影が、静かに目を開こうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




