15話 戦後一年 北米基地 ③
えー、ナツメです。恥ずかしいところを、はい。
記憶を消してくださいお願いします。
今は基地内の訓練室でユイとルームランナーで走ってます。
私は普通にトレーニング。ユイは……乙女の何とかって言ってました。
太った?って聞いたら本気でちょっと死を覚悟しました。怖かった。
さて、私たちの式典が終わって半月くらい。個別取材は厳禁ってことに決まって、対応は全部偉い人たちがしてくれるそうです。その代わり偉い人との面会には呼び出されるけど、囲まれたりしないしありがたやありがたやです。
なんだかんだ言っても、文化維持用訓練されてたほんの一部の人たち以外は皆1年前まで軍人。禁止されたらやらないは骨の髄までしみこんでるハズ。
これで元通りの生活に戻れ ……るはずだよね? え? これ、フラグってやつ? 違うよね?
そうはいっても私らアラスカ帰還者隊全員が超有名人状態。地上の民間区画で気づかれたら大騒ぎになるから、止める権限はないけど、お願いだからしばらくは出歩かないでと警備の人たちに泣きつかれた結果、地下基地の元居住区の一角が居場所になっちゃってる。
まああの騒ぎの主役だから言いたいことはわかるんだよね。地下だって言ってもアラスカの冬ごもりに比べたらどうってことはないし、ご飯もおいしいし快適ではあるんだけどさ。
そんな私にとってはわりと快適な日々が戻ってきたんだけど、そんなことより。私たちアラスカ帰還組に、早急に決めなきゃいけないことが2つ出てきました。
1つ目は今後どうするのか。
2つ目は年齢固定処理を解除するかどうか。
今後の人生に関わるからよーく考えてねってユイからお達しされたんだけど、私、日本に帰るって前に言ったと思ってたんだけどな。帰った後はユイが引き取ってくれるって言ってくれてたし。えへ。
だから今後はいいとして、年齢固定のほうなんだよね。
皆どうするのかな……聞いてみよ。
そう思って、まだ走ってるユイに聞いてみた。
「ねー、ユイ、固定どうするの?」
「んー、解除するよ」
「即答だね」
「戦争も終わったし、子どもも欲しいし。それに、ちゃんと年取って死にたいじゃない。あと」
「あと?」
「いつまでもこのままだと、戦争続いてるみたいだからイヤ」
「うーん」
分かる気もする。
他の皆はどうなんだろ?
「ユイー、みんなのとこ行ってくる」
「気を付けてね、迷子になったら、ちゃんと近くの誰かに聞くんだよ?」
「ならないよ!?これでも前にここに居たんだから!」
「あっはっは、あ、そうだ」
ユイがランナーを止めて、肩で息をしながらこっちを向いた
「流されると多分後悔するから、自分で決めなね?」
う。全部ばれてる。
「……わかった」
「よろしい。行っといで」
「行ってきまあす」
◇
「自分で決めろ、かあ」
今までずっと命令命令だったから、自分で決めるのって苦手なんだよね。
どうしたらいいのかなあと考えながら通路を歩いていたら、ちょうどハロルドが部屋から出てきたところだった。
「おっす」
「おうナツメ、おはよ」
今まで寝てたなこいつ。寝ぐせついてるよ。
「ハロルドはこれからどうするか決めた?」
「急にどうした?まあ俺は当面はここに居つこうかなって。帰る先もないし」
「そっか……」
「ナツメはユイと帰るんだっけ? 日本は遠いよなあ」
「ん…… ねえハロルド。固定、どうする?」
「ああ。俺は解除するつもり」
即答されちゃった。迷わないのかな。
「どうして?」
「やっと戦争終わったんだぜ? 嫁さんも欲しいし子どもも欲しいからな!」
「子ども、かあ」
ユイも言ってたけどぴんと来ないんだよね。
「お相手は?」
「これから探す!」
そっか。でも……
「ハロルドにお相手、見つかるの?」
「見つかるに決まってるだろ。俺だぞ?」
「希望的観測は全滅の元だよ?」
「てめえ!!」
やば!? 逃げろー!!
◇
ハロルドから逃げて飛び込んだのは、ジョンの仮診療室だった。
正規の軍医さんもいるのに、なんかみんな体調の相談はジョンの所に相談に行くんだよね。
ジョンのほうも毎回部屋に押しかけられちゃかなわないってことで空き部屋を借りて、昼間は大体ここに居るんだ。
「ナツメ、今日は何かな?」
「ごめんジョン、しばらく匿って!」
「今度は誰に何やったの」
そんな眼鏡置いてため息つかないでよ!
「な、何もしてないよ?」
「匿っての時点で説得力がないって理解しようね?」
ごめんなさい。全部その通りです。
あ、ちょうどいいや。聞いてみよ
「ねー、ジョン」
診察の時に座る、くるくる回る椅子に勝手に座って話しかけた。
「ジョンはこれから、どうすんの?」
「医者はどこでも必要だからね。ここの居住区でもいいし、復興街ができるならそっちへ行ってもいいし。しばらくはここに残るよ。」
そっか。お医者さんなら引く手あまただもんね。
「……固定、どうすんの?」
「そのままにするよ」
即答された。
「そのままって、どうして?」
「外へ行くなら動けるほうがいいし、それに……」
机の上にはアラスカでは飾ってなかった写真立て。ジョンと…奥さんらしい人が笑ってる。
「彼女以外と結婚する気はないからね」
「……そっか。」
何も言えなくなっちゃった。
◇
ユイ、ハロルド、ジョン。皆の話がぐるぐるする。
あーもう、わかんなくなってきた!
