第十話 閉ざされた退路
ここは《島海学園》。
海に沈んだ世界で人類の最後の希望となる、島娘たちの拠点。
だが今、その外周海域は静寂ではなかった。
ズモォォォォンッ!!!
海面が裂けるように盛り上がり、黒い巨影が姿を現す。
超大型マリンモンスター。
その姿は、もはや生物というより“災害”そのものだった。
無数の触手のような影が海中から伸び、空気を震わせる咆哮が響く。
「キシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
九州の顔が青ざめる。
「ちょ、超大型…………?」
その声は震えていた。
海面がうねる。
空間そのものが歪むような圧。
先生の表情が一瞬で変わる。
「な!?これは!」
西表島は固まったまま動かない。
「…………」
佐渡島は息を呑む。
「大きい……」
九州はただその異形を見上げるしかなかった。
先生が即座に叫ぶ。
「皆さん!全速力で逃げなさい!」
「え!?でも、先生が……!」
島娘の一人が叫ぶ。
先生は強く首を振る。
「構わないで!私より、皆さんの方が大事です!!」
その瞬間だった。
ズゴォッ!!
超大型の周囲から無数の影が飛び出した。
中型マリンモンスター群。
魚型、甲殻型、混合型。
数十体。
一斉に海面へ浮上する。
「囲まれてる……!」
九州が声を上げる。
退路が消えていた。
海上訓練区域。
だが今は戦場。
完全な包囲網だった。
「ど、どうしよう……どうにかして道を……」
九州は周囲を見回す。
だがどこにも隙間はない。
海が壁のように塞がれている。
西表島が歯を食いしばる。
「やるしかないじゃん……!」
だが敵の数は多すぎる。
佐渡島が震える声で言う。
「こんなの……」
先生が前へ出ようとした瞬間だった。
九州が叫ぶ。
「待ってください!」
全員の視線が集まる。
九州は必死に周囲を見る。
「このままだと……全滅します!」
「わかっている!」
先生の声が鋭く響く。
その時、西表島がはっとする。
「そうだ~、佐渡ちゃん!金生成の能力あるよね?それで!」
佐渡島がびくっとする。
「で、でも、私のは島核能力は弱すぎて……」
「大丈夫!少しだけ時間をかせげれば!」
九州が強く頷く。
「私も動きます!」
佐渡島は震えながらも、ゆっくりと手を握った。
「…………うん、やる!」
海面の水が揺れる。
佐渡島の周囲に淡い光が走る。
「島核展開……」
その声と共に、水面近くの金属片、沈んだ残骸、漂う破片が反応する。
「《海底金変成》……!」
瞬間。
周囲の無機物が金色へと変化していく。
海底の破片。
沈んだ建物の鉄骨。
補給コンテナの残骸。
それらが次々と黄金へ変わる。
だが――。
「うぅっ……!」
佐渡島の身体が揺れる。
「まだ……制御が……」
変化が不安定だった。
金が流れ、形を保てない。
それでも。
海中に巨大な構造物が形成されていく。
金の足場。
即席の防壁。
水流を遮る壁。
「いける……!」
九州は目を見開く。
「これで道が……!」
しかし中型マリンモンスターが殺到する。
ガギャァァッ!!
金の壁へ激突。
だが完全には止めきれない。
「持たない……!」
先生が叫ぶ。
「全員、後退しろ!」
その時だった。
遠くの海面が一瞬だけ静かになる。
そして――。
ズバァァァン!!
白い閃光。
海が裂ける。
一体の中型マリンモンスターが真っ二つに切断された。
さらに続く影。
次々と斬撃。
水面を滑る影が一瞬で敵を屠っていく。
九州の目が見開かれる。
「え……?」
そこにいたのは。
白髪。
大剣。
直島だった。
「直島先輩……!」
さらに後方。
水面を高速で駆ける複数の影。
入砂島。
他数名の上級島娘たち。
「遅くなったねぇ」
入砂島が軽く言う。
そのまま潮流が爆発する。
ズドォォォッ!!
一瞬で中型群の包囲が崩壊した。
先生が息を吐く。
「増援か…………助かった」
直島は無言のまま海面を見ていた。
その視線の先。
超大型マリンモンスター。
ゆっくりと動き出す。
ズゴゴゴゴ…………。
海そのものが持ち上がるような圧。
イリナが小さく呟く。
「これは…………本格的にまずいねぇ」
九州は震えながらも目を離せなかった。
超大型がゆっくりと口を開く。
空気が震える。
海が割れる。
そして――。
次の瞬間、全員の端末に警報が鳴る。
《遠征訓練中止》
《全隊、島海学園へ撤退命令》
先生が即座に叫ぶ。
「撤退だ!!全員戻れ!!!」
イリナが振り返る。
「九州ちゃん、行くよ!!」
西表島が叫ぶ。
「走れー!!」
佐渡島は必死に金の構造を維持しながら後退する。
直島は一瞬だけ超大型を見上げたあと、静かに言った。
「……今は戻る」
海面が揺れる。
背後では超大型マリンモンスターがゆっくりと追随を始めていた。
その圧は、海そのものが迫ってくるようだった。
九州は走る。
水面を滑る。
必死に。
ただ生き残るために。
島海学園へ向かって。
そして海の奥で――超大型の影が、再び大きく口を開いた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




