第十八話 迷子の配達ドローン
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために学ぶ海上拠点。
超大型マリンモンスターの襲来からしばらく経ったが、大きな異変は起きていなかった。
そのため学園には穏やかな時間が流れている。
朝。
九州はいつものように教室へ向かっていた。
水の張られた廊下を滑るように進む。
窓からは青い海が見える。
今日は天気も良かった。
「いい天気だなぁ」
そんなことを呟きながら進んでいると。
ドンッ。
何かが足元へぶつかった。
「きゃっ!?」
九州が驚いて下を見る。
そこには小さな機械が転がっていた。
丸い金属製の機体。
プロペラが付いている。
「ドローン?」
どうやら配達用の小型ドローンらしい。
だが様子がおかしい。
くるくる回っている。
「ピー……ピー……」
明らかに迷っていた。
そこへ西表島がやって来る。
「おはよー!」
「イリエちゃん!」
「ん?」
西表島もドローンを見る。
「何これ?」
「迷子みたい」
するとドローンが急に動き出した。
ピピーッ!
そして全力で廊下を飛んでいく。
「あっ!」
「逃げた!」
九州と西表島は慌てて追いかけた。
バシャァッ!
水面を滑走する。
廊下を曲がる。
階段水路を上がる。
ドローンは止まらない。
「速い!?」
「待てー!」
西表島が叫ぶ。
その途中で佐渡島とも合流した。
「ど、どうしたの?」
「迷子ドローン!」
「えぇ?」
事情を説明する暇もない。
三人はドローンを追いかけ続けた。
ドローンは図書室前を通過。
訓練棟前を通過。
食堂横を通過。
なぜかどんどん学園の奥へ進んでいく。
「絶対道わかってないよね!?」
九州が叫ぶ。
「わかってないね!」
西表島も同意した。
そして。
ドローンは古い校舎区画へ飛び込んだ。
そこは現在ほとんど使われていない区域だった。
「こんな場所あったんだ……」
九州は少し驚く。
壁は古い。
窓ガラスも一部割れている。
島海学園が廃校だった頃の名残だろう。
佐渡島が少し不安そうに言う。
「なんか怖い……」
すると。
ピピーッ!
ドローンが突然停止した。
そして目の前の扉へ突撃した。
ゴンッ。
落下。
「……」
「……」
「……」
三人は顔を見合わせた。
「おバカさんだ」
西表島が言った。
九州も苦笑する。
扉を見ると『旧倉庫』と書かれている。
どうやらドローンはここへ来たかったらしい。
だが鍵が閉まっている。
その時。
後ろから足音が聞こえた。
振り向くと直島だった。
「何してるの」
「迷子ドローン追いかけてました」
九州が答える。
直島は床に落ちているドローンを見る。
「なるほど」
一言だけだった。
そして扉へ近付く。
鍵を確認する。
「開いてる」
「え?」
九州たちが驚く。
直島はそのまま扉を押した。
ギィィ……。
古い音を立てて扉が開く。
中には大量の物資が保管されていた。
工具。
部品。
食料箱。
そして。
棚の上に一つの荷物。
ドローンはそれを見て反応した。
ピピーッ!
「もしかして」
九州が言う。
「届ける途中だったのかな」
直島が荷物を確認する。
「整備班宛」
どうやら正解だったらしい。
西表島が笑う。
「迷子じゃなかった!」
「途中までは迷子だったと思う……」
佐渡島が小さく言った。
結局。
四人で荷物を整備班へ届けることになった。
整備班のおじさんは大喜びだった。
「助かった!」
「これ今日必要だったんだ!」
どうやら重要な部品だったらしい。
九州たちもほっとする。
ドローンはというと。
「ピー♪」
どこか誇らしげだった。
「なんか得意気」
西表島が笑う。
午後。
授業も終わり。
九州たちは食堂で休憩していた。
窓の外では夕日が海を赤く染めている。
「なんか今日は変な一日だったね」
九州が言う。
「ドローン追いかけただけなのにね〜」
西表島が笑う。
佐渡島も小さく微笑む。
「でも楽しかった……」
その時。
食堂の入口から小型ドローンが飛んできた。
あのドローンだった。
ピピー♪
そして。
なぜか九州の肩へ止まる。
「えっ?」
ドローンは満足そうに音を鳴らした。
「懐かれた!」
西表島が大笑いする。
九州も思わず笑ってしまった。
窓の外には夕焼けの海。
穏やかな波。
戦いのない平和な時間。
そんな日々が、今日も島海学園には流れていた。
そして誰も知らない。
遠く離れた深海の奥で、かつて直島が傷を負わせた超大型マリンモンスターの傷口から、黒い結晶のようなものが少しずつ成長し始めていることを。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




