14話 戦後一年 北米基地 ②
えーと、ユイです。
ナツメが「パーティー怖い、偉い人怖い、取材怖い」って籠もっちゃったので、今回は私がお送りします。
あの後、あてがわれた区画で夕飯を済ませた後、まず始まったのはナツメの査問会でした。
はい被告ナツメ、そこへ正座。あ、敷物は使っていいからね。
奥のソファーの所からクッションが放り投げられてその上に素直に正座するナツメ。
「なんで黙ってたの!?」
仕切りはなんか代表みたいになったから私。今まで黙ってた理由、何もなかったら許さないじょ?
「あ、えっと、だって基地についたころはまだ言っちゃダメだったし、解除されて以降は言う機会もなかったし……」
小さくなってもじもじしながら上目遣いで答えてくれた。かわいいじゃねえか。危うく許しそうになったわ。
「……それもそうか。ってそういう事なら他にも関係者いるんじゃない? はい、ナツメ以外の関係者、挙手!」
恐る恐る手が上がってくる……多いな!?
セルゲイさん、チャンさん、ドノバンさん、ノヴァクさんに……クローディアとレンさんもかい!
「皆仲間だったのに酷い!? とりあえず正座!せーいーざー!!」
飛び交うクッション。全員並べて正座させて。
まあ強化兵二人はナツメと同じ理由だろうから不問として、セルゲイさんたちはなんで黙ってたの!?
え、参加作戦は軍機?
いや、それはそうだけどさぁ!
アラスカで許可出たじゃん!?
「出てないぞ?」
セルゲイさんに反論された。
そんな馬鹿な……。
あああ!? そういえばナツメたちの帰還許可とプロテクト解除以外、なんも言われてない!
危なー。軍機漏らしたりしたら下手すりゃ銃殺じゃん……。
普段いいかげんなおっちゃんたちに見えても、中身はちゃんとした軍人だったってことか。
助かりました。ええ、心底そう思います。
あんな状態では軍規も何もないんじゃ、とは思わないでもないけど、まあそこはそれ。
ルール厳守してくれる人たちじゃなかったら、アラスカで生き残れなかったかもしれないし。
「でもみんな水臭い―!! こっそり教えてくれてもいーじゃん!!」
ぶんむくれる私。
「なあミーシャ、アイツ、言ってることとやってること違わないか?」
「ひょっとして、仲間外れにされてさみしいってやつ?」
セルゲイさんとナツメが正座したままぼそぼそ言い合ってる
ち、ちがうわい! そんなんじゃないんだからね!
「ユイは、なんだかんだでさみしがりや」
「いつもナツメ侍らせてるからな」
クローディアとレン伍長にまで突っ込まれた!?
ニヤニヤしながら正座してるみんなの目線で顔が熱くなってく
チクショウ、気心知れてる連中はこれだから!
「うきー!! もういい! 明日も色々あるんだから就寝! しゅーしんー!! 寝坊したら許さないんだからね!」
追い散らしてやりました。皆そそくさと逃げてく中、しびれて立てなくなってる連中……セルゲイにチャンに……あ、クローディアと伍長も。
ふっふっふ、狙い通り。ここからが本番です。
ほーれ立て立て、部屋閉めるよ。けけけ、結構いい声で鳴くじゃねーか。伍長は無言で悶絶してるなうけけけけけけ
なんかナツメがドンビキした目で見てた気もするけど気にしない!
そのあとはみんな旅疲れもあったのか、あっという間に爆睡です。
個室に分けられてたんですが、「一人はやだ」ってナツメが私の部屋に潜り込んできてたのはご愛敬。
結局、帰還式典は三日後となりました。
私たち全員分の礼服のサイズ合わせとか、来賓の調整とかにそれだけかかったそうで。
私たちとしては「そんな大げさなことしなくても」っていうのが総意だったんですけど、戦後1年たって集団で生還したのが大ニュースらしく、どうやっても式典からは逃げられませんでした。
この時点でグエンさんやセルゲイさんたちは「普通の式典じゃないな」と予想がついてたみたいです。
ナツメの礼服のサイズ調整の回数や、アイアンビッチの中の様子の聴取回数を見てれば一目瞭然です。なんで本人は気づかないかな。
本人は「出来合いでいいのになんで私ばっかりこんなに何度もやるのー?」とかぶー垂れてましたけど、「あなたのサイズなんてそんなにないんだからあきらめなさいよ」て誤魔化しときました。
サイズ調整の合間に「偉い人いっぱい来るんだよね? 目立たないように隅っこにいるから。パーティーのご飯楽しみ!」なんていつも通りなこと言ってたけど、たぶん主役はあなただよ?