集会場に誰かいないかなー……あ、声がする。
覗いてみたら、セルゲイさん達歩兵隊にクローディアさんが加わっていた。
「……ナツメか」
レンさんに即見つかった。偵察兵に見つからないようにってのは無理か。
「ようミーシャ、お前も来いよ」
セルゲイさんに呼ばれたんで寄ってみたら、テーブルの上にいい匂いのお鍋が載ってた。
皆の手元にはカップが置かれてる。
「あ、何? おやつ? 私も食べる!」
「はいはい英雄殿」
「やだー!! それやだー!! やめてよもう!!」
「悪い悪い。ほれ」
カップにたっぷり。鶏肉とお米、あと細かく刻んだ野菜がたっぷり。チキンスープだ。
「もー、ほんとに嫌なんだからやめてよぉ」
いい匂い。スプーンも貰っていただきまーす!
「美味しい!」
一気に掻きこむ私をみて皆ニヤニヤしてる。何?なんか変なこと言った?
「ほれ、お墨付きが出たぞ」
ってセルゲイさんが伍長たちのほうを見た。
うえ!? 慌てて二人を見ると、伍長はそっぽを向いていて、クローディアさんは照れたように頬を赤くしていた。
なんで!? 私とセルゲイさん達含めて調理場追放隊だったじゃない!?
「ナツメが出てこない間、アレックスに教わってた」
「……火の強さは一定ではいけない」
嘘ぉ!? これ、え、ええええ!?
「裏切りものぉぉぉぉ!」
「そんなこと言われても、困る」
「……何回呼んでも出てこなかったのはお前だ」
困った顔のクローディアさんとお前が悪いって顔した伍長。
その通りです、ええ、その通りだけど、納得できないー!!!
納得できないけど美味しいよううぇーん!!
「ごちそうさまー」
「よっし、ナツメはクリアだな」
「でもナツメはなんでも旨いっていうからあまりあてにもならないような」
なんか今聞き捨てならないこと言われた気がする!?
ってそうだよ、チキンスープでグダグダになったけどそこじゃない!
「ねえ、みんなは固定どうするの?」
「解除するよ」
真っ先に答えてくれたのはクローディアさんだった。
「なんで?」
「解除できるうちにしておきたいから」
荷物を畳みながら、さらっと答える。
「いつでも解除できる保証なんてない」
「あ……」
その言葉に、私は何も言えなかった。
「……それに」
クローディアが少し離れた方を見る。
つられて視線を向けると、入り口の陰からこっちを見ていたドノバンと目が合った。
「あ、え、はは」
おずおずと出てくるドノバン。
クローディアは小さく笑った。
「ひょっとしたら、何か変わるかもしれないし」
「変わる?」
「秘密」
そう言って食器をまとめてカウンターの中へ行っちゃった。
その秘密の所が効きたいんだけどなあ……。
「セルゲイさんたちは?」
「俺はするよ。せっかく戦争終わったんだからこれから人生楽しまないとな!」
セルゲイさんはいつも通り熊みたいに笑ってる。
「……俺は、隊長に合わせる」
ゴッ!ぼそっと言った伍長の頭にセルゲイさんの拳骨が落ちた
「人任せにしないで自分で考えやがれ!」
「……了解だ、隊長」
頭を押さえながら答える伍長にちょっと笑ってしまった。
「俺は解除するよ」
いつの間にか入ってきてたドノバンさんがクローディアさんのほうをチラチラ見ながら教えてくれた。
「俺はしばらく様子見かな」
お鍋を片付けてたチャンさん。
皆バラバラだ。でも、ちゃんと自分で決めてる。
「わしゃ解除せんぞ」
奥のカウンターでは、グエンおじいちゃんがいつものように酒をちびちびやっていた。
「え、おじいちゃんはしないの?」
「今さら解除したところでな。どうせならこのまま死ぬまで元気で、ピンピンコロリと逝きたいわい」
「あんたが言うとシャレにならないんだよ」
セルゲイさんが頭を掻いてる。
「悪い悪い。儂だってそんな簡単に逝く気はないが、もう身内も居ないしな」
「もう戦争終わったんだよ、死ぬとか言わないでよぅ」
グエンおじいちゃんのごつごつした手が乱暴に私の頭をなでる。
「ヒャッヒャッヒャ、簡単には死なんよ。周りから『まだ生きとるんかあのクソ爺』と言われるくらい長生きしてやるわい」
「勘弁してくれよ」
セルゲイさん達がうえって顔してる。
「それにな、ガウ……ナチュメ、戦争は終わったんだ。間違えても、またやり直しゃええ」
「!……やりなおして、いいんだ」
「生きてるうちは何回でもな」
そうか。そうだよね! もう戦争中じゃない、やり直していいんだ!
「わかった!ありがと!」
うん、決めた! そうだよね、やり直していいんだよね!
「ユイー! 決めたよー!」
一番最初に言わなきゃいけない相手を探して、私は基地内を走り出した。




