第十七話 休日の釣り大会
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、人々を守るために学ぶ海上拠点。
超大型マリンモンスターの襲来からしばらくが経った。
警戒態勢は続いているものの、大きな異変は起きていない。
そんなある日の朝。
島海学園の食堂前には大勢の島娘たちが集まっていた。
「本日休日!」
先生がそう言った瞬間、あちこちから歓声が上がる。
「やったー!」
「久しぶりのお休みだ!」
「寝るぞー!」
九州も少し嬉しくなった。
まだ島海学園に来て日が浅いが、授業や訓練は意外と忙しい。
こういう休日は貴重だった。
その時。
西表島が勢いよく九州の肩を掴む。
「九州ちゃん!」
「わっ!?」
「釣り大会しよう!」
「釣り?」
突然だった。
佐渡島も首を傾げる。
「なんで釣り……?」
「海の学園といえば釣りだから!」
ものすごく雑な理由だった。
だが西表島は本気らしい。
「私、絶対大物釣る!」
「そうかなぁ……」
九州は苦笑する。
すると近くを通った先生が聞きつけた。
「釣りか」
三人が振り向く。
先生は少し考えたあと言った。
「なら外周防波堤なら許可する」
「ほんと!?」
西表島が飛び跳ねた。
「ただし危険海域へ近づくな」
「はーい!」
こうして即席釣り大会が開催されることになった。
数十分後。
島海学園外周防波堤。
今日は海も穏やかだった。
空は青く、潮風が心地よい。
九州は手渡された釣り竿を見つめる。
「釣り初めてかも」
「私もあんまりない……」
佐渡島も少し不安そうだ。
だが西表島だけはやる気満々だった。
「ふっふっふ」
なぜか腕を組んでいる。
「今日は伝説になる日だね!」
「何の?」
九州が聞く。
「西表島大漁伝説!」
「まだ一匹も釣ってないよ?」
佐渡島の冷静なツッコミが飛んだ。
そして釣り開始。
三人は防波堤へ並ぶ。
ぽちゃん。
仕掛けが海へ落ちる。
波が静かに揺れる。
「……」
「……」
「……」
五分経過。
誰も釣れない。
西表島がそわそわし始めた。
「まだかなぁ」
さらに十分。
静か。
「暇だね」
「釣りってこういうものだと思うよ」
九州が笑う。
その時だった。
ぴくっ。
九州の竿が動く。
「あれ?」
さらに強く引かれた。
「わっ!?」
竿がしなる。
「釣れた!?」
西表島が飛び上がる。
九州は慌てながらリールを巻く。
「お、おもい!」
魚が暴れる。
水面が跳ねる。
そして。
バシャッ!
銀色の魚が飛び出した。
「釣れたぁ!」
九州が歓声を上げる。
結構大きい。
三人分の夕飯になりそうなサイズだ。
「すごーい!」
西表島が目を輝かせる。
「九州ちゃん一番乗り!」
九州は少し照れた。
その後もぽつぽつ魚が釣れる。
佐渡島も小型魚を二匹釣った。
九州もさらに一匹。
だが。
「おかしい」
西表島だけ釣れない。
「なんで!?」
叫んでいる。
三十分。
ゼロ匹。
一時間。
ゼロ匹。
「なんでぇぇぇぇ!?」
九州と佐渡島は思わず笑ってしまった。
すると。
ググググッ!!
突然、西表島の竿が大きく曲がった。
「きたぁぁぁぁぁ!!」
ついに釣れた。
しかも大物らしい。
竿が大きくしなる。
「見てて!」
西表島は全力で引く。
「これは優勝だね!」
「がんばれー!」
九州も応援する。
だが次の瞬間。
ブチッ。
「あ」
糸が切れた。
静寂。
数秒後。
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
防波堤に悲鳴が響いた。
九州たちは大笑いだった。
そんな騒ぎの最中。
少し離れた場所では直島が一人で釣りをしていた。
静かに。
誰にも気付かれず。
そして。
ポチャン。
魚が釣れる。
ポチャン。
また釣れる。
ポチャン。
またまた釣れる。
気付けばバケツがいっぱいだった。
「……」
本人は無言。
そこへ偶然やってきた九州が目を丸くする。
「すごい……!」
直島は少し首を傾げた。
「普通」
「全然普通じゃないです!」
バケツの中には大量の魚。
圧倒的だった。
西表島が駆け寄る。
「ずるい!」
「ずるくない」
「なんでそんな釣れるの!?」
直島は少し考える。
そして。
「魚がいそうな場所に投げる」
「それがわかんないんだよぉ!」
西表島が叫ぶ。
九州は思わず笑った。
平和な休日だった。
戦いもなく。
警報も鳴らず。
ただみんなで笑って過ごす時間。
そんな一日も悪くない。
夕方。
釣った魚は食堂へ持ち込まれ、みんなで食べることになった。
食堂は賑やかな笑い声で溢れている。
九州は窓の外を見る。
夕焼けに染まる海。
穏やかな波。
今日も平和だった。
そして、その平和が少しでも長く続けばいい。
そう願いながら、九州は仲間たちの笑顔を見つめていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




