第十四話 水路掃除と宝探し
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で、島娘たちが暮らし、戦い、笑い合う海上拠点。
超大型マリンモンスター襲来から数日。
警戒態勢は続いていたが、学園には少しずつ普段の日常が戻り始めていた。
朝。
青空。
穏やかな海。
そして――。
「なんで掃除当番なのぉ〜!?」
西表島の叫び声が一階廊下へ響いていた。
九州は苦笑する。
「しょうがないよ、当番なんだから」
「えぇ〜……」
今日は授業前に水路掃除があった。
島海学園では廊下全体に海水が流れているため、定期的に掃除をしないと漂流物や海藻が入り込んでしまうのだ。
九州は長いブラシを持ちながら水路を覗き込む。
「わ、結構汚れてる……」
「昨日外海荒れてたからねぇ……」
佐渡島がゆっくり答える。
実際、水路の端には海藻や貝殻、小さな金属片まで流れ着いていた。
西表島はぷかぷか浮かびながらサボろうとしている。
「イリエちゃんも掃除!」
「はーい……」
全然やる気のない返事。
だが次の瞬間。
「おっ?」
西表島が何かを拾い上げた。
「見て見てー!」
「ん?」
九州が近づく。
それは小さな古びた瓶だった。
ガラス製。
中には紙が入っている。
「なにこれ?」
「漂流瓶……?」
佐渡島が首を傾げる。
西表島が目を輝かせた。
「宝の地図かも!」
「そんなわけ……」
九州が苦笑する。
だが少し気になった。
西表島は勢いよく栓を抜く。
中の紙を取り出す。
「なになに〜?」
紙はかなり古かった。
文字も少し滲んでいる。
『もしこれを見つけた人へ』
三人が顔を見合わせる。
「ほんとに手紙だ」
九州が驚く。
西表島が続きを読む。
『私は今、北方海域の漂流船にいます』
『海は怖いです』
『でも、生きて帰りたい』
そこまで読んだところで、空気が少し静かになった。
佐渡島がぽつりと言う。
「漂流者の手紙……かな」
この世界では珍しくない。
海が広すぎるのだ。
補給船が沈むこともある。
漂流する人もいる。
西表島は珍しく真面目な顔で手紙を見ていた。
『誰かが見つけてくれることを願います』
最後はそこだけ読めた。
文字は途中で消えていた。
九州は少し胸が苦しくなる。
「……助かったのかな」
「どうだろうねぇ」
西表島が静かに言う。
いつもの明るい声ではなかった。
海は綺麗だ。
だけど同時に、とても怖い。
その現実を感じる。
すると後ろから声。
「掃除中に遊ぶな」
「わぁっ!?」
三人が同時に振り返る。
直島だった。
いつの間にか後ろにいる。
九州はびくっとする。
「す、すみません!」
西表島が瓶を見せた。
「でもこれ見つけたんですよー!」
直島は瓶を見る。
少しだけ目を細めた。
「……漂流瓶か」
「知ってるんですか?」
九州が尋ねる。
直島は静かに頷く。
「昔はよく流れてた」
「昔?」
「海が今より荒れてた頃」
直島は瓶を手に取る。
「助けを求める人は多かった」
九州は少し黙る。
この世界はまだ完全には平和じゃない。
島海学園は守られている。
でも海のどこかでは、今も苦しんでいる人がいる。
直島は瓶を九州へ返した。
「保管室へ届けるといい」
「はい!」
すると西表島がにやっと笑う。
「直島先輩も掃除ですかー?」
「当番」
「なんか親近感!」
「……そう」
直島は相変わらず淡々としていた。
だが少しだけ空気が柔らかい。
九州はそれが嬉しかった。
その後、四人で掃除を再開する。
……が。
「イリエちゃんちゃんと掃除して!」
「してるしてるー!」
「水かけてるだけだよぅ……」
西表島は水流で遊び始めていた。
しかも勢い余って――。
バシャァァッ!!
「きゃっ!?」
九州へ大量の水がかかる。
「イリエちゃーん!?」
「あはははっ!」
西表島は爆笑。
九州も負けじと水を返す。
「えいっ!」
「うわっ!?」
そのまま水掛け合戦へ発展。
佐渡島も少し巻き込まれる。
「わ、わぁっ……!」
廊下に笑い声が響く。
そして。
直島は少し離れた場所でその様子を見ていた。
静かに。
だけど。
ふっと、小さく笑う。
その瞬間。
西表島が気づいた。
「……あっ」
九州も気づく。
「え?」
直島はすぐ無表情へ戻った。
「掃除終わらせる」
「い、今笑いました!?」
「笑ってない」
「絶対笑いましたー!」
西表島が騒ぐ。
直島は何も言わず先へ進んでいく。
だが耳が少し赤かった。
九州は思わず笑ってしまう。
潮風が吹く。
海が揺れる。
戦いばかりじゃない。
こういう日常も、この学園には確かにあった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