……誰も教えませんでしたけど。やっぱみんな黙ってたことにおもうところあったんだな。南無。
そして帰還式典当日。
アラスカ基地のみんながステージに並ばされるのは、まあ当然ですよね。
ただし、ただの帰還者祝賀会では終わりませんでした。
まず、アイソレーション・プランの説明。私らはプラン自体知らなかったんですけど、公式にも最終作戦って呼称だったのは初めて知りました。命名者、今頃頭抱えてるのかな……生きてれば。
作戦内容のあまりの無茶さに会場が静まり返ったところから、なんで今こんな話?……まさか?の流れになったところで、
まずはウイングマン隊の生還者としてセルゲイさんたち6人が呼ばれました。
現大統領から直々に、今回帰還者のために創られた勲章を説明の上でつけられて。
「光栄です」
なんて、見たこともない真面目な顔で答えてるのを、私は待機席で拍手しながら見ていました。
会場はよくやった!とかおかえり!の絶叫と、万雷の拍手の嵐です。
……ここまでは、まだ良かったんです。
「――ポイントマン隊、唯一の帰還者です!」
その一言が響いた瞬間、会場が一瞬で静まりました。
係の人が一直線にナツメのところへやってきます。
「こちらへどうぞ」
「え?」
きょとんとした顔で、「え、私?」と言いたげに辺りを見回すナツメ。
その小さな身体を、横にいたフレディ少将がひょいっと抱え上げます。
「ほれ。今日の主役はお前だ。行くぞ?」
「え、え、え?」
行かなきゃダメなの?って顔でこちらを見るので、
「式典終わらないとパーティー始まらないよ?」
って教えてあげたら、諦めたみたいに連れて行かれました。
本人は何をさせられているのか理解できないまま、気付けば壇上の一番前。
大統領や将軍が並ぶ列のど真ん中で、あわあわしているタイトスカート姿の小さな女の子。
……ごめん、ナツメ。
私、笑わないようにするだけで精いっぱいでした。
その後はもうさっき以上の大騒ぎです。
紹介でざわついて、一拍置いてパラパラからの万雷の拍手。
基地司令が出てきて帰還おめでとうと握手したと思ったらそのまま隣にいた大統領にハグされて。
解放されたら大統領直々に、セルゲイさんたちより一回りおっきい勲章を掛けられて、大統領と握手したままフラッシュの嵐。
そのまま大統領と司令の間に置かれて長々とどんだけ大変だったのか、どうやって一人だけ生き残れたのかを、聴取内容を元にした脚色400%くらいで語られました。ナツメ、好きな人なんていたんだね。へぇ。
本人は最初から最後まで虚無顔。エピソードが語られるたびに誰の事!?って顔であちこち見回してました。
拍手が鳴り響く中ようやく席に戻ってきたナツメに、ものすごく恨めしそうな涙目でにらまれて。
「ごめんごめん」
なんて謝ってたら、司会の人が続けました。
「そして、彼らを支え、絶望的な状況の中で冬を越し、全員を生還へ導いたアラスカ前線基地生存者の皆さんです」
……ちょっと待ってください。
今度は私たちですか?
基地組みんなで顔を見合わせている間にも、「どうぞ、こちらへ」と案内されてしまいました。
基地に残っていた私たちとしては、みんなと一緒に冬を越すのに必死だっただけなんです。
でも、
「彼らがいなければ、誰一人として帰還することはできませんでした」
そう言われたら、逃げられませんでした。
ナツメの時よりは控えめだけど拍手も歓声も貰って。特別なのじゃないけど勲章も。
なんか、感無量です。
ようやく式典が終わって、そのまま祝賀パーティーです。
ナツメは事前に、
「思いっきり食べるからね!」
って張り切ってましたからね、ここからが本番だって顔してました。
大きなホールに並ぶ、アラスカでは見たこともないような料理ばかり。
ナツメは、どれから突撃しようかって真剣そのものの顔で料理を見回してました。
……でも、それも一瞬でした。
会場へ入るなり、
「ささ、主役はこちらへ!」
って基地の偉い人や政府のお偉方に捕まって
「乾杯の合図を!」
「握手を!」
「生還おめでとう!」
あっちへ、こっちへ。
ナツメは終始、
「え、私? これからご飯……」
と、今にも泣きそうな顔で連れ回されていました。
もちろん、私たちにも挨拶や取材はありました。
でも、一番人気だったのはやっぱりナツメです。
『小学生くらいにしか見えない女の子が、人類史上最大の戦争を終わらせた』
そんな話、放っておく人はいません。
偉い人たちへの挨拶が終わった途端、
「今のお気持ちは!」
「最後の戦いについて!」
「一枚お願いします!」
あっという間に人垣ができました。
逃げ出そうにも、下手に動くと誰かを怪我させるかもしれない。
そう思うと、強化兵の力なんて使えません。
だから、その場で、おろおろ、きょろきょろ。
助けを求めるように辺りを見回して、見回す先にもマイクの砲列。
くるくると向きを変えながら、一つ答えてはまた別の質問。
逃げ場なんて、どこにもなくて。
そして。
「もう、むり……」
きゅう。
糸が切れた人形みたいに、その場へ崩れ落ちてしまいました。
もちろん会場は大騒ぎです。
「ちょ、ナツメ!?」
「おい、ミーシャ!?」
慌てて駆け寄ろうにも人込みが邪魔で身動きとれないでいると、セルゲイさん達が人込みを掻き分けてダッシュしてきたんで、
便乗してなんとかたどりつきます。
「ナツメ、大丈夫?!どうしたの!?」
完全に目を回してました。
「ジョン! ジョンどこ!?」
その時、きゅーころころとナツメのお腹が、盛大に鳴りました。
うん。大丈夫だこれ。
セルゲイ達に持ち上げられてリレーされてきたジョンが診てくれた結果は、
「極度の緊張だろ。なんか食べれば治る」
とのこと。
そのあと宿舎まで丁重に運ばれたんですが、目を覚ましてからずっと、
「パーティー怖い、偉い人怖い、取材怖い」
って布団に潜り込んだまま、ミノムシみたいになって出てきません。
戦争の中では、人に命令されて動くのが当たり前だった子です。
大勢の人に笑顔で囲まれて、一斉に取材される。
しかも、自分がその主役。
そんな状況、経験したことがあるはずありません。
気持ちはわかるんです。
わかるんですけど。
「ナツメー、せっかく取っておいてもらった料理、みんなで食べちゃうよ?」
布団のミノムシが、もぞりと動きました。
……でも、まだ出てきません。
うん。
これは、もう少し時間がかかりそうです。




